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六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第7回
ジャパンウェア~日本型ベンチャースピリットの行方~

現代日本の源をさぐる:松岡正剛×大澤真幸

更新日 : 2017年04月18日 (火)

第4章 リスクヘッジではなく、リスクテイクを



自分の中に「概念」を持つ

松岡正剛: 日本人が自信を失い、虚勢を張ってしまう前に必要だったのは、「リスクテイク」だったわけですが、日本はひたすら「リスクヘッジ」を続けてしまった。

リスクテイクとは何か。それは、ヘッジできないリスクに直面したとき、あえてそれを受け入れ、そこから新しい哲学や思想、生き方を創造し、再生していくことです。ヘッジできないリスクとは、1つは自然災害、もう1つは人心です。

「ヘッジできないもの」からでなければ生まれない哲学や思想があり、それはプラトンが『国家』を書いた頃から、人間がずっと考えてきたことでもある。そして、失われた時代の記憶も抱えながら、リスクを乗り越え、力強く再生していく。必ずマイナスが先にあり、そこに新しい何かがプラスされ、前に進んできたわけです。

人がリスクヘッジに走ってしまう理由は、「わが」「our」にある。われら、わが社会、わが社。守護化された集団の中に自分という存在を入れたとき、人はリスクテイクをしなくなる。反対に、集団から離れ、「わが」を投げ捨て、無我、利他となったとき、人はリスクテイクできるようになるのに、現代社会ではそれがない。

また、現在の日本には、自らに対する危機感を芽生えさせるような「概念」がありません。例えば、千利休は豪華絢爛な安土桃山時代に、対極をなす簡素な茶の道を確立した。平和な状況下、リスクを承知で天下人に逆らうようなことをしていたわけです。自国の文化、国の行く末を律するために、利休は自分の中に「侘び」という概念を創り出し、リスクを突き抜けようとした。

大澤真幸: 面白いですね。未来に何が起こるかなど誰にもわからないし、リスクが無くなることもあり得ない。そうした中で、自分の中に確固たる概念があれば、それはリスクテイクする勇気を与えてくれるものになる。

僕は今度、『日本史のなぞ~なぜこの国で一度だけ革命が成功したのか』(朝日新書)という本を書きましたが、日本という国は、リスクを背負って自発的に革命を起こした経験がほとんどないのです。例えば、大化の改新も、唐が大陸に成立し、新羅と仲よくなり、軍事的脅威が高まらなければ、おそらく起きなかった。明治維新も、ペリーが来なければ鎖国が続いていたはず。1945年の民主革命は、戦争に負けたから。しかし、日本の歴史の中で一度だけ、真にリスクテイクをして革命を起こした人物がいる。

信長でもない、龍馬でもない。すぐに思いつくような人物ではありません。詳しくはぜひ一読いただきたいと思いますが、ただ、日本にも革命に成功した人物は確実にいる。だから、現代の日本人もできるはずです。



該当講座


六本木アートカレッジ これからのライフスタイルを考える 「情報過多社会での暮らし方」
六本木アートカレッジ これからのライフスタイルを考える 「情報過多社会での暮らし方」

松岡正剛(編集工学研究所所長)× 大澤真幸(社会学者)
下剋上の戦国時代の日本人は、「ベンチャースピリット」があったようですが、現代は「日本人って自己主張しないよね」「日本って保守的な国だよね」そんな言葉を耳にすることがあります。では一体、現代日本のヒト・文化・社会の特徴はいつ、どこで形作られたのでしょうか?
二人の論客は、いつの時代のどのような事象に、日本人の源を見るのでしょうか? そして、これからどのような変化を想定するのでしょうか?加速度的に進むグローバル化の中で、何を変え、何を守るのか、一緒に考えていきたいと思います。


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