記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第1回
未来のヒントはアートにある? ~アートと社会~
南條史生×竹中平蔵が語る、アートの可能性
更新日 : 2016年09月14日
(水)
【中編】 最新のバイオアートが投げかける「問い」
現代はImpossibleとPossibleとの狭間
南條史生: 2016年9月、茨城県の北部6市町で「茨城県北芸術祭」が開催されます。茨城県には、筑波大学やJAXAなど日本の科学技術を支える施設がたくさんあり、1985年にはつくば科学万博も行われました。特に県北エリアは、かつて岡倉天心や横山大観らが居を構えた場所であり、銅鉱山や巨大な工場など、日本の産業の近代化を支えた場所でもあります。
今回は初回となります。私は総合ディレクターを務めており、美しい海と山を有し、産業、科学技術にもゆかりの深いこの県北地域を舞台にしたこの芸術祭では、自然を舞台にしたダイナミックな作品、最新のテクノロジーを駆使した作品、一般公募やアートハッカソンから生まれた作品などを紹介します。そこに参加いただくアーティストをいくつかご紹介しましょう。
イエメン生まれのザドック・ベン=デイヴィッドの《Blackfield》。部屋に入ると、まるで死の世界のように、床一面に黒ずんだ草花が並んでいます。しかし、部屋の反対側まで進むと、風景は一変し、豊かな色彩と生命力にあふれた花畑が現れます。1つひとつの草花は、繊細にカッティングされたステンレス・スティールに色づけされたものです。県北芸術祭では、廃校になった小学校の体育館に真っ白に砂を敷き詰め、地元の方々と一緒に2万5,000本もの草花を生やす予定です。
フィンランドのアーティスト、テア・マキパーの《Parasite》。ビルの6階の外壁にワイヤーなどを使って「家」を取り付けたインスタレーションですが、彼女はここで1カ月暮らしたそうです。彼女は人間と環境の関係性をテーマにした作品を数多く手掛けており、県北芸術祭ではバスを使い、環境をテーマにした大規模なプロジェクトを企画しています。
最先端のテクノロジーを活用したアートでは、現代の魔術師と呼ばれるメディア・アーティスト、落合陽一さんの《コロイドディスプレイ》があります。ご覧いただいている動画では、シャボン玉の膜の中で蝶が羽ばたいています。シャボン玉の膜に超音波を当て、微細に振動させることで蝶を映し出しているそうで、このほかにもアッと驚くような彼の作品が展示されます。
今後、重要になるバイオテクノロジーを使ったアートも登場します。バイオアートの第一人者であるオロン・カッツは以前、《ヴィクティムレス・レザー:テクノサイエンス的「身体」で育てられた縫い目のないジャケットのプロトタイプ》という長いタイトルの作品を制作しています。ビーカーの中でマウスとヒトの細胞を培養し、犠牲者のいない皮革(Victimless Leather)からジャケットを作る、というものです。
酸素と栄養を与えることでどんどん成長していきますが、MoMAでこれを展示した際、あまりに大きくなりすぎてしまい、慌てて培養装置のスイッチを止めたところ、当時のニューヨークタイムズに「MoMAで殺人」(“Murder in MoMA”)という記事が出たそうです。このように現代のアーティストは、最新のテクノロジーを駆使することで生物に近しいものさえ創り出せるようになっています。
実は、「六本木クロッシング2016展」にもバイオテクノロジーに関するアートが登場しています。MITメディアラボの研究員、長谷川愛さんの《(不)可能な子供》。レズビアンのカップルが結婚し、子どもが欲しくなる。そこで、遺伝子ラボに相談に行き、双方の遺伝子を持つiPS細胞を使って、両親の特徴を持った2人の女の子をつくり出した、という物語です。
実在するカップルの遺伝子情報をもとに、最新のCG技術で子どもの姿を表現した“架空”のストーリーですが、現代はまさにImpossibleとPossibleとの狭間にあり、このような家族が誕生しうる時代になっているわけです。最新のテクノロジーを通じて、ありうるかもしれない未来を垣間見せ、従来の倫理観を揺さぶるような問いを投げかける。それもアートの役割だと思います。
アートの中に、明るい未来のヒントがあるかもしれません。あるいは、それは現代を生きる私たちに警鐘を鳴らしているのかもしれません。それもこれも、すべては私たちの「読み方」次第です。
今後、重要になるバイオテクノロジーを使ったアートも登場します。バイオアートの第一人者であるオロン・カッツは以前、《ヴィクティムレス・レザー:テクノサイエンス的「身体」で育てられた縫い目のないジャケットのプロトタイプ》という長いタイトルの作品を制作しています。ビーカーの中でマウスとヒトの細胞を培養し、犠牲者のいない皮革(Victimless Leather)からジャケットを作る、というものです。
酸素と栄養を与えることでどんどん成長していきますが、MoMAでこれを展示した際、あまりに大きくなりすぎてしまい、慌てて培養装置のスイッチを止めたところ、当時のニューヨークタイムズに「MoMAで殺人」(“Murder in MoMA”)という記事が出たそうです。このように現代のアーティストは、最新のテクノロジーを駆使することで生物に近しいものさえ創り出せるようになっています。
実は、「六本木クロッシング2016展」にもバイオテクノロジーに関するアートが登場しています。MITメディアラボの研究員、長谷川愛さんの《(不)可能な子供》。レズビアンのカップルが結婚し、子どもが欲しくなる。そこで、遺伝子ラボに相談に行き、双方の遺伝子を持つiPS細胞を使って、両親の特徴を持った2人の女の子をつくり出した、という物語です。
実在するカップルの遺伝子情報をもとに、最新のCG技術で子どもの姿を表現した“架空”のストーリーですが、現代はまさにImpossibleとPossibleとの狭間にあり、このような家族が誕生しうる時代になっているわけです。最新のテクノロジーを通じて、ありうるかもしれない未来を垣間見せ、従来の倫理観を揺さぶるような問いを投げかける。それもアートの役割だと思います。
アートの中に、明るい未来のヒントがあるかもしれません。あるいは、それは現代を生きる私たちに警鐘を鳴らしているのかもしれません。それもこれも、すべては私たちの「読み方」次第です。
該当講座
六本木アートカレッジ 未来のヒントはアートにある?~アートと社会~
南條史生(森美術館館長)×竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長)による対談。
社会や私たちの生活・価値観が大きく変わろうとしている今、未来を考えるヒントがアートに潜んでいるのではないでしょうか。そして私たちに新しい視点やモノの見方、捉え方を指南していることもあります。アートの持つ社会的な側面について多角的に議論を深め、ビジネスマンが豊かな人生を持つために何をすべきかを考えていきます。
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第1回
未来のヒントはアートにある? ~アートと社会~
インデックス
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【前編】 現代人に求められるクリエイティビティ
2016年09月07日 (水)
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【中編】 最新のバイオアートが投げかける「問い」
2016年09月14日 (水)
-
【後編】 アートの「読み方」とは?
2016年09月28日 (水)
注目の記事
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