記事・レポート

六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第9回
人間にとってAIとは何か?

AI時代の未来を俯瞰する:羽生善治×石山洸

更新日 : 2017年05月16日 (火)

第1章 人間の発想×AIの発想で新たな価値創造を

高度な計算能力を持ったハード、ビッグデータ、そしてディープラーニングの登場により、人工知能(AI)は近年、飛躍的な進化を遂げています。昨年は「AlphaGo」(アルファ碁)がプロ囲碁棋士に勝利したことが大きな話題となりましたが、いまやAIは私たちの身近な場所でも活用されはじめています。はたして、AIは人間にとって脅威となるのか? AIの進化によって私たちのくらしはどう変わるのか? 将棋棋士の羽生善治氏と、気鋭のAI研究者・石山洸氏が、人間とAIの未来を探っていきます。

スピーカー:羽生善治(将棋棋士)
スピーカー:石山洸(元Recruit Institute of Technology推進室室長)

※文中や画像内にある石山氏の肩書はセミナー開催当日(2017/2/2)のものです。

気づきポイント

●今後は「人間の知性×AIの知性」によって、全く新しいイノベーションが生まれる時代になる。
●AIが確率論的な答えを示しても、独創・創造の種となる多様性や個性を保ち続けることが大切。
●AIには無限のポテンシャルがある。しかし、その活かし方を“考える”のは、あくまでも人間。


写真左:石山洸(元Recruit Institute of Technology推進室室長)写真右:羽生善治(将棋棋士)


将棋ソフトの飛躍的な進化

羽生善治: 最近は将棋をはじめ、チェス、囲碁などのボードゲーム全般で「ソフト」が強くなっています。私は15年ほど前、人工知能(AI)の専門家から「ソフト開発をしなくても、ハードの進歩だけで確実に強くなる」と聞いていましたが、最近の著しい進化はそれだけが理由ではないようです。

将棋ソフトが強くなった1つの要因は、「局面の評価」が向上したこと。将棋では、局面ごとに正しい評価が必要になります。プログラミングの世界では「評価関数」と言いますが、例えば、Aという手はプラス100点、Bという手はプラス200点となれば、後者を選ぶ。しかし、そもそも双方とも良くない手であれば、何十万手先まで読んでも意味をなさなくなります。正しくその局面を評価することは非常に難しいのです。

チェスは将棋よりも早い段階でソフトが強くなりました。IBMが“Deep Blue”というスーパーコンピュータを開発し、過去の膨大なデータをもとに強くしたからです。近年は将棋でも、数多くのプログラマーが評価関数について試行錯誤し、徐々に強くなっています。

もう1つの要因は、開発を「オープン」にしたこと。10年ほど前、将棋ソフトが伸び悩んでいた時期に、従来とは全く異なるアプローチのプログラム“Bonanza”が登場し、突破口を開きました。同時に、そのソースコードが公開されたことで世界中のプログラマーが改善に取り組みはじめ、飛躍的に性能が向上していきました。

現在は、毎年開催される世界コンピュータ将棋選手権で上位を占めたプログラムがGitHubで公開され、そこから新たな開発が始まります。画期的なプログラムが公開されて、翌年はそれをベースに、さらに高い性能を持ったプログラムが開発される。これが毎年のように繰り返されているのです。

将棋ソフトの進化は、棋士にも様々な影響を与えています。最近はプロの対局がネット中継されていますが、画面上には将棋ソフトの評価値も表示されます。そのため、棋士が一手指すごとに、観戦者の書き込み欄には「正解」「不正解」などと出てくる。最初は不思議な感じがしましたが、評価値が示されることで、将棋を知らない人にも盤上の展開が見えやすくなったと思います。

ブラックボックスから得るもの



羽生善治: 今後は、人間の意識や発想の「盲点」を打ち消すツールとして、AIが重要になっていくと考えています。そのために必要なのが、ブラックボックスを解明することでしょう。

最近話題の「ディープラーニング」は、アウトプットを導くまでのプロセスが非常に複雑で、まさにブラックボックスです。将棋ソフトも同様で、現在はどのようなプロセスを経て最善手を選んだのかは分かりません。今後、棋士が強くなる過程ではこのブラックボックス、人間の知性とは異なるAIの知性を解明し、吸収していくことが重要になると思います。

「創造」という意味では、人間の発想とAIの発想、両方あったほうが今までになかった価値が生み出せるはずです。「人間対AI」と二項対立で考えるのではなく、「人間×AI」として何ができるのかを考えてみる。あるいは、「人間+AI」と考え、データ処理や計算はAIに任せて、人間はよりクリエイティブなことに傾注し、新しいものを生み出していく。それは棋士にとっても必要な考え方だと思っています。




該当講座


六本木アートカレッジ 「人間にとってAIとは何か?」
六本木アートカレッジ 「人間にとってAIとは何か?」

羽生善治(将棋棋士)×石山洸(Recruit Institute of Technology推進室室長)
昨年、コンピュータ囲碁プログラムのアルファ碁が人間のプロ囲碁棋士を初めて破ったことで話題になったAI。2045年にはAIの人間の能力を超える出来事、シンギュラリティ(技術的特異点)が起きるという予測もあります。AIが人間を超えるとはどういう意味なのでしょうか? 研究者である石山洸氏、そして既に競合相手としてAIと戦っている羽生善治氏に「AIとは何か?」を語っていただきます。


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