記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第1回
未来のヒントはアートにある? ~アートと社会~
南條史生×竹中平蔵が語る、アートの可能性
更新日 : 2016年09月28日
(水)
【後編】 アートの「読み方」とは?
革命家とアーティスト
竹中平蔵: 示唆に富んだキーワードがたくさん登場し、とてもワクワクしました。例えば、想像をテーマにしたウォルター・デ・マリアの《The Lightning Field》。空想や想像は、私たちの未来を考える上で非常に重要なキーワードです。アインシュタインは「空想は知識より重要である。知識には限界がある。想像力は世界を包み込む」と語っています。言うなれば、空想を具現化すること、未来を見通す力を刺激することが、アートの1つの役割とも考えられます。
南條史生: 空想や想像は、クリエイティビティの原点ですよね。「サイエンスとアートは同源だ」と言われますが、それは双方ともに起点となるのが空想や想像だから。空想と言えば、森美術館では2017年1月まで「宇宙と芸術展」を開催します。宇宙旅行が現実味をおびてきたいま、曼荼羅やレオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ人類が空想してきた「宇宙」から、宇宙開発の最前線を紹介する展示まで、一堂に集めた展覧会です。
竹中平蔵: それは非常に楽しみです。空想といえば、現代アートの批判精神、破壊と創造といったお話が出てきましたね。経済の世界でも、イノベーション理論の祖であるヨーゼフ・シュンペーターが、「創造的破壊」という言葉を残しているように、それはまさしくコインの裏表のような関係にあるものです。
アクラム・ザアタリさんのベイルート空爆の写真は、戦争の過酷な現実を直視させることで、人々に平和を連想させるような作品だと思います。しかし、ともすれば、こうした作品はクリエイティブな部分よりも、批判の部分ばかりクローズアップされてしまいがちです。批判にとどまることなく、そこから新しい何かを創造できるのでしょうか。
南條史生: それは革命家の話と似ています。革命家は、既存の体制やシステムを壊す。次に何を作るのかと問うと、革命家は「壊すのが私の仕事だ。作るのは次の人の仕事だ」と答える。フランス革命の態度にも、そうした傾向がうかがえます。たしかに、70億人の中には、批判するタイプの人もいれば、新しい何かを作るタイプの人もいます。
言うなれば、アーティストは炭坑に連れていかれたカナリアのような存在です。現在の社会に流れる空気のようなものをいち早く察知し、それを表現する存在であり、本人が実際に何かを変えることまではしない。
竹中平蔵: つまり、警鐘を鳴らしたり、注意を喚起したり、あるいは、新たなモノの見方や価値観を提起したりする存在であると。例えば、片山真理さんの作品も、自分と他者の関係、ポジティブとネガティブ、ダイバーシティといったものを考えるきっかけになっている。
南條史生: 100年前は「この作品は展示できない」とネガティブに捉えられた作品も、現在はポジティブな意味で展示されているケースがある。作品に何らかの意味づけをするのは、アートを「読む」側、すなわち我々一人ひとりであり、社会です。アートをヒントとして、何を感じ、何を考え、何をクリエイトするのか。すべては「読み方」にかかっているわけです。
竹中平蔵: そこにあるものを、私たちがどう受け止め、どう解釈するのか。そして、それをヒントとして何を壊し、何を創り出すのか。その意味でも、作者・作品と「読む」側の対話のプロセスが重要になってくるわけですね。
南條史生: 100年前は「この作品は展示できない」とネガティブに捉えられた作品も、現在はポジティブな意味で展示されているケースがある。作品に何らかの意味づけをするのは、アートを「読む」側、すなわち我々一人ひとりであり、社会です。アートをヒントとして、何を感じ、何を考え、何をクリエイトするのか。すべては「読み方」にかかっているわけです。
竹中平蔵: そこにあるものを、私たちがどう受け止め、どう解釈するのか。そして、それをヒントとして何を壊し、何を創り出すのか。その意味でも、作者・作品と「読む」側の対話のプロセスが重要になってくるわけですね。
クリエイティビティの原点
南條史生: 人類の歴史を振り返れば、どのような時代においても、常に人口の何パーセントかのアーティストが存在していたと思います。つまり、社会というものが存在する限り、アーティストは存在しているわけです。
竹中平蔵: 子どもを見ていると、大人にはよく分からないものを作り、それで遊びながら心底楽しそうにしています。作ったり工夫したりすることが純粋に楽しいと感じている。人間の原点にはそうしたものがあるような気がします。
本来、クリエイティビティというものは、意識したからといって発揮できるものではありませんよね。例えば、Googleの「20%ルール」。勤務時間の20%は、本来の業務以外の自分の好きなことに費やしなさいというルールです。自分の本質的な興味・関心から生まれる遊び心から、新しい何かを発想する。それが起点となり、社会に役に立つイノベーティブなものがたくさん生まれています。
南條史生: そもそも、アートは商業的な目的よりは好奇心で作られ、それを誰かが「読む」ことで何かしらの意味が付与され、結果的に社会的価値・経済的価値につながっていくものです。
竹中平蔵: なるほど。本日のお話を聞いて、アメリカの大学教育で重要視されている3つの言葉を思い出しました。物事を批判的な側面からも分析し、その本質に迫る「クリティカル・シンキング」。それをもとに、自由な発想で新たなものを創造する「クリエイティブ・シンキング」。そして、その意味について相手に深い理解を促すための「エフェクティブ・コミュニケーション」。
まさしくアートには、この3つの要素が多分に含まれています。そう考えれば、やはりアートは政治や経済、ビジネス、テクノロジーなど、社会のあらゆるものと結びついていると言えそうです。
私は経済学者なので、敢えて申し上げますが、経済学者がいなくても経済は存在します。しかし、アーティストがいなければ、アートは生まれません。何も無いところからある種の感動、そして未来へのヒントを生み出すアーティストは本当に偉大です。南條先生、楽しいお話をありがとうございました。(了)
気づきポイント
●アートは、私たちがより良く生きるために必要となる「想像・創造」を促すもの。
●アートは、ありうるかもしれない一歩先の未来を垣間見せてくれるもの。
●アートからヒントを得られるかどうかは、私たちの「読み方」にかかっている。
●アートは、ありうるかもしれない一歩先の未来を垣間見せてくれるもの。
●アートからヒントを得られるかどうかは、私たちの「読み方」にかかっている。
該当講座
六本木アートカレッジ 未来のヒントはアートにある?~アートと社会~
南條史生(森美術館館長)×竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長)による対談。
社会や私たちの生活・価値観が大きく変わろうとしている今、未来を考えるヒントがアートに潜んでいるのではないでしょうか。そして私たちに新しい視点やモノの見方、捉え方を指南していることもあります。アートの持つ社会的な側面について多角的に議論を深め、ビジネスマンが豊かな人生を持つために何をすべきかを考えていきます。
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第1回
未来のヒントはアートにある? ~アートと社会~
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【前編】 現代人に求められるクリエイティビティ
2016年09月07日 (水)
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【中編】 最新のバイオアートが投げかける「問い」
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【後編】 アートの「読み方」とは?
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