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日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う

~1人の日本人が20年間続けたライフワークが、世界を動かす~

更新日 : 2009年12月11日 (金)

第5章 感染症対策というライフワークが見つかるまで

ムハマド・ユヌス氏

米倉誠一郎: 伊藤さんのキャリアはどういうふうにスタートしたのかお聞きしたいのですが、もともと大学では何を研究されていたのですか?

伊藤高明: 大学では害虫学をやっていました。

米倉誠一郎: なぜそれを勉強しようと思ったのですか。

伊藤高明: 実は、今でも昆虫には興味がないんです(笑)。中学生ぐらいのころ、海に憧れていたんです。今から思うと海外に憧れていたんだと思いますが、それを象徴的に「インド洋の夕日」と思っていて。商船大学に行くつもりだったのですが、紆余曲折があって農学部に入ってしまって……。

大学3年のオリエンテーションで、たまたま見たのがゴキブリのフェロモンの実験だったのですが、「これは面白い」と思って、それで害虫学の世界に入っちゃったんです。そんなわけですので、殺虫剤の研究をしていたのに『スミチオン』という殺虫剤しか知らないような状態でした。『スミチオン』というのは住友化学の登録商標ですが、本当にそれしか知りませんでした。

それでも大学時代は一応生化学系の実験をしていたので、住友化学に入ったら当然そういう実験をやるんだと思っていたのですが、いきなり田んぼに入れられました。

田んぼに1年入ったら、今度は「木材害虫をやれ」と言われました。当時インドネシアが原木輸出を禁止したので、林野庁が「もう原木が入ってこないので有効利用しなさい」ということで、防虫処理推進要綱みたいなものが出されましてね。ラワン材の害虫にヒラタキクイムシというのがいるので、それを防虫しろというわけです。上司に「お前、それやれ」と言われました。ヒラタキクイムシは害虫と言いますが、見つけにくいんですよ。毎日毎日木をノコギリで切って、ものすごく探して。結局私、大量飼育に成功しました(笑)。

そんなことをやっていて、「これは(憧れていた)船長の夢じゃないな」と思いました。ところが、10年経ったら蚊の関係の研究室に配属替えになって、今度は「感染症をやれ」と言われまして。マラリアはイエメンの国境地帯あたりで問題になっていると資料に書いてあったので、「サウジにもマラリアはあるのか」と思いました。

そこで閃いたというか、砂漠の夕日とインド洋の夕日がパーンと重なったんです。これを天啓というのでしょうか。それで、「感染症を自分のライフワークにしよう」と決めたのです。そこで「自分は、高校時代考えていた本来の道に戻れた」と思いました。37歳ぐらいのときの話です。

米倉誠一郎: 結構いい加減なスタートですが(笑)、感染症は自分の仕事だ、ライフワークにするぞ、と決意なさったんですね。それからどうされたんですか。

伊藤高明: 10年間は、半分は部下の面倒を見て、半分は自分で感染症の実験をしていました。その後は海外マーケティング部に配属になりました。

米倉誠一郎: 海外マーケティングに移ってからは、技術的な補助などをされていたのですか。

伊藤高明: そうですね。それがメインの仕事で、そのかたわらで『オリセットネット』をやっていました。

米倉誠一郎: じゃあ、ずっと関わっていらしたのですか。

伊藤高明: ずっとやっていましたね。研究室にいたときは、農薬事業部が『オリセットネット』をやっていたので、私はベクターに関して研究側の受け手でした。「こういうデータつくってくれ」「こういう報告はないか」といったことを受けて返していたのです。

けれど私が子会社に移ると、研究室では私以外に『オリセットネット』をやる人がいなかったので、私が移った子会社と農薬事業部がやりとりするようになりました。で、私が本社に戻って生活環境事業部に配属になると、農薬事業部から「もうそっちでやってくれ」といわれたので、生活環境事業部で『オリセットネット』をやることになりました。だから、『オリセットネット』は私についてきているんです。

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日本の蚊帳(かや)が、アフリカの貧困を救う
伊藤高明 (住友化学(株)ベクターコントロール(事)技術開発部)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

伊藤高明(住友化学(株)ベクターコントロール(事)技術開発部)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
アフリカの貧困を救う防虫蚊帳「オリセットネット」を開発した伊藤氏の20年間にわたる研究の過程から、スピード重視で結果を急ぐ現代の日本人が忘れがちな「地道に、こつこつと、一つのことを続ける」ことの価値を改めて考えます。


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