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楽天イーグルス島田亨社長が語る「経営の本質」

BIZセミナー経営戦略
更新日 : 2008年05月20日 (火)

第2章 ファンに愛される球団へ

島田亨

島田亨: まず、地元から愛されるチームをつくっていくことに経営のテーマを絞りました。テレビ局が放映権を買ってくれますが、会社に収益をもたらしてくれている人は誰かということを考えていくと、地元の方々にチケットを買っていただくということがすごく大きいんです。

特定の選手の人気のみに頼った球団経営のビジネスモデルではなく、シーズンの勝利数と観客動員数をリニアに少しずつ伸ばしていきたいと考えています。はっきり言うと優勝するまで10年かけたいと思っています。ステージマネジメントというか、期待値コントロールです。球団づくりを、地元の人たちと一緒に時間をかけて情報共有しながらやっていけばやっていくほど強固なファンができていくわけです。特定多数をお客さまとしているビジネスだから、シナリオというのは長期的につくっていかなければいけない。

わたしがビジネスモデルとしているのは吉本興業です。もともと劇場をベースにしていたときは、半径何キロかのお客さまを相手にしていたわけですね。いつも同じ席で同じおばあちゃんが、同 じタイミングで笑っている。これが特定多数の地域の輪郭をしっかり持ったビジネスの1つのモデルだと思うんです。それは野球においても、地域という面と、 全国区のコンテンツとしてお金を得るという面と、両面ありますけれども、忘れちゃいけないところだなと思っています。

基本的には別にファンを全国区に広げていく必要は全くないと思います。むしろ地元から徹底的に愛されている球団というのをつくって、そのイメージが 全国的に広がることによって、いわゆる好感の持たれる、全国的に好感の持たれる球団をどうつくるかということの方が重要だと思います。

ご覧になっていておわかりだと思いますけども、我々は過去3年間、派手な選手補強を1つもせずに、明らかに若い選手で構成していまして、地元の人たちと一所懸命育てていこうとしています。

お金を使って強くすることはしない、というのはすごく大事です。補強をしっかりしなかったのに、昨年単独で4位になったのはなぜかということなんで すが、例えば盗塁の数が明らかに上がっています。非常に重要なポイントです。野球というのは、3つアウトを取られるまでにいかにホームを踏ませるかという ゲームなんで、平均打率を上げるより、効率的にコマを進めることが大事です。盗塁だけじゃなくてフォアボールもそうなんですけども、そういったものをいか に多く取っていくかというのが野村野球。盗塁の成功率は大体7割ですが、7割盗塁に成功しているということはどういうことかというと、選手は成功するとき しか走ってないということなんです。

選手に「試合に勝ちたいか?」と聞くと、「勝ちたい」と言う。ところが「盗塁したいか?」と聞くと、「したくない」というんです。企業で、「ボーナ ス上がるぞ、業績上げたいか?」と聞いたら、「上げたい」。「じゃあ、営業で新規をやりたいか?」、「やりたくない」。これと一緒です。

選手は「盗塁って損だな」と思うから成功するときにしか走らない。これがいかにチームの攻撃力を落としているかということに気が付かなきゃいけないのが経営者なんです。

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