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異色の大ヒットビジネス書『もしドラ』はこうして生まれた

~仕掛け人が語るミリオンセラーへの軌跡と、売れる企画の法則~

BIZセミナーマーケティング・PRコンテンツビジネス
更新日 : 2011年05月20日 (金)

第2章 “萌え”表紙にした理由

加藤貞顕氏

加藤貞顕: 想定した読者層がこれまでのドラッカー本とはまったく違ったので、デザインも「今までのドラッカー本とはまったく違うものにしよう」と考えました。そこで、装丁は「女子高生とドラッカー」という組み合わせの“違和感”を強調するために、いわゆる萌え系の女子高生のイラストにしました。これはライトノベルでは普及しているスタイルでしたので、いけるのではないかと仮説をたてました。

ただし、“萌え”はやり過ぎると一般の人は引いてしまいます。かといって、かわいくないものもダメなんです。だから、イラストレーターを探すのには相当苦労しました。著者の岩崎さんと僕の認識が大きくずれるといけないので、一緒に書店のライトノベルコーナーに行って端からチェックし、「これはどうですか?」「これは行き過ぎですか?」と、認識のすり合わせをしました。そうして最終的に見つけたのが、ゆきうさぎさんというイラストレーターさんです。発注するときは、「普通の人が、ギリギリ引かないレベルの萌え」とお願いしました。若干、一、二歩踏み込んでいるかもしれませんが(笑)、かえってよかったのかなと思います。

もちろん、イラストを作るにあたっては、とても細かい調整を重ねました。川島みなみのキャラクター設定では、髪型はもちろん、セーラー服の形、スカートの長さ、胸の大きさ——萌え系は胸を大きく描くことが多いので、それはまずいということで——などもこだわりました。そうして何パターンか描いてもらったものを、いろいろな人に見せて意見を伺いました。その結果、ポニーテールが圧倒的に人気だということがわかり、採用しました。

背景部分は、クオリティを極限まで高めるという発想で進めました。今回のような萌え系という極端な挑戦をする場合には、キワモノにならないように注意しなければならないからです。そこで、背景はアニメーションの背景を専門に描くプロの会社に依頼しました。スタジオバンブーさんというところなんですが、あの「攻殻機動隊」の背景や美術を担当している凄腕の会社です。

背景の土手は、東京西武の多摩川や秋川などの写真をいろいろミックスして作られたものですが、土手というのは懐かしいというか、なんとなく思い出があって切なくなるような雰囲気がありますよね。そういうところに女子高生をポンと置くと、誰もが青春時代を思い出す——そんな効果を狙いました。

ほかにも、オーセンティックな信頼感を出すために気をつかっている部分があります。それは、初版の帯の下のほうには赤い文字で「上田惇生氏推薦」とあります。上田先生は日本でトップのドラッカーの専門家で、ほとんどのドラッカーの訳書を翻訳されています。実際に上田先生には早い段階から原稿を見ていただいて、ドラッカー的に間違いがないかを確認していただきました。

それからタイトルですね。一般に、本のタイトルはものすごく重要です。本は読む前に買うものなので、タイトルとデザインで最初の売れ行きが決まります。ですから、毎回すごく悩むのですが、『もしドラ』は著者の岩崎さんがブログに書いていたものをそのまま使いました。

これは著者の岩崎さんの強い希望だったのですが、僕は最初、このタイトルには乗り気ではありませんでした。書籍のタイトルは、一般的には、短くて覚えやすいものがいいのです。実際に、何とか短くできないかとたくさんのアイデアを考えました。例えば『ドラッカーと甲子園!』という案を出しましたが、本当にそうしなくてよかった(笑)。これでは売れなかったでしょうね。結果的には、タイトルが長かったせいで『もしドラ』という略称を広めることもできて、かえってよかったと思っています。

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関連書籍

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」

岩崎夏海
ダイヤモンド社


該当講座

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異色の大ヒットビジネス書『もしドラ』はこうして生まれた
加藤貞顕 (note株式会社 代表取締役 CEO)
田中洋 (中央大学大学院ビジネススクール 教授 )

加藤 貞顕(ダイヤモンド社 書籍編集局 第三編集部)
田中 洋(中央大学大学院ビジネススクール教授)
本講座では発行部数が150万部を突破し、社会現象化している『もしドラ』の担当編集者であり、さまざまな販促プランニングにも携わったダイヤモンド社の加藤貞顕氏をお招きします。過去にも多くのヒット書籍を担当してきた加藤氏に、独自の「眼」で「企画の芽」を見つける方法から、Twitterを活用した新たなプロモーションの工夫、電子書籍版ヒットの裏側と今後の戦略までをお伺いします。


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