記事・レポート
「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ
~アラブ美術のツボがわかるニュース解説~
政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年09月25日
(火)
第7章 本当にFacebookがジャスミン革命を引き起こしたのか?
池上彰: 2010年の暮れにチュニジアで起きた民主化運動は、独裁政権が多かったアラブ諸国に次々に広がっていきました。これが「ジャスミン革命」と呼ばれるのは、チュニジアの国花がジャスミンで、この国から改革が始まったからです。
事の始まりは、チュニジアで失業中だったある若者の焼身自殺でした。彼が野菜や果物を街頭で売ろうとしたら、警察官に「勝手に屋台を出すな」と言われ、没収されてしまいます。警察は賄賂が欲しかったのですが、一本気な青年は賄賂を払わず、役所に抗議に行きます。しかし全く相手にされなかったため、抗議の焼身自殺をするのです。
焼身自殺は、イスラム教徒にとっては衝撃的なことです。なぜならイスラム教においては、世界の終わりに人々はよみがえり、神様の審判を受けて、天国に行くか地獄に行くかが決まると考えられているからです。焼身自殺をしたら体がなくなるので、よみがえることができず、神さまの審判を受けることができません。あまりにも衝撃的な抗議行動だったため、瞬く間に広がっていったのです。
「TwitterやFacebookが革命を引き起こした」と言われていますが、これは必ずしも正確ではありません。チュニジアもリビアもエジプトも、識字率は決して高くありませんし、そういう人はパソコンを持っていません。ですからそもそもTwitterやFacebookなんてできない人が圧倒的多数です。
ただし、若者たちはこれを使うことで、抗議運動への参加を呼びかけられるようになりました。例えばエジプトでは「金曜日の礼拝のあとに、タハリール広場に集まろう」と。それでも最初はほんの一握りしか集まりませんでした。独裁政権下では言論統制が厳しいため、政権寄りの報道しかないので広がりを持たなかったのです。
ところが、アルジャジーラというテレビ局がこれを報道します。アルジャジーラはカタールの首長(王様)がポケットマネーでつくった放送局です。もともとはBBCがアラビア語のニュースチャンネルの開設を準備していたのですが、このプロジェクトが途中で頓挫したために、BBC流の言論の自由を貫く訓練を受けたジャーナリストたちが行き場を失い、アルジャジーラの記者になったのです。
アルジャジーラは衛星放送ですので、アラブ圏一帯に伝わります。読み書きができない人もアラビア語はわかるし、テレビは見られるので、アルジャジーラの報道で「毎週金曜日の礼拝のあとに、タハリール広場に反政府運動の人たちが集まっている」と知った人たちが、どんどん集まるようになり、ついには政府を転覆するに至ったのです。
TwitterやFacebookが改革の引き金になったことは確かですが、あれだけ多数の人々のうねりになったのは、言論・報道の自由を貫くアルジャジーラというアラビア語放送があったからなのです。
事の始まりは、チュニジアで失業中だったある若者の焼身自殺でした。彼が野菜や果物を街頭で売ろうとしたら、警察官に「勝手に屋台を出すな」と言われ、没収されてしまいます。警察は賄賂が欲しかったのですが、一本気な青年は賄賂を払わず、役所に抗議に行きます。しかし全く相手にされなかったため、抗議の焼身自殺をするのです。
焼身自殺は、イスラム教徒にとっては衝撃的なことです。なぜならイスラム教においては、世界の終わりに人々はよみがえり、神様の審判を受けて、天国に行くか地獄に行くかが決まると考えられているからです。焼身自殺をしたら体がなくなるので、よみがえることができず、神さまの審判を受けることができません。あまりにも衝撃的な抗議行動だったため、瞬く間に広がっていったのです。
「TwitterやFacebookが革命を引き起こした」と言われていますが、これは必ずしも正確ではありません。チュニジアもリビアもエジプトも、識字率は決して高くありませんし、そういう人はパソコンを持っていません。ですからそもそもTwitterやFacebookなんてできない人が圧倒的多数です。
ただし、若者たちはこれを使うことで、抗議運動への参加を呼びかけられるようになりました。例えばエジプトでは「金曜日の礼拝のあとに、タハリール広場に集まろう」と。それでも最初はほんの一握りしか集まりませんでした。独裁政権下では言論統制が厳しいため、政権寄りの報道しかないので広がりを持たなかったのです。
ところが、アルジャジーラというテレビ局がこれを報道します。アルジャジーラはカタールの首長(王様)がポケットマネーでつくった放送局です。もともとはBBCがアラビア語のニュースチャンネルの開設を準備していたのですが、このプロジェクトが途中で頓挫したために、BBC流の言論の自由を貫く訓練を受けたジャーナリストたちが行き場を失い、アルジャジーラの記者になったのです。
アルジャジーラは衛星放送ですので、アラブ圏一帯に伝わります。読み書きができない人もアラビア語はわかるし、テレビは見られるので、アルジャジーラの報道で「毎週金曜日の礼拝のあとに、タハリール広場に反政府運動の人たちが集まっている」と知った人たちが、どんどん集まるようになり、ついには政府を転覆するに至ったのです。
TwitterやFacebookが改革の引き金になったことは確かですが、あれだけ多数の人々のうねりになったのは、言論・報道の自由を貫くアルジャジーラというアラビア語放送があったからなのです。
「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ インデックス
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第1章 まずはアラブ世界とイスラム世界と中東の違いを整理しましょう
2012年09月10日 (月)
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第2章 キリスト教は、言わばユダヤ教の改革版
2012年09月11日 (火)
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第3章 イスラム教は、ユダヤ教とキリスト教の流れを汲む
2012年09月13日 (木)
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第4章 イスラム世界のスンニ派とシーア派が対立する理由
2012年09月14日 (金)
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第5章 中東問題とは?
2012年09月18日 (火)
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第6章 イギリスの三枚舌外交がアラブ世界をごちゃごちゃにした
2012年09月24日 (月)
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第7章 本当にFacebookがジャスミン革命を引き起こしたのか?
2012年09月25日 (火)
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第8章 アラブ世界に広まる民主主義のジレンマ
2012年09月27日 (木)
-
第9章 【番外編】池上彰が観た「アラブ・エクスプレス展」
2012年09月28日 (金)
該当講座
池上彰 (ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)
長期独裁政権下に置かれたアラブ諸国の民衆が、民主化を求め立ち上がった「アラブの春」。チュニジアから端を発した民主化運動は、隣国のエジプト、リビアに飛び火し、各国で続いた長期独裁政権を崩壊させる結果となりました。 アラブで起こった一連の民主化運動は、FacebookやTwitterなどのSNSが民衆....
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