記事・レポート
再生はあり得るか?
~日本の将来の可能性と危険性~
ジェラルド・カーティス氏(コロンビア大学教授)によるライブラリートーク
ライブラリートーク政治・経済・国際
更新日 : 2011年02月03日
(木)
第2章 構造改革をしても政権が代わっても、総理大臣を何回替えても、idea—理念、ビジョン、哲学—がなければうまくいきません
ジェラルド・カーティス: 政治学者は、社会を変えていくためにはinstitution、つまり組織・構造にどういう改革が必要かということに注目します。時代の変化によって、今まで機能を果たしてきた組織・構造が機能を果たさなくなることはよくあります。
例えば日本の政治では、昔は派閥が重要な機能を果たしていました。しかし今の派閥は昔のような組織形態になっていないし、自民党一党支配時代の機能を果たしていません。また、昔のような派閥を復活させることはできません。派閥に代わる新しいinstitutionが必要です。
官僚と政治家の関係,あるいは国家と市場の関係についても同じことが言えます。昔は通産省や大蔵省が民間企業に対して通達を出して行政指導をしたのですが、今はそういうことができるような状況ではありません。「政治主導」のスローガンの下で、民主党も自民党も官僚機構の改革を主張している結果、政権を持っている与党の政治家と官僚の一種の同盟関係は崩壊してしまいましたが、新しい関係はまだ出来上がっていません。ですから「構造改革」が日本にとっての重要なテーマです。
小泉さんが総理大臣になったとき、「構造改革なくして景気回復なし」みたいな発言をしましたね。もともと橋本龍太郎さんが総理大臣のときに、官邸のスタッフを強化したことから始まっています。経済財政諮問会議も橋本内閣時代に提案されたものですが、小泉さんが総理大臣になると、竹中平蔵さんを経済財政政策担当大臣に起用して、新しい政策決定システムをつくったのです。それがうまく機能したのは、小泉さんが何をしたいか、日本の再生のために何が必要かという自分なりの哲学、理念、いわゆるideaを持っていたからです。
小泉さんが辞めて竹中さんが政府から離れたら、経済財政諮問会議はほとんど機能を果たせなくなりました。そして民主党政権になったらそれをなくして、代わりに今、玄葉(光一郎)さんがやっている国家戦略室をつくりました。
このようにいろいろなinstitutionの再構築を試みてきたのです。けれど問題は、そのinstitutionを何に使うかです。「どういう日本が望ましいと思って、それを実現するために何をすればいいのか」という考えがなければ、どんなに立派な新しい組織をつくってもあまり役に立ちません。
日本の問題はideaが破綻してしまったところにあります。日本をこんなに素晴らしい社会にした考え方、哲学、理念、ビジョン、そういうものが今の時代に合わなくなってしまったのです。新しいideaを生み出さないと、どんなに総理大臣を替えてもどうにもなりません。
これまではどういうideaが日本を成功に導いてきたのか振り返ってみると、日本は明治時代、「脱亜入欧」と「西欧に追い付き追い越せ」というスローガンを掲げ、アジアを出て西欧に入っていこうとしました。ほかのアジアの国と同じように見られたら、不平等条約も解消できないし、近代化もできないと考えたからです。その結果、イギリスやドイツの政治、官僚システムの組織・構造を参考に、明治憲法をつくりました。
戦後の日本は、西欧に追いつくまではこれでうまくいったのですが、問題は80年代以降です。「いよいよ追いついた。西欧を追い越そう」と思ったらバブルになってまった。そしてバブルが弾けて、今日に至るまで20年以上、経済低迷しているのです。つまり、日本のシステムは追いつくためのもの、英語でいうところのcatch upするための構造だったのです。
そして今、もう20年も前に追いついたんだから次はどうするのかという答えが出ているはずですが、それがまだ出ていないのです。政治家からも、インテリからも国民にアピールできる将来ビジョンが出ていなくて、ideaが不足しています。外国のモデルを取り入れるのではなく、日本なりのモデルを作る必要があります。急速な高齢化、経済のグローバル化、中国の大国としての台頭などに対して場当たり的な対応だけだとうまくいきませんが、大胆なビジョンをもって、国民の支持を得られる説得力のある政治指導者がいないと、政策は漂流して、国がダイナミズムを失います。
例えば日本の政治では、昔は派閥が重要な機能を果たしていました。しかし今の派閥は昔のような組織形態になっていないし、自民党一党支配時代の機能を果たしていません。また、昔のような派閥を復活させることはできません。派閥に代わる新しいinstitutionが必要です。
官僚と政治家の関係,あるいは国家と市場の関係についても同じことが言えます。昔は通産省や大蔵省が民間企業に対して通達を出して行政指導をしたのですが、今はそういうことができるような状況ではありません。「政治主導」のスローガンの下で、民主党も自民党も官僚機構の改革を主張している結果、政権を持っている与党の政治家と官僚の一種の同盟関係は崩壊してしまいましたが、新しい関係はまだ出来上がっていません。ですから「構造改革」が日本にとっての重要なテーマです。
小泉さんが総理大臣になったとき、「構造改革なくして景気回復なし」みたいな発言をしましたね。もともと橋本龍太郎さんが総理大臣のときに、官邸のスタッフを強化したことから始まっています。経済財政諮問会議も橋本内閣時代に提案されたものですが、小泉さんが総理大臣になると、竹中平蔵さんを経済財政政策担当大臣に起用して、新しい政策決定システムをつくったのです。それがうまく機能したのは、小泉さんが何をしたいか、日本の再生のために何が必要かという自分なりの哲学、理念、いわゆるideaを持っていたからです。
小泉さんが辞めて竹中さんが政府から離れたら、経済財政諮問会議はほとんど機能を果たせなくなりました。そして民主党政権になったらそれをなくして、代わりに今、玄葉(光一郎)さんがやっている国家戦略室をつくりました。
このようにいろいろなinstitutionの再構築を試みてきたのです。けれど問題は、そのinstitutionを何に使うかです。「どういう日本が望ましいと思って、それを実現するために何をすればいいのか」という考えがなければ、どんなに立派な新しい組織をつくってもあまり役に立ちません。
日本の問題はideaが破綻してしまったところにあります。日本をこんなに素晴らしい社会にした考え方、哲学、理念、ビジョン、そういうものが今の時代に合わなくなってしまったのです。新しいideaを生み出さないと、どんなに総理大臣を替えてもどうにもなりません。
これまではどういうideaが日本を成功に導いてきたのか振り返ってみると、日本は明治時代、「脱亜入欧」と「西欧に追い付き追い越せ」というスローガンを掲げ、アジアを出て西欧に入っていこうとしました。ほかのアジアの国と同じように見られたら、不平等条約も解消できないし、近代化もできないと考えたからです。その結果、イギリスやドイツの政治、官僚システムの組織・構造を参考に、明治憲法をつくりました。
戦後の日本は、西欧に追いつくまではこれでうまくいったのですが、問題は80年代以降です。「いよいよ追いついた。西欧を追い越そう」と思ったらバブルになってまった。そしてバブルが弾けて、今日に至るまで20年以上、経済低迷しているのです。つまり、日本のシステムは追いつくためのもの、英語でいうところのcatch upするための構造だったのです。
そして今、もう20年も前に追いついたんだから次はどうするのかという答えが出ているはずですが、それがまだ出ていないのです。政治家からも、インテリからも国民にアピールできる将来ビジョンが出ていなくて、ideaが不足しています。外国のモデルを取り入れるのではなく、日本なりのモデルを作る必要があります。急速な高齢化、経済のグローバル化、中国の大国としての台頭などに対して場当たり的な対応だけだとうまくいきませんが、大胆なビジョンをもって、国民の支持を得られる説得力のある政治指導者がいないと、政策は漂流して、国がダイナミズムを失います。
再生はあり得るか?
~日本の将来の可能性と危険性~ インデックス
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第1章 日本人は悲観論が好き。でも最近は本当にあきらめている
2011年02月02日 (水)
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第2章 構造改革をしても政権が代わっても、総理大臣を何回替えても、idea—理念、ビジョン、哲学—がなければうまくいきません
2011年02月03日 (木)
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第3章 日本の外交は対応型。秩序なき今の世界では通用しない
2011年02月04日 (金)
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第4章 TPPって何?
2011年02月07日 (月)
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第5章 日本、中国、アメリカにとって重要な4つの外交教訓
2011年02月08日 (火)
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第6章 政治家は専門家の知恵を借りよ~idea創出対策:短期編~
2011年02月09日 (水)
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第7章 マスコミは反省し、知識人は声をあげよ~idea創出対策:長期編~
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