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「世の中に必要なもの」、それが付加価値づくりの原点になる

巨大な生保業界に風穴をあけられるか
~ライフネット生命保険・岩瀬大輔氏が語る「志」~

更新日 : 2009年06月08日 (月)

第3章 成長するベンチャーに共通する3つのポイント

岩瀬大輔氏 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長

岩瀬大輔: 大きくなるベンチャーには、3つのポイントがあります。まず、マーケットが大きいということ。2つめはそこに大きな矛盾や非効率があって、お客さまが何か不便を感じていること。3つめはそこに何か変化が起こって、矛盾や不便さを解決できる新しいソリューションを提供できるということ。日本の生保はその条件に見事に当てはまったのです。

岩瀬大輔氏 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長
(左)米倉誠一郎 日本元気塾塾長/一橋大学教授 (右)岩瀬大輔氏 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役副社長
(1)大きな市場:45兆円を46社で分け合う日本の保険業界
日本の保険業界の保険料収入(2007年度)は民間生保、簡保、共済合わせて約45兆円です。GDPが約560兆円ですので、わが国で創出されている付加価値の1割弱が生命保険会社に払い込まれています。

ちなみにアメリカの生保は日本の約2倍の市場規模で、保険会社が1,000社以上あるそうです。日本では我々が45社目か46社目でした。ですから、すごく大きなマーケットを限られたプレイヤーで押さえているということです。

(2)大きな矛盾:保険会社は「不透明」と多くの人が感じている
一人当たりの死亡保障金額が日本の場合、平均約1,600万円です。イギリス、ドイツが200~300万円、アメリカが約600万円。では、同じ保険に入るのに必要な保険料はどうかというと、イギリスとアメリカが700~1,000円、日本では2,000~3,000円もかかります。これは2001年のデータで、アメリカは現在、もっと保険料下がっています。

もっと具体的に、30歳で3,000万円の死亡保障保険に入る場合で比較してみましょう。日本の大手の生命保険会社が年間8万円、月7,000円ぐらいかかります。それを我々は4万円にしました。一方、アメリカではノンスモーカーで健康優良体の人であれば、200ドルで済みます。アメリカ人が200ドルで入れるものを日本人は8万円も払っているのです。

払い込んでいる保険料のうち、いくらが保険金として払い戻されて、いくらが保険会社の取り分になっているかを見てみましょう。月6,000~7,000円の保険料の場合、年間約8万円、10年間で約80万円になります。このうち払い戻されるのは全体の4割弱で、6割は保険会社の取り分です。取り分というのは手数料です。これを知ったとき、ものすごくたくさん手数料を取っているんだなと驚きました。

なぜ8万円と200ドルという差が開くかというと、この手数料分があるからです。また、保険金の計算の部分も日本の場合、死亡率を低めに設定しているんです。ですので、手数料と低めの死亡率という両方で儲けているという実態があります。

健全な競争があると、確実に安くなります。もちろん安ければいいというわけではありませんが、この下がった分の利益、誰が得しているかというと一般国民なんです。ゼロサムゲームで、保険会社から消費者に富が戻されるということで、競争による価格低下はすごくいいことだと考えています。

(3)大きな改革:生保を取り囲む制度・政策が変わってきた

最近の生保業界の実態として、10年前は加入件数が600万件程度だった都道府県民共済が、ここ10年で約1,000万件伸ばしているんです。これについて、私たち生命保険業界は真摯に考える必要があるのではないかと思います。マーケット全体がものすごく縮小してる少子高齢化といわれている中、約1,000万件も伸ばしている。これは大きな1つのメッセージ、あるいは既存の生命保険業界が抱える矛盾や非効率の表れではないかと考えています。

今、さまざまな分野で変革の時期を迎えていますが、我々にとって一番大きな変化は保険料の自由化です。国がすべて決めていた料率が、部分的に自由化されたのです。さらに、2007~2008年にかけて新規の免許が7、8社出ています。これも競争を促進する非常に大きな政策です。

資本主義のダイナミズムを支えているものは何だろうかと考えると、「自由参入で競争して値段が需給で決まる」ということがあります。しかし生命保険業界は、「誰がゲームに参加するか」というのを国が決める認可制です。

参入が緩和され、料率が自由化されるということのインパクトは、社会主義が資本主義になるぐらい非常に大きなことではないかと考えています。