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日本元気塾セミナー正義とは何か、真実とは何か?

『おクジラさま~ふたつの正義の物語~』の映画監督と考える

更新日 : 2017年11月14日 (火)

第3章 情報、コミュニケーション、リスペクトの欠如

日本元気塾塾長 米倉誠一郎


基準の「違い」に目を向ける

米倉誠一郎: 実に重く、深く、広いテーマですね。だからこそ、「ふたつの正義の物語」というタイトルが示すように、『おクジラさま』は特定の視点に偏らず、あえて1つの答えを求めなかった。

佐々木芽生: そうですね。捕鯨の賛否を問う、物事の善悪を問うといった描き方をしないように心がけました。

米倉誠一郎: 元々、映画監督になろうとは考えていなかったそうですが、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょう?

佐々木芽生: 最初に就職したのは東北新社という会社で、映画の買い付けの仕事をしていました。その後アメリカに渡り、フリージャーナリストを経てNHKアメリカ総局で4年間、キャスターやレポーターを務めました。そして独立し、テレビドキュメンタリーの取材・制作を始め、2008年に『ハーブ&ドロシー~アートの森の小さな巨人』という、ニューヨークに暮らすアート収集家の素敵な夫妻を描いたドキュメンタリー映画を制作しました。2013年の続編『ハーブ&ドロシー2~ふたりからの贈りもの』を経て、『おクジラさま』は3作目となります。

米倉誠一郎: 若い頃から「伝える」ことに興味があった?

佐々木芽生: 特段、映画好きというわけでもなく、若い頃は自分が何をしたいのか、全く分かりませでした。振り返ってみると、最初に就職した会社以降、不思議と映画の神様に導かれてきたような気がします。実際は行き当たりばったりでしたが(笑)。

米倉誠一郎: しかし、伝えるという点で言えば、『ザ・コーヴ』の描き方はとにかく一方的だった。シーシェパードの人達の理念は分かりますが、それぞれの社会多様性に対するリスペクトに欠けている点も気になりました。

佐々木芽生: ニューヨークでこの映画を観た時は、現地の人々も「イルカ漁や捕鯨には反対だけど、この考えの押し付け方はダメだよね」と言っていましたね。

米倉誠一郎: 歴史やそれにまつわる人々の思い、漁の周辺の産業やお祭りといった前後の文脈を理解しなければ、リスペクトも欠けてしまいますよね。情報やコミュニケーションの欠如によって、何も知らずに追い込み漁のシーンだけを観れば、やはり野蛮で残酷な人々に見えてしまう。それと似たようなことが今、世界各地で起こっているわけですから、まさに“縮図”ですね。さらに、賢い動物だから保護する、そうでない動物は保護しないという考え方は、かつての優生思想を連想させます。

佐々木芽生: 日本人の根底には神道や仏教の思想があり、八百万の神、万物に魂が宿っている、人間も自然の一部といった考え方があります。だから、すべての命あるものに感謝する。一方で、欧米はユダヤ、キリスト教、ギリシャの哲学などの中で育まれた人間中心主義が根底にあります。ただ、それに対しても科学者や哲学者などが長く議論し続けてきた中で、すべてを保護するのは無理だから、まずは人間に近い賢い動物、かわいいと感じる動物から保護しよう、という考えに至ったようです。

米倉誠一郎: そこがまた難しい。人間に近い、賢い、かわいいとなる基準はいったい何なのか。それも非常に曖昧なものですよね。

佐々木芽生: 本当に人それぞれです。世界には犬や猫を食べる地域もありますが、最近はその様子がニュースやSNSを通じて世界に発信され、対立や衝突が起きています。数年前にニューヨーク・タイムズ紙でも取り上げられ、私もその画像や映像を見て「ウワーッ」となりました。その時に初めて、捕鯨やイルカ漁に反対する人の気持ちもこれと同じなのかと理解できました。

視点を変えれば、捉え方も変わる


米倉誠一郎: 異なる文化、宗教、価値観を持つ人達に対して敬意を払わず、理解しようともしない。自分達の秩序を乱すものに対して嫌悪したり、拒否したりする。こうした動きが今後、行き過ぎたローカリズム、自分の暮らす地域・国だけ安泰であればいい、向こうは野蛮で自分達は賢い、といった方向へより進んでいくとすれば、非常に怖いですね。

佐々木芽生: 国や地域といった大きな規模で捉えていると、1つの出来事だけを見て、相手を理解したつもりになりがちです。しかし、視点を変えてみれば、相手の捉え方も変わると思います。例えば、個人レベルで仲良くなれば、相手の国について深く理解したり、リスペクトしたりする気持ちも芽生えるはずです。

米倉誠一郎: 僕も東南アジアやアフリカでたくさんの人と交流していますが、本当にそう思います。また、若い頃、アメリカの大学に留学した時も本当に親切にしてもらいましたし、さまざまな国の若者と語り合ったおかげで、視野も考え方も広がりました。当時は各国の若者を受け入れて学問を提供し、成長したら母国に返して活躍してもらうといった大らかさや自由がありました。それこそ、最大の国防政策だと思います。そんなアメリカが、今はおかしな方向に進んでいるのがとても気になりますねぇ。

佐々木芽生: しかし、トランプが大統領に選ばれるのもアメリカであり、彼に対して各地で抗議活動が起こり、誰もが自由に意見を言っているのもアメリカ。自由や多様性という点では、日本よりも格段に進んだ状況にあります。ただ、イルカ漁や捕鯨に関しては賛否両論がなく、なぜか一方的な視点しかなかった。そこに強い疑問を感じたわけです。



該当講座


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「おクジラさま- ふたつの正義の物語-」の映画監督と考える
正義とは何か、真実とは何か? 「おクジラさま- ふたつの正義の物語-」の映画監督と考える

佐々木芽生(映画監督)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
紀伊半島の小さな町(太地町)に押し寄せた、クジラを巡る大きな衝突を、単純な捕鯨問題の是非ではなく、「グローバリズム vs ローカリズム」「正義とは、真実とは何か?」など奥深いそして根源的な問題として捉えたドキュメンタリー映画「おクジラさま-ふたつの正義の物語-」の監督と日本元気塾の米倉塾長との対談セミナー。