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「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」in 六本木アートカレッジ

~アラブ美術のツボがわかるニュース解説~

政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年09月11日 (火)

第2章 キリスト教は、言わばユダヤ教の改革版

池上彰(ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)

池上彰: 次に、ユダヤ教とキリスト教とイスラム教の関係を整理しましょう。まずはユダヤ教とキリスト教からです。

現在のイスラエルがあるあたりに、今から2000年以上前まで、ユダヤ教の王国がありました。ユダヤ教は「ヤハウェ」(エホバとも言う)という神を信仰する一神教です。その聖典には「ヤハウェという神様が6日間でこの世界をつくり、7日目に休まれた」という天地創造のことが書いてあります。聖書ですね。ユダヤ教では「律法の書」と呼ぶこともあります。

今から2000年ほど前になると、ユダヤ教の改革運動をする「イエス」という人物が現れ、信者を集めていきました。イエスはユダヤ教の幹部たちににらまれて、当時このあたりを支配していたローマ帝国の総督に突き出され、そして十字架にかけられたのです。ちなみに当時のこの地域では、“イエス”というのはごく普通の名前で、日本でいう“太郎”みたいな名前でした。十字架にかけるのも、当時は一般的な処刑方法でした。

イエスの遺体は、すぐ近くの岩の洞穴のようなところに埋葬されました。しかし3日後に信者たちが行ってみると、お墓は空っぽでした。そのため「イエスは復活し、やがて神殿の丘を見下ろすオリンポス山の山頂から昇天した」という話になり、「イエスはただの人間ではない」となったのです。

ユダヤ教には、世界の終わりに救世主が現れて人々を導いてくれるという信仰があります。信者たちは「イエスこそが救世主ではないか」と考えるようになり、独自の布教活動を始めます。これがキリスト教になったのです。ですから、イエスがキリスト教を始めたわけではありません。イエスはユダヤ教徒として生まれ、ユダヤ教徒として亡くなったのですが、その信者たちがキリスト教を始めたのです。

つまり、キリスト教はもともとはユダヤ教ですから、ユダヤ教の聖書はキリスト教にとっても聖書です。と同時に、イエスの言行録も聖書です。「イエスは神の子として、人々にいろいろなことを伝えた。イエスの言葉を通じて、人々は神様との間に新しい約束を結んだのだ」という考え方から、キリスト教では、イエスの言行録を「新約聖書」、それまでの聖書は古い約束ということで「旧約聖書」と呼ぶようになります。“約”は、約束の約であって、翻訳の訳ではありません。

ただし、旧約聖書という言い方は、あくまでもキリスト教徒の見方ですから、ユダヤ教徒に対して「旧約聖書」という言い方をすると、本当に嫌な顔をします。ユダヤ教徒にとっては「旧約聖書じゃない。聖書だ!」ということです。

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池上彰 (ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)

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