記事・レポート

サマーダボス会議 in 大連 報告会

~弱体化した日本の発信力。回復への提言

更新日 : 2009年11月04日 (水)

第3章 サマーダボスの重要性に、日本は気づいていない

石倉洋子氏

石倉洋子: 私は、第1回の大連で開催されたサマーダボスに参加したとき、ショックを受けました。

1月のダボス会議には何度か行ったことがあるのですが、そこはスイスのスキーリゾートなので、泊まるところも会議場も比較的小規模で散在しています。大連のサマーダボスは、冬のダボス会議より小さく、地域フォーラム位の規模だろうと思って行ったら、空港はフリーパス、会場はサッカーの競技場を3つ合わせた位のスケール、しかもデカデカと「ワールド・エコノミック・フォーラム」と書いてあり、とても驚きました。中国は世界のプレーヤーとして華々しく登場してきた、国をあげてサマーダボスという場を最大限活用するつもりなのだ、ということがよくわかりました。

サマーダボスは1月のダボス会議と比べて、新しい特色がいくつか見られます。世界の中心が欧米からアジアにシフトしつつあること、冬のダボスよりは規模が小さいが、グローバルに大きな成長が期待される企業(Global Growth Companies)、そして国よりも都市にフォーカスしていることです。しかし日本では、こうした世界の新しい動きをとらえているサマーダボスがどれほど重要かは、残念ながらほとんど知られていません。私はこのようなサマーダボスの位置づけや意義を、機会を見つけてはGGC候補企業に対して、「サマーダボスに参加すると、企業のIRという意味でも素晴らしいですし、アジアに対してもアピールができます」と伝えています。

サマーダボスに行くと、明らかに世界の力関係がシフトしてきているのが強く感じられます。従来のエスタブリッシュメントに加えて、新しいグループをどんどん入れようとしていることが、目に見えて分かります。

また今年、私が感じたのは、会議のフォーマット自体も新しいものを次々に試行していることです。“大きな会場で、誰かがスピーチをする”というスタイルは、温家宝首相の最初のスピーチだけで、数人のパネリストが行う方式もかなり数が少なくなっていました。それに比べて、自由にアイデアを出し、議論する、ブレイン・ストーミング的なものが非常に多くなっていました。

今年の冬のダボス会議から始まった「アイデア・ラボ」で、私はモデレーターを務めました。アイデア・ラボは、数人の専門家が自分のアイデアを、テキストではなく写真や絵のスライド15枚、1枚20秒(全5分間)で、映画などの予告編のように、ざっと見せます。短いプレゼンテーションの後、ごく簡単な質疑、印象に残ったことを全員で話し、その後
そのアイデアに興味を持った人がそのグループに行って、20分程度ディスカッションをするのです。このやり方は初めてでしたが、フォーマットとして非常に面白いものでした。

また今回は、ソーシャル・アントレプレナーが脚光を浴びていて、受賞イベントも行われていました。「アイデア・ラボ」にもソーシャル・アントレプレナーが数人登場し、スライドで自分たちのビジネスと今直面している課題を説明し、興味のある人たちがそのグループに入って、解決案のアイデアをいろいろ出していました。

日中韓3カ国による「グローバル・アジェンダ・カウンシル」という有識者のグループでは、もう少し長い時間を使って、議論をビジュアルに描いていくワークスペースというブレイン・ストーミング方式を用いて、「北東アジアの将来を考える」というテーマのセッションをやりました。具体的な提案も出て、北東アジアの3カ国で一緒にいろいろなことをやろうという機運が整ってきているように感じました。

ダボス会議がこれだけ長い間力を保っている1つの理由は、このように常に新しいものを採り入れよう、新しいグループを巻き込もうとするからだと思います。

関連書籍

戦略シフト

石倉洋子
東洋経済新報社

関連リンク


該当講座

サマーダボス会議 in 大連 報告会
石倉洋子 (一橋大学名誉教授)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

石倉 洋子(一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授)
竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授)
ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが東京に事務所を開設することを機に、ダボス会議の前線で議論されていることは何なのか、日本はどのように世界の課題に貢献できるのかについて考えるセミナーです。今回は、9月10日~12日に中国・大連で開催されるニュー・チャンピオン年次総会(サマー・ダボス会議)で何が議論されたか、石倉氏と竹中氏が解説します。


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