記事・レポート

「世の中に必要なもの」、それが付加価値づくりの原点になる

巨大な生保業界に風穴をあけられるか
~ライフネット生命保険・岩瀬大輔氏が語る「志」~

更新日 : 2009年06月26日 (金)

第4章 「自分にできること」より先に、「世の中に必要なこと」を考える

岩瀬大輔氏 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長
米倉誠一郎(日本元気塾塾長/一橋大学イノベーション研究センター長・教授)

岩瀬大輔: ハーバードで勉強して印象に残っているのが「アントレプレナーシップとは何か」の定義です。その答えは「今持っている経営リソースにとらわれることなく、そこにあるオポチュニティをひたすら追い求めること、執拗に追い求めること」。

我々は何かビジネスをやろうと思うと、自分ができることから考えてしまいます。そうではなくて、世の中に何が必要かを先に考えて、その必要なビジネスを実現するために足りないものをパズルのように集めればいい、そういうことを学びました。

生命保険会社をつくるにあたって資本金は100億円が相場といわれていましたし、免許も必要でしたし、業務に精通した人材もたくさん必要でした。単純に考えると、「100億円持っていないし、免許もないし、生保のことも知らない」状態です。しかし、ハーバードの考え方だと、「ないなら集めればいい。これが世の中に必要なもので、新しい社会的価値を生むものであるならば、人・モノ・金・免許は後からついてくる」となるのです。

岩瀬大輔氏 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長
どのビジネスも「人・モノ・金」でできていると思うのですが、保険の場合、これに「免許」が加わります。僕らはどれも持っていなかったから苦戦しました。どうやって投資家を説得してお金を集めたのかというと、先にお話しした「大きな市場」「大きな矛盾」「大きな変革」、基本的にそこをプレゼンしただけなんです。ここにものすごいチャンスがあるということ。そこに出口と私がいること。それだけで株主が集まり、132億円が集まりました。

なぜ、こんなにお金がちゃんと集まったんだろうかと後から考えてみると、2つの要素があったと思います。まず、タイミング。「サブプライム前だった」ということが非常に大きい。2008年3月末に最後の50億円の投資ラウンドをクロージングできたというのは、今思うと奇跡的です。あと3カ月遅かったら、この会社はできていなかったと思います。

もう1つは、わかりやすさ。「大きな市場」「大きな矛盾」「大きな変革」のストーリーが非常にわかりやすかった。各社の担当者もみなさん「俺もそう思っていた。生保、何かおかしいと思っていたんだよ。こういうサービスが欲しかった」と、すごく共感してくれたのです。

人を説得するためには、ロジックとエモーショナルな共鳴、両方が必要なんです。それがビシッと揃ったということです。