記事・レポート
日本元気塾セミナー正義とは何か、真実とは何か?
『おクジラさま~ふたつの正義の物語~』の映画監督と考える
更新日 : 2017年11月14日
(火)
第4章 表層の奥にある「誇り」「アイデンティティ」に目を向ける
「対話」へのきっかけとは?
佐々木芽生: 映画の後半では、元AP通信記者で日本特派員だったジェイ・アラバスターという、ひとりのアメリカ人ジャーナリストを案内役として物語が進んでいきます。彼は『ザ・コーヴ』をきっかけに会社から太地町の取材を命じられますが、私と同じように「一方の声しか聞こえてこない」という疑問を抱き、町の人々の生の声を聞くために、現地に移住して取材を行っていました。
彼とは撮影を再開した2014年に出会いましたが、日本に長く暮らしている彼と、アメリカに長く暮らしている私は、日米双方の感覚が分かるという共通項があり、物事を俯瞰して捉える感覚も非常に似ていたため、すぐに意気投合しました。彼もまた、この問題を通して真実や正義について思い悩んでおり、色々なことを話し合いましたし、映画の中では彼が私の思いを代弁してくれました。
米倉誠一郎: そうした人がたくさんいれば、対話も進んでいくはずですが、太地町ではその余地も無くなりかけていた。日本でもさまざまな圧力で『ザ・コーヴ』が上映中止になるなど、観ていない人も多いようですが、拒絶・排除するというスタンスでは物事は前に進んでいきませんよね。
佐々木芽生: ノルウェーは日本と同じく捕鯨国ですが、かつてその近海で環境保護団体が過激な抗議活動を行っていたそうです。しかし、ノルウェーの漁師達はそんな相手に対して、船の上から熱いコーヒーを差し出したそうです。おそらく、対話のきっかけになるのはこういうことだと思います。
米倉誠一郎: 太地町では「一緒に一杯やろう」となる前に、関係性が悪化してしまったわけですね。
佐々木芽生: たしかに『ザ・コーヴ』が上映されるずっと前から、反捕鯨活動のターゲットにされてきた経緯もあり、「英語を聞いただけでぞっとする」と語る人もいました。そうなる前に、対立する相手にもあえて「コーヒーでも飲もうよ」と声をかけ、問題はいったん脇に置いて、直接お互いの顔を見ながら雑談や世間話をする。そうしたところから始められればよかったのかなと思います。
佐々木芽生: 思うに、太地町の問題は感情的な要素が複雑に絡んでいるような気がします。1つは、国際社会で商業捕鯨が禁止される過程において、日本はさまざまな締め付けを受け、苦い思いを経験してきたことがあります。もう1つは、歴史や文化的な面。太地町の町長も「日本人は戦後の食糧難の時代、クジラに助けられた」と語っていますが、年配の方ほどクジラへの感謝の念が強くあり、また、捕鯨の再開は戦後復興のシンボルにもなっていたそうです。
たしかに、太地町の子ども達もクジラをあまり食べなくなっていますが、話を聞くと「うちのおじいちゃんは南氷洋に行っていた」といった話がポンポン出てきて、お祭りなどを通して生活のあちこちに歴史や伝統が根づいています。そんな彼らにとっては、大切に守り続けてきた仕事や伝統文化が脅かされただけでなく、それらの根底にある誇りやアイデンティティといったものが傷つけられていると思います。日本からもこうしたことを含め、さまざまな情報は発信されていたものの、やり方が上手ではなかったため、世界に届いていなかった。
米倉誠一郎: 自分の存在意義や誇りが傷つけられれば、誰だって怒りたくなります。それは世界のさまざまな問題の根っことも同じですよね。とはいえ、日本人はあらゆる階層において「発信」をとても苦手にしています。
佐々木芽生: 「言わぬが花」ではありませんが、日本人の気質も1つの理由かもしれません。一方で、欧米の人々は情報発信が上手です。それについては、映画公開に合わせて発刊した『おクジラさま』の書き下ろし書籍の中でも、「感情が世界を動かす」という章を設けて、反捕鯨国や団体がいかにメディアを巧みに利用し、人々の感情を動かしてきたのかを書いています。
基本的に立場やスタンスの異なる人同士で議論しているわけですから、かみ合わないのは当然かもしれませんが、その中でも人間と動物の関係性、生命観や自然観が異なるといった対立の根本にある部分から、時間をかけてきちんと説明していく必要もあると思います。
米倉誠一郎: 「伝統は大切だから守る」の一点張りだったり、感情的になったり、あえて黙り込んだりするだけでは、議論は平行線をたどる一方です。日本人は色々な問題に対して、話を濁したり、曖昧にしたりすることを続けてきましたが、そろそろ変わらないといけませんね。自分達の土俵に立ったまま、自分達のやり方だけで説明するのではなく、相手の土俵に入って、客観的な事実をもとにロジカルに組み立てて説明するなど、相手のやり方で説明することも大切になりそうですね。
日本人は優秀ですが、グローバル企業のトップに座るのは、自己主張ができ、対話や議論に長けた外国人が圧倒的に多い。自分の考えをきちんと説明できなければ、世界では評価・信頼されないからでしょう。その意味でも今後、日本人には対話や議論のスキルがますます求められていくと思います。もちろん、自分とは異なる意見や考えを受容したり、多様性を認め合ったりする心も大切です。
ぜひ皆さんも『おクジラさま』を観て、「正義」「真実」「多様性」について考えるためのヒントを得てください。佐々木監督、素晴らしいお話をありがとうございました(了)。
たしかに、太地町の子ども達もクジラをあまり食べなくなっていますが、話を聞くと「うちのおじいちゃんは南氷洋に行っていた」といった話がポンポン出てきて、お祭りなどを通して生活のあちこちに歴史や伝統が根づいています。そんな彼らにとっては、大切に守り続けてきた仕事や伝統文化が脅かされただけでなく、それらの根底にある誇りやアイデンティティといったものが傷つけられていると思います。日本からもこうしたことを含め、さまざまな情報は発信されていたものの、やり方が上手ではなかったため、世界に届いていなかった。
米倉誠一郎: 自分の存在意義や誇りが傷つけられれば、誰だって怒りたくなります。それは世界のさまざまな問題の根っことも同じですよね。とはいえ、日本人はあらゆる階層において「発信」をとても苦手にしています。
佐々木芽生: 「言わぬが花」ではありませんが、日本人の気質も1つの理由かもしれません。一方で、欧米の人々は情報発信が上手です。それについては、映画公開に合わせて発刊した『おクジラさま』の書き下ろし書籍の中でも、「感情が世界を動かす」という章を設けて、反捕鯨国や団体がいかにメディアを巧みに利用し、人々の感情を動かしてきたのかを書いています。
基本的に立場やスタンスの異なる人同士で議論しているわけですから、かみ合わないのは当然かもしれませんが、その中でも人間と動物の関係性、生命観や自然観が異なるといった対立の根本にある部分から、時間をかけてきちんと説明していく必要もあると思います。
米倉誠一郎: 「伝統は大切だから守る」の一点張りだったり、感情的になったり、あえて黙り込んだりするだけでは、議論は平行線をたどる一方です。日本人は色々な問題に対して、話を濁したり、曖昧にしたりすることを続けてきましたが、そろそろ変わらないといけませんね。自分達の土俵に立ったまま、自分達のやり方だけで説明するのではなく、相手の土俵に入って、客観的な事実をもとにロジカルに組み立てて説明するなど、相手のやり方で説明することも大切になりそうですね。
日本人は優秀ですが、グローバル企業のトップに座るのは、自己主張ができ、対話や議論に長けた外国人が圧倒的に多い。自分の考えをきちんと説明できなければ、世界では評価・信頼されないからでしょう。その意味でも今後、日本人には対話や議論のスキルがますます求められていくと思います。もちろん、自分とは異なる意見や考えを受容したり、多様性を認め合ったりする心も大切です。
ぜひ皆さんも『おクジラさま』を観て、「正義」「真実」「多様性」について考えるためのヒントを得てください。佐々木監督、素晴らしいお話をありがとうございました(了)。
該当講座
正義とは何か、真実とは何か?
「おクジラさま- ふたつの正義の物語-」の映画監督と考える
佐々木芽生(映画監督)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
紀伊半島の小さな町(太地町)に押し寄せた、クジラを巡る大きな衝突を、単純な捕鯨問題の是非ではなく、「グローバリズム vs ローカリズム」「正義とは、真実とは何か?」など奥深いそして根源的な問題として捉えたドキュメンタリー映画「おクジラさま-ふたつの正義の物語-」の監督と日本元気塾の米倉塾長との対談セミナー。
日本元気塾セミナー正義とは何か、真実とは何か? インデックス
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第1章 日本の小さな漁村に押し寄せたグローバリズム
2017年11月14日 (火)
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第2章 世界で増え続ける「対立」の根底にあるもの
2017年11月14日 (火)
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第3章 情報、コミュニケーション、リスペクトの欠如
2017年11月14日 (火)
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第4章 表層の奥にある「誇り」「アイデンティティ」に目を向ける
2017年11月14日 (火)
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