記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?
AI時代の未来を俯瞰する:羽生善治×石山洸
更新日 : 2017年05月16日
(火)
第3章 AIは人類にリスクをもたらすのか?
羽生善治が考えるAI活用法
羽生善治: 私が棋士になった31年前は、とても牧歌的な時代でした。その後、棋譜がデータベース化され、インターネットや将棋ソフトが登場し、ここ数年は信じられないほどの変化が一気にやってきています。ITの世界に「ドッグイヤー」という言葉がありますが、同じことが将棋を含め、あらゆる分野で起こりはじめている。急激な変化にいかに対応していくかが、今後は大切になりますね。
石山洸: 変化に対応するために、羽生さんご自身が新たに始めたこと、変えたことは?
羽生善治: インターネットが登場した頃は、私もネット将棋を指しましたし、現在も多くの人がオンライン対局を楽しんでいます。そこにはプロもアマチュアもいて、基本的に匿名ですが、素人なのかプロなのかは少し指せば分かります。実は以前、翌日の対局のウォーミングアップを兼ねてネット将棋を始めたら、相手はどうも翌日の対戦者だったようで……(笑)。あまりよくないなと思い、ネット将棋はやめました。
今後は、「自分のアイデアを確認する」「新たな発想のヒントを得る」ために、将棋ソフトを使うことになると思います。例えば、ある問題やテーマがあり、将棋ソフトが「解答」を出してくれたとする。とはいえ、「問題」と「解答」だけを見続けても、自分の成長につながるとは思えません。人間の場合は、「プロセス」を理解することで理解度や定着度が深まるからです。その意味でも、今後は試行錯誤しながら学習の方法論を確立しなければと思っています。
石山洸: インターネットを活用し、従来はつながれなかった人とつながる。もう1つは、AIも人間にとって1つのツールであり、それを活用する際は、特性を深く理解した上で活用すると。
羽生善治: そうですね。人間同士で議論し、研究・分析することでも考えは深まりますが、今後はAIという人間の「外側」にある知性や発想を取り入れることは絶対に必要です。また、これはAIに限らないと思いますが、往々にして制作者自身は自分の作ったものから、どれほど画期的・独創的なものが生み出されているのか、なかなか気づかない。その点は使う側が見つけ出し、広く提示してあげることが大切になります。
石山洸: AIの発想を活用して、人間は新たな視点やアイデアを得ていく。もしくは、AIと一緒に人間も学習しつつ、AIが提供してくれた新たな価値を見つけ出していく。すごくおもしろいですね。
AIが人間を変えていく
羽生善治: 私たちは今後、AIが判断・選択した結果に触れる機会が飛躍的に増えていくはずです。感情や美的感覚のようなものを持たないAIが選んだ結果に対し、最初は違和感を覚えるかもしれません。しかし、慣れていくうちに取り入れられる部分が増えていき、人間の美的センスや従来の「当たり前」が少しずつ変わっていくのかなとも思っています。
石山洸: 先入観や常識、既成概念といったバイアスが、AIによって取り除かれていく。
羽生善治: そうですね。人間の先入観やバイアスが生じる理由は、生存本能や恐怖心とも密接に関係しています。AIはそれらを排除した視点で判断・選択します。将棋では、こうした選択が効果を発揮する可能性もありますが、日常生活では大きな支障をきたしますよね。
石山洸: たしかに、リスクを全く感じなくなるのは非常に危ない。人間の脳はそれほど危険ではない場合も、確実に回避するために強めの危険信号を出します。それと同じように、AIの良い点・悪い点が50/50だったとしても、人間は悪い点にバイアスがかかり、恐怖心を覚えるのかもしれません。
羽生善治: とはいえ、武道などの世界では「恐怖心を取り除いて無になる」とも言われるので、AIが進化していく先に、「無」になるための水先案内人として活用される可能性があるかもしれない。
石山洸: おもしろいですね。
羽生善治: 恐怖心と言えば、2015年にオックスフォード大学「人間の未来研究所」から『人類の抱える12のリスク』(12 Risks that threaten human civilization)というレポートが出されましたが、気候変動やパンデミックといったリスクと一緒にAIが挙げられています。
たしかに、人間が悪用すれば大きなリスクになりますが、捉え方によっては、AIが進化してくことで残りの11のリスクを、一部ないし全て解決してしまう可能性もある。その意味でAIは、プラス面とマイナス面、それぞれの面積が大きい非常にユニークなジャンルだと感じています。
石山洸: 12のリスクの中で、AIだけがリスクの質が異なり、それとどう向き合っていくのかが重要な論点になると。やはり、羽生さんは情報の読み方がひと味違いますね。
石山洸: 先入観や常識、既成概念といったバイアスが、AIによって取り除かれていく。
羽生善治: そうですね。人間の先入観やバイアスが生じる理由は、生存本能や恐怖心とも密接に関係しています。AIはそれらを排除した視点で判断・選択します。将棋では、こうした選択が効果を発揮する可能性もありますが、日常生活では大きな支障をきたしますよね。
石山洸: たしかに、リスクを全く感じなくなるのは非常に危ない。人間の脳はそれほど危険ではない場合も、確実に回避するために強めの危険信号を出します。それと同じように、AIの良い点・悪い点が50/50だったとしても、人間は悪い点にバイアスがかかり、恐怖心を覚えるのかもしれません。
羽生善治: とはいえ、武道などの世界では「恐怖心を取り除いて無になる」とも言われるので、AIが進化していく先に、「無」になるための水先案内人として活用される可能性があるかもしれない。
石山洸: おもしろいですね。
羽生善治: 恐怖心と言えば、2015年にオックスフォード大学「人間の未来研究所」から『人類の抱える12のリスク』(12 Risks that threaten human civilization)というレポートが出されましたが、気候変動やパンデミックといったリスクと一緒にAIが挙げられています。
たしかに、人間が悪用すれば大きなリスクになりますが、捉え方によっては、AIが進化してくことで残りの11のリスクを、一部ないし全て解決してしまう可能性もある。その意味でAIは、プラス面とマイナス面、それぞれの面積が大きい非常にユニークなジャンルだと感じています。
石山洸: 12のリスクの中で、AIだけがリスクの質が異なり、それとどう向き合っていくのかが重要な論点になると。やはり、羽生さんは情報の読み方がひと味違いますね。
該当講座
六本木アートカレッジ 「人間にとってAIとは何か?」
羽生善治(将棋棋士)×石山洸(Recruit Institute of Technology推進室室長)
昨年、コンピュータ囲碁プログラムのアルファ碁が人間のプロ囲碁棋士を初めて破ったことで話題になったAI。2045年にはAIの人間の能力を超える出来事、シンギュラリティ(技術的特異点)が起きるという予測もあります。AIが人間を超えるとはどういう意味なのでしょうか? 研究者である石山洸氏、そして既に競合相手としてAIと戦っている羽生善治氏に「AIとは何か?」を語っていただきます。
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?
インデックス
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第1章 人間の発想×AIの発想で新たな価値創造を
2017年05月16日 (火)
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第2章 リアルとバーチャルをつなぐAI
2017年05月16日 (火)
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第3章 AIは人類にリスクをもたらすのか?
2017年05月16日 (火)
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第4章 AI時代に変えていくもの、変えないもの
2017年05月16日 (火)
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第5章 羽生善治が考えるAIの可能性
2017年05月16日 (火)
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