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なんでもかんでも進化する?

読みたい本が見つかる「カフェブレイク・ブックトーク」

更新日 : 2010年06月15日 (火)

第7章 編集者は「進化」がお好き?

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●ことばの誤用・乱用

澁川雅俊: ところで、ここでいま取り上げた数冊の本について奇妙なことに気づきました。それはこういうことです。(6章でご紹介した)『この6つのおかげで……』など6点は翻訳書ですが、その原題を調べてみるとevolutionもevolveも使われていませんでした。それなのにどうして邦訳書名に「進化」が使われているのでしょうか。

確かに、進化論を理解すれば、私たちの日常生活でのさまざまな出来事、それが政治的なものであれ、経済的な現象であれ、人間関係や家庭生活での出来事であれ、納得がいく解決が見出されるはずだなどと唱えている『みんなの進化論』(D・スローン・ウィルソン、09年日本放送出版協会)のような本もあります。たまたまこの本の原題は“Evolution for Everyone: How Darwin's theory can change the way we think about our lives”で適正な邦訳ですが、それにしても
・ミケランジェロやガリレオやピカソのような人たちが年老いても活躍できたかを論じている『老後も進化する脳』(R・L・モンタルチーニ、09年朝日新聞出版)や
・仲代達矢がその近況を自伝風に書いた『老化も進化』(09年講談社プラスアルファ新書)
・さらに生き残りと繁殖の狭間で淘汰をくぐり抜けてきたという動物のメスの本性について書いている『マザー・ネイチャー〈上・下〉—「母親」はいかにヒトを進化させたか』(S・B・ハーディー、05年早川書房)や
・人間の思考のプロセスを探りながら人間性の本質を見つめ直そうと主張する『先史時代と心の進化〔クロノス選書〕』(C・レンフルー著、溝口孝司監訳、小林朋則訳、08年ランダムハウス講談社)
などにいたっては、「進化」の乱用、あるいは誤用としかいいようがありません。

●進化論とはまったく関係ない内容の進化論

まして、以下のような本、それらは冒頭にも掲げていますが、その典型です。
・『コーチ 進化するブランド』(立原滉二、08年小学館)
・『読書進化論—人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか』(勝間和代、08年小学館101新書)
・『小飼弾の「仕組み」進化論—生き残るための“新20%ルール”』(09年日本実業出版社)
・『ヤンキー進化論—不良文化はなぜ強い』(難波功士、09年光文社新書)
・『中小企業は進化する』(中沢孝夫、09年岩波書店)
・『東京「進化」論—伸びる街・変わる街・儲かる街』(増田悦佐、09年朝日新書)
・『マンガ進化論—コンテンツビジネスはマンガから生まれる!』(中野晴行、09年ブルーズ・インターアクションズ)
・『進化する日本の食—農・漁業から食卓まで』(共同通信社編、09年PHP新書)
・『進化する環境会計〈第2版〉』(柴田英樹・梨岡英理子、09年中央経済社)
・『国際機関の勤務から見えたこと—進化するベスト・プラクティス』(福井博夫、09年同友館)
・『雲のなかの未来—進化するクラウド・サービス』(武井一巳、09年NTT出版)
などはいずれも「進化」ないしは「進化論」をタイトルに戴いていますが、それとはまったく関係がありません。むしろ「変化」とか「進歩」とか「展開」とか「進展」とか「展望」などと表現するのが妥当でしょう。

なぜならばこれらの本には、テーマとなっているものごとのたかだか数十年間の変化を考察した結果の所見が述べられでいるだけだからです。「進化」の字義である「自然界に行われている生滅転変の原理」や「自然が万物を育成する力」を少しも感じとることができません。しかも「進化」は本来、ものごとがこれまでにこのように変化した、あるいは進展したことを示すにしても、それらの将来がどうなるかはわからない、とするのが本意で、先々どうなるかは自然の摂理としかいいようがないのです。

本の書名は、それぞれ編集者に決定権があるといわれていますが、もしそうだとすると、最近の編集者たちは、語彙が貧しく、また造語の能力も弱いのではないかと心配になります。極めつけは『2015年の決済サービス—決済の脱「ガラパゴス化」』(野村総合研究所決済制度プロジェクトチーム著、09年東洋経済新報社)です。「脱ガラパゴス化」は進化のメタファーのつもりなのでしょうが、噴飯ものです。(終)

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