記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?
AI時代の未来を俯瞰する:羽生善治×石山洸
更新日 : 2017年05月16日
(火)
第4章 AI時代に変えていくもの、変えないもの
AIは“万能”ではない
石山洸: 将棋は、互いが最善手を指し続けた場合、先手必勝か、後手必勝か、引き分けかに収束するゲームだとうかがいました。
羽生善治: 打ち手のパターン数としては、チェスが10の120乗、将棋が10の220乗、囲碁が10の360乗と言われています。平均すると、将棋では1つの局面で約80通りの選択肢があり、120手前後で対局が終わります。完全情報ゲームなので、理論上は勝ち、負け、引き分けのいずれかに収束する……はずなのですが、問題は本当に収束するのかどうか。
囲碁のプログラムで使われる「モンテカルロ法」という計算理論があります。とりあえず最後まで打ち、その結果を比較して良いか悪いかを判断するもので、囲碁はそれがうまくいきますが、将棋ではうまくいかない。つまり、円周率のように計算し続けても収束しないケースがあるわけです。究極的には結論が出るのかもしれませんが、現状では確認できないのです。
石山洸: いまの質問の背景としては、「AIが人間に勝ったら、将棋はゲームとしておしまいだ」ということではないと。それに対する羽生さんの答えとして、AIをもってしても将棋という“小宇宙”の一側面を理解しているだけ、ということですね。
羽生善治: そうです。実は、将棋や囲碁でもAIが強くなっていますが、予測されていた「強さの理論値」には全く届いていません。AIは万能でミスをしないと思いがちですが、実は強いけれど、ミスもたくさんしています。実際は、70%を71%にして次は72%……と、確率的なアプローチで段階的にパフォーマンスを向上させていった結果、現在の性能を得ている。決して万能ではないのです。
石山洸: 人間は長い時間をかけて、将棋という“小宇宙”の一部を理解してきた。AIはいま、それとは異なる方向から一部を理解しはじめている。そして今後は、人間とAIが一緒に旅をしていくと。
羽生善治: そうなると思います。人間の場合、学問や技術の世界も基本的に全てが体系的で、脈絡がありますよね。「過去に○○があり、新たに○○の発見があって、前に進んだ」といったように。AIや将棋ソフトは、その点がバラバラです。意思や目的がないため、完全に離散したまま情報が出てくる。その離散したものを集め、方向性や枠組みをつくる「まとめ役」として、まだまだ人間が必要なのだと思います。
文化としての「将棋」
石山洸: AIや将棋ソフトが登場したことで、子どもたちの成長スピードも速くなっていますか?
羽生善治: 間違いなく速くなっていますね。新しく何かを学ぶということでは、飽きないように楽しく工夫する、その人に最適な課題やテーマを提供することが重要になります。AIが最も得意なことは「最適化」ですから、質の高いデータがさらに増えていけば、個人にカスタマイズされた最適な課題や学習法を提示してくれるようになるかもしれません。
石山洸: そうなれば、従来とは教育の考え方も変わってきますね。将棋の世界はどうでしょう?
羽生善治: そもそも、将棋の世界には音楽やスポーツのような確立されたメソッドがありません。私がこの世界に入る少し前までは、職人の世界のように師匠の家に住み込んで修行をする「内弟子」が一般的でした。しかし、将棋のレッスンは行わず、ひたすら掃除やおつかいばかり。「自分の道は自分で切り拓け」というか、手とり足とり教えたり、師匠の考えを押しつけたりすると、自分のスタイルや個性が確立できないと、伝統的に考えられてきたようです。
石山洸: 将棋には「知的スポーツ」の側面がある一方で、「文化」という側面もあると。羽生さんご自身として、これは残したいと思う将棋の文化は?
羽生善治: 将棋は元々、インドで生まれた「チャトランガ」が起源とされています。現在もアジアには国ごとに“将棋”がありますが、多くは知的スポーツとして受け継がれてきたものです。その中で日本の将棋はある種独特で、江戸時代は茶道や華道と同じような家元制度があり、家元の称号として「名人」が継がれてきました。発祥は同じでも、育ってきた歴史的背景が異なるのです。
その意味では、駒の並べ方などの「型」、作法やしきたりなど、長年かけて磨かれてきたものは大切に残し、良き伝統として受け継いでいきたいですね。一方で、盤上で行われていることは完全にテクノロジーの世界とリンクするため、新たに取り込めるものは取り込んで、進歩・発展を遂げていくのがいいと思います。
石山洸: お話を聞いていると、本格的なAI時代が到来しても、楽観的に生きていける気がしてきますね。先頭打者にイチロー選手がいてくれると頼もしいように、AI時代の先頭打者として羽生さんがいてくれれば、とても安心です(笑)。
羽生善治: 間違いなく速くなっていますね。新しく何かを学ぶということでは、飽きないように楽しく工夫する、その人に最適な課題やテーマを提供することが重要になります。AIが最も得意なことは「最適化」ですから、質の高いデータがさらに増えていけば、個人にカスタマイズされた最適な課題や学習法を提示してくれるようになるかもしれません。
石山洸: そうなれば、従来とは教育の考え方も変わってきますね。将棋の世界はどうでしょう?
羽生善治: そもそも、将棋の世界には音楽やスポーツのような確立されたメソッドがありません。私がこの世界に入る少し前までは、職人の世界のように師匠の家に住み込んで修行をする「内弟子」が一般的でした。しかし、将棋のレッスンは行わず、ひたすら掃除やおつかいばかり。「自分の道は自分で切り拓け」というか、手とり足とり教えたり、師匠の考えを押しつけたりすると、自分のスタイルや個性が確立できないと、伝統的に考えられてきたようです。
石山洸: 将棋には「知的スポーツ」の側面がある一方で、「文化」という側面もあると。羽生さんご自身として、これは残したいと思う将棋の文化は?
羽生善治: 将棋は元々、インドで生まれた「チャトランガ」が起源とされています。現在もアジアには国ごとに“将棋”がありますが、多くは知的スポーツとして受け継がれてきたものです。その中で日本の将棋はある種独特で、江戸時代は茶道や華道と同じような家元制度があり、家元の称号として「名人」が継がれてきました。発祥は同じでも、育ってきた歴史的背景が異なるのです。
その意味では、駒の並べ方などの「型」、作法やしきたりなど、長年かけて磨かれてきたものは大切に残し、良き伝統として受け継いでいきたいですね。一方で、盤上で行われていることは完全にテクノロジーの世界とリンクするため、新たに取り込めるものは取り込んで、進歩・発展を遂げていくのがいいと思います。
石山洸: お話を聞いていると、本格的なAI時代が到来しても、楽観的に生きていける気がしてきますね。先頭打者にイチロー選手がいてくれると頼もしいように、AI時代の先頭打者として羽生さんがいてくれれば、とても安心です(笑)。
該当講座
六本木アートカレッジ 「人間にとってAIとは何か?」
羽生善治(将棋棋士)×石山洸(Recruit Institute of Technology推進室室長)
昨年、コンピュータ囲碁プログラムのアルファ碁が人間のプロ囲碁棋士を初めて破ったことで話題になったAI。2045年にはAIの人間の能力を超える出来事、シンギュラリティ(技術的特異点)が起きるという予測もあります。AIが人間を超えるとはどういう意味なのでしょうか? 研究者である石山洸氏、そして既に競合相手としてAIと戦っている羽生善治氏に「AIとは何か?」を語っていただきます。
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?
インデックス
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第1章 人間の発想×AIの発想で新たな価値創造を
2017年05月16日 (火)
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第2章 リアルとバーチャルをつなぐAI
2017年05月16日 (火)
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第3章 AIは人類にリスクをもたらすのか?
2017年05月16日 (火)
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第4章 AI時代に変えていくもの、変えないもの
2017年05月16日 (火)
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第5章 羽生善治が考えるAIの可能性
2017年05月16日 (火)
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