記事・レポート

ミサコ・ロックス!が体現するアメリカン・ドリーム

米国発、オンリーワンの日本人漫画家が切り開くティーンコミック市場

更新日 : 2010年09月24日 (金)

第8章 ファンと共に成長し、様々な世代に通じるアーティストになりたい

ミサコ・ロックス!氏

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西川英彦: リアリティを求めて高校に授業参観に行くなどしてリサーチした、という話はとてもおもしろいですね。

ミサコ・ロックス!: アメリカのコミック市場で一番大きいのはティーン向けなので、「ミサコの話をティーン向けにするために、16、17歳のストーリーに直してね」と言われたんです。そのとき、「アメリカの大学生は知っているけれど、高校生ってどうなんだろう」と思って。頭にあるのはハリウッド映画の情報だけだったので、それで描いても子どもが共感しないと思ったんです。

イメージだけで描くと、結局独りよがりの作品になってしまうので、なるべくアメリカ人のティーンの子たちが悩んでいることや、目標にしていることを直に聞いて描きたいと思ったので、頑張って取材しました。

いろいろな学校に電話して、「こういう者ですが、本のリサーチで授業やランチタイムをのぞかせてくれませんか」とお願いしました。すると、「プレゼンやデモンストレーションをお願いできるなら」と言われたりして、交換条件で行きました。

西川英彦: 取材はしやすいんですか?

ミサコ・ロックス!: しやすいです。アメリカの学校は、外部ゲストにアーティストを呼びたがっているんです。勉強だけじゃなくて、子どもたちに音楽やダンスやアートに触れる機会を持たせようとしています。だからアーティストが自ら「やらせて」と言うと、「もちろん。そういうのを待っていたの」と言ってくれる学校がとても多いんです。校長先生に頼みに行かなくても、司書さんが決めたら、もうそれだけで勝手にイベントができるんです。

西川英彦: 取材内容は、作品に影響を与えましたか?

ミサコ・ロックス!: もちろん。第3作目の『Detective Jermain』はすごく影響を受けています。これはアメリカのティーンが主人公ですが、例えばカフェテリアでは、人種によって座る場所が違うんです。黒人のヒップホップ系の子たちは大きなテーブルに座っていて、チアリーダーは真ん中で化粧しながら、バスケットの男の子たちと「イエー」って話していたり、アジア人の子たちはおとなしく座っていたり。

あと、ポピュラーな子はすごくセクシーな格好をしている子が多かったり、パンク系の子はサボってばっかりとか。そうしたものを取り入れました。だから読者は、「こういう子、うちの学校にもいる、いる!」みたいな感じで読んでくれていると思います。

西川英彦: 1作目、2作目と比べて、やっぱり反応は違いましたか?

ミサコ・ロックス!: 違いますね。例えば、2作目は異文化交流ものだったので日本の文化に興味がある子や、ミュージシャンの話も入れたのでバンドをやっている子が読んでくれました。でも3作目は、「漫画しか読まない=日本のものしか好きじゃない」みたいな子たちも読んでくれて、なかなか面白いファン層になりました。

私は「読者と一緒に成長していきたい」と思っているので、1作目の『Biker Girl』はちょっと幼め、2作目はもう少し上、最新刊は高校生がわかるものにしたいと思って書いてきました。そういう違いもありますけど。

西川英彦: 意図的に流れを作っているんですね。なぜ読者と一緒に成長したいんですか?

ミサコ・ロックス!: 今、漫画やコミックを読んでいるのは12、3歳の子たちが多いのですが、その子たちが19、20歳になったとき、ティーンのコミックを読みたいだろうか、と疑問に思うんです。

私はファンのベースを築いてきているので、その子たちが成長したら、もっとリアリティのある恋愛物を読みたがるのではないかと。だからそういうものを提供できるようなアーティストになりたいんです。そうすればファン層が固定されつつ、かつ広がっていくんじゃないかと。いろいろな世代に通じるアーティストになりたいと思っています。

西川英彦: 非常にマーケティング的ですね。「最初のお客さんをつかんでしまえば」というのは、いい作戦かもしれない。ミサコさんは文化をつないだり、そこから何かを新しく起こしたりすることがとても上手な方だと改めて思いました。これからも、また新しいものが生まれることを期待しています。(了)

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Misako Rocks!/高嶋美沙子 (コミック・アーティスト)
西川英彦 (法政大学 経営学部 教授)

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西川 英彦(法政大学教授)
日本から「輸出」されたアニメ、マンガではなく、アメリカを舞台にアメリカ人の登場人物を描く「純アメリカ産・マンガ」を創作するミサコ氏。米国のティーンコミック市場を切り開き、アメリカ発・唯一の日本人漫画家として独自の地位を確立した彼女に、アメリカのコミック市場の現状・特性や「日本オタク」の生態から現代のティーンの事情まで伺う貴重なセッションです。日本のソフト・パワーの動向に関心のある方にもお勧めです。


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