記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第7回
ジャパンウェア~日本型ベンチャースピリットの行方~
現代日本の源をさぐる:松岡正剛×大澤真幸
更新日 : 2017年04月17日
(月)
第2章 自信過剰と自信喪失のサイクル
明治から戦前、戦後から現代
松岡正剛: グローバル資本主義によって、自国の文化、歴史、言語などへの強い自覚が求められるようになる。にもかかわらず、日本人はその点が圧倒的に不足していた。例えば、失われた10年、あるいは20年、自民党も現・民進党、東京や大阪などの自治体も何をやったのかよくわからない。
さかのぼれば、江戸時代は他国との貿易は多少あり、イマニュエル・ウォーラーステインが言うところの「世界システム論」の一部には組み込まれていたものの、ほぼ鎖国状態の中で独自の経済システムを作り上げていた。
明治期は、産業革命が遅れ馳せながら到来し、資本主義的な取り組みも少し成功した。しかも、朝鮮半島や中国、台湾に手を伸ばしてしまった。日本の海外に植民地を求めるといった資本主義的な実験は、すべて失敗している。敗戦後は、グローバル資本主義になった途端、日本人は自信を失い、ベンチャースピリットが発揮できなくなってしまった。なぜだと思いますか?
大澤真幸: 難しい質問ですね。実は、明治維新から太平洋戦争までのプロセスと、戦後から現在に至るプロセス、この2つは似ています。明治維新では、日本は幸運にも植民地化されず、鎖国をやめて外交を始めたわけですが、最初は不平等条約で、このままではまずいと……。
松岡正剛: 条約改正に取り組んだ。
大澤真幸: それが明治外交の大目標で、どうにか不平等条約は返上できた。その過程で日清・日露戦争があり、なんとなく過剰な自信をつけてしまった。僕の感覚では、日本は第一次世界大戦を経験しなかったと考えてよいと思います。本当は、世界的には、この大戦を境に、1つの価値観が終わっているのですが、日本はそのことを自覚できなかった……。そのため、日本は太平洋戦争の際、実力不足にもかかわらず、第一次世界大戦以前の様式を真似してしまい、大失敗をした。戦争で負けてはじめて、自信過剰にすぎなかったと気がつくわけです。
戦後は数年間の占領期間があり、その後は建前上では他国と対等な主権国家となったとはいえ、やはりまだまだ未熟者扱いです。これが、不平等条約から始まった明治と似ている。そこから高度成長があり、その間に前の東京五輪があった。東京五輪の成功は、明治でいえば、日露戦争の勝利にちょっと似ています。そして、72年に沖縄が返還されるわけですが、これで、敗戦処理の大きな区切りになる。これこそ、明治で言えば不平等条約の改正にあたる出来事です。
このように、高度経済成長の成功と、これに連動したそこそこの外交的な成果によって、日本人は、少しずつ自信を取り戻し、バブル景気に向かうまでは戦前と同じく、自信過剰に陥る可能性もありました。ところが、なぜかバブル景気の前から、日本人は自信を失っていくのです。
根拠なき自信の回復
大澤真幸: 1973年から5年ごとに行われているNHK放送文化研究所「日本人の意識」調査の中に、日本人の自尊心に関する質問項目があります。それを見ると、調査開始から1983年までは「日本は一流国だ」といった項目が右肩上がりになっています。理由は簡単で、経済の成功ですね。エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーになったのは1979年。これが、日本人が最も自信を持っていた時期でしょう。
ところが1983年をピークに、その後は急降下します。バブル絶頂期の1988年も下がり続け、2003年調査を底にして、再び上昇に転じています。「自信を取り戻して良かったね」と思われるかもしれませんが、実はこれ、社会学的に考えると非常におかしい。2003年以降の日本経済は好調でもなく、政治的にもロクなことがなく、上昇の根拠が見当たらない。ひねくれた見方をしているだけかもしれませんが。
松岡正剛: どうして上昇したのだと思いますか?
大澤真幸: 例えば、自分に対して自信のある人は、それを口に出さず、意外と謙虚ですよね。逆に、自信のない人ほど虚勢を張る傾向がある。
松岡正剛: つまり、2003年以降、日本人は虚勢を張り始めた。
大澤真幸: 1990年代後半は「もう少し謙虚になろう」「まだ大丈夫だろう」といった余裕があった。しかし、その後も低空飛行が長く続いたせいで、次第に心に余裕が無くなり、あるときから「本当は、日本人はすごいのだ!」と虚勢を張り始めた。むしろ、そう言わなければ自己を保てないほど、自信を失ってしまったとも言えますね。
ところが1983年をピークに、その後は急降下します。バブル絶頂期の1988年も下がり続け、2003年調査を底にして、再び上昇に転じています。「自信を取り戻して良かったね」と思われるかもしれませんが、実はこれ、社会学的に考えると非常におかしい。2003年以降の日本経済は好調でもなく、政治的にもロクなことがなく、上昇の根拠が見当たらない。ひねくれた見方をしているだけかもしれませんが。
松岡正剛: どうして上昇したのだと思いますか?
大澤真幸: 例えば、自分に対して自信のある人は、それを口に出さず、意外と謙虚ですよね。逆に、自信のない人ほど虚勢を張る傾向がある。
松岡正剛: つまり、2003年以降、日本人は虚勢を張り始めた。
大澤真幸: 1990年代後半は「もう少し謙虚になろう」「まだ大丈夫だろう」といった余裕があった。しかし、その後も低空飛行が長く続いたせいで、次第に心に余裕が無くなり、あるときから「本当は、日本人はすごいのだ!」と虚勢を張り始めた。むしろ、そう言わなければ自己を保てないほど、自信を失ってしまったとも言えますね。
該当講座
六本木アートカレッジ これからのライフスタイルを考える 「情報過多社会での暮らし方」
松岡正剛(編集工学研究所所長)× 大澤真幸(社会学者)
下剋上の戦国時代の日本人は、「ベンチャースピリット」があったようですが、現代は「日本人って自己主張しないよね」「日本って保守的な国だよね」そんな言葉を耳にすることがあります。では一体、現代日本のヒト・文化・社会の特徴はいつ、どこで形作られたのでしょうか?
二人の論客は、いつの時代のどのような事象に、日本人の源を見るのでしょうか? そして、これからどのような変化を想定するのでしょうか?加速度的に進むグローバル化の中で、何を変え、何を守るのか、一緒に考えていきたいと思います。
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第7回
ジャパンウェア~日本型ベンチャースピリットの行方~
インデックス
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第1章 現代は「不可能性の時代」
2017年04月17日 (月)
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第2章 自信過剰と自信喪失のサイクル
2017年04月17日 (月)
-
第3章 「日本型ベンチャースピリット」の特徴
2017年04月18日 (火)
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第4章 リスクヘッジではなく、リスクテイクを
2017年04月18日 (火)
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第5章 空海、イチローに見るベンチャースピリット
2017年04月19日 (水)
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