記事・レポート

RoppongiBIZ*週刊東洋経済提携セミナー『勝間式「利益の方程式」』

更新日 : 2008年07月23日 (水)

第2章 中間管理職を含め全員が利益を追求しなければいけない

RoppongiBIZ*週刊東洋経済提携セミナー『勝間式「利益の方程式」』の様子

勝間和代: では、そもそも日本企業が意外と利益管理をしていないのはなぜか。ここで4つの要因を挙げてお話ししたいと思います。『日本をダメにした10の裁判』という本が出ているのですが、ご覧になった方いますか?この裁判の中で、まず出てくるのが労働力の解雇の問題です。日本において正社員を解雇するということは、すごく厳しいんですね。よほど要件がそろわない限り、不当解雇とみなされて雇用者側が訴えられて負ける仕組みになっています。

 結果として正社員は解雇できないということが前提になっていますので、儲けを度外視した仕事が増えるんですね。結局労働分配率がどんどん上がっていき、多少儲かっていない仕事にも撤退コストがかかってしまう。その余剰人員が解雇できないと、もう変動費ぎりぎりまで引き下げて、従業員を雇い続けた方が企業にとって合理的になってしまうわけです。結果として、企業の儲けは減っていきます。

 2番目の問題としては、「規模の利益」が働かないというのが大きくあります。結局日本の場合は、中小企業が温存される仕組みがありますので、規模の利益が動かない。大企業が増えないという中で、当然小さい企業はメリットもありますが効率化ができないというデメリットがあります。

 3番目としまして、やはり日本語という物理的な参入障壁というのは、すごく大きいですね。この日本語があることによって、いろんな競争が制限されているのは、皆さんご存じの通りです。

 4番目としてROI(Return on Investment)のハードルレートが低いこと。これは、皆さんの金利を思い出していただければ分かると思います。普通預金が0.2%くらいしかなく て、普通の企業は2%とか3%で借りられますよね。ちょっとリスクが高くても5%ぐらいで借りられるわけです。なので、そんな5%で借りたお金をせっせと リスクを取って回そうと思わないので、ROEで12%ぐらい、ROAで2~3%といったような業種がほとんどになってくる。そうすると過当競争が起こると いうことです。

 ただ、この4つの項目についても少しずつ変わり始めてはいます。例えば不当解雇は避けるけれども正当な解雇はできるような基準の設定が議題に挙がっています。そんなことをやらないまでも、20代~30代の若年層というのは、どんどん転職をしているわけですから、儲けなくて仕事がつらい会社、面白くない会社は、これから労働力が確保できない時代になってきます。

 2番目としても同じく、これもITの進展によって小規模の企業が生き残れないというのはご存じの通りです。ですので、中小企業や大企業だって統合が進んでいます。3番目として、日本語という物理的な参入障壁。今まで「英語ができればメリット」だったのが、最近は「英語ができないとハンデ」というような形で、少しずつ日本語と英語の力関係は変わってきています。ROIの話についても、昔みたいに会社にため込んだり、不採算事業を残したりしていると、外国人株主も日本人株主も随分文句を言うようになってきたというのは皆さんご存じの通りです。ですので、私たちは中間管理職を含めて全員が利益というものを追求しなければいけなくなったという状態です。

●マーケティングの4Pと4C

 では、まず顧客単価を上げるためにどうしたらいいか。マッキンゼーには何十年も顧客単価を上げるだけの仕事をしている専門のコンサルタントがいます。私はこの専業ではなかったのですが、彼らと一緒に国内のさまざまな産業について、兼業として従事をしてまいりました。その知識を5点まとめてお伝えし ましょう。1点目。これは当たり前なのですが、顧客単価が利益に最も影響します。例えば利益率10%の商品を考えてみましょう。これを全く原価構成を変えずに、売価を100から101に変えるだけで、利益率11%になるんです。厳密には11%をやや切りますが、ほとんど11%。それだけで儲けが10%増えるんですね。すなわち、顧客単価を1%上げるということの方が、顧客数を増やすとか原価を下げるとかいうことよりも実は楽なんです。

 では、2番目。顧客単価と潜在顧客数は相反するということ。よく顧客満足度が重要だという話をすると思います。ただ、「顧客満足度 が高い貧乏な客」よりは、「顧客満足度が低い金持ちの客」の方が顧客単価はたくさん取れるんですよ。「金持ちファクター」と私たちは呼んでいるのですが、やはり金持ちのほうが財布は緩いんですね。これは仕方がないことなんですよ。お金持ちの人というのは忙しくて時間が無いので選択コストを下げたい。単価を値切るよりは取引コストが安い方を重視するという傾向があります。また、逆に懐が寂しい人というのは、使うことをものすごく重視するので、顧客単価につい てものすごくうるさいのですね。ちょっとでも安くしようといって見積もりを取ったりする。

 マーケティングの4Pという言葉がありますが、これに対してマーケティングの4Cという言葉があります。4Pをカスタマーから見て、全部Cと言っているんですね。例えばプロダクト。これについては「カスタマー・バリュー」と呼んでいまして、顧客から見た価値。プライスは、顧客から見ると「カスタマー・コスト」。この顧客のコストというのは何かというと、私たちが使う時間とかあるいは取引とかも全部含めたコストなのですね。ですので、顧客から見て、実はプライス、いわゆるお金だけがイシューではないのですよ。金持ちの人はよく稼げる人ですから、時給が高い。時給が高いので、あまり細かいことをう だうだして安いものを探すよりは、さっと買えて質のいいものであることを求めるわけです。逆に貧乏な人は、自分の時間単価が安いので、顧客単価を下げる努 力をした方が、その人にとってメリットになってしまうんです。ですので、顧客単価と潜在顧客数というのは常に反比例の関係にあります。

 従って、3番目も同様のことにはなるのですが、顧客数が増えるほど平均顧客単価というのは通常下がることになります。これは携帯電話を思い出していただければ分かりやすいと思うのですが、携帯電話の普及率が2%ぐらいしかないころは、客単が4万円などあったわけです。それが10~20%になるころには1万5,000円などに下がって、50~60%超えるころには8,000円になって、今みたいに70~80%になったら、6,000円なわけです。これはなぜかというと、貧民効果と呼びますが、客数を増やせば増やすほど、マーケティング用語で申し訳ないのですが、悪い客をつ かまえに行かなければいけないからです。今、新規で携帯を持つ客って誰かというと、中学生とご老人です。その方たちが、第一線で働いている人のように2万も3万も払えるわけがありません。そうすると、2,000円とか3,000円のプランを用意しますから、顧客単価は下がっていきます。

 4番目は、一体どこで顧客単価を上げればいいのかということなのですが、これは当たり前の話ですけれども、顧客の持つニーズ、あるいはコンプレックスを解消してあげるということが一番単価を上げやすい鍵になります。コンプレックスをもう少し簡単に言いますと、欲求ですよね。欲求の中で一番簡単なのは、多分食欲みたいな欲 求があるわけですけれども、食欲以外の欲求としては、やっぱりモテたいとか、金持ちになりたいとか、もっと頭がよくなりたいとか痩せたいとか、いろんな欲 求があるわけです。なぜ私たちがお金を大好きかというと、別にお金が好きなのではなくて、お金を使うことによって得られる効用が大好きなわけです。なので、コンプレックスを刺激するような名前とか、あるいは物というのは、顧客単価、お財布のヒモが緩みがちになるわけです。

 5番目になりますが、プライシングとは顧客が気持ちよくお金を払ってしまう仕組みということ。一番簡単な事例として本で挙げているのは、「松・竹・梅」のプライシングです。何で松と竹と梅が必要なのか分かりますか? これは、それぞれ気持ちよさが違う人たちが3種類いるからです。松は、高いものを買って満足する人たち。一方、梅の人たちは何かというとすごく節約したということに対して満足する人。真ん中の竹の人たちは何かというと、中庸であるということに満足する人。つまり松、竹、梅がなぜ大事かというと、気持ちよくみんながお金を支払えるからです。

該当講座

「週刊東洋経済」提携セミナー
勝間式「利益の方程式」
利益を生み出す黄金ルール
勝間和代 (経済評論家、公認会計士)

「売上増は七難隠す」という言葉がありますが、これは日本経済が右肩上がりで成長を遂げていたバブル崩壊以前の「売上をあげると利益は後からついてくる」という頃の経験則に基づいた実感です。しかしながら日本の経済状況は成長期から成熟期へ大きく変化し、人々の生活は豊かになるとともに市場は飽和しつつあります。こう....


BIZセミナー 経営戦略