記事・レポート
Quo Vadis, Iaponia?
戦後70年、その先を読む~ブックトークより
カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2016年06月22日
(水)
第5章 私たちはどこで間違えたのか?
いま、憲法を考える
澁川雅俊: 戦前・戦中・戦後を生き抜いたひとりに、石原慎太郎がいます。それぞれの時代をひとりの少年、青年、高齢者として見つめ続け、また、作家として数々の小説を世に出し、国会議員や大臣として国政を預かり、東京都知事として首都を運営してきた彼は、『歴史の十字路に立って』〔PHP研究所〕で熱い想いを表明しています。
著者は、この国はこれまでに大きな間違いを数多く起してきており、いまや亡国の崖っぷちに立たされていると激烈に主張しています。この主張に同調するかどうかはともかく、芥川賞を受賞した『太陽の季節』をはじめ、多くの文学作品を生み出してきた作家としての「文学と国のあり方」に対するひとかたならぬ想いは、一読に値します。
また、石原の考えに近い櫻井よしこは、副題に「論戦2015年」を配した『戦後七〇年 国家の岐路』〔ダイヤモンド社〕を著しています。戦後70年を節目に“真性日本”の確立に向けて、憲法改正、対米外交、日中友好、安保法制、慰安婦問題、南京事件、沖縄戦集団自決、靖国参拝、「歴史」教科書問題、皇位継承、夫婦別姓、原発再稼働などについて縦横無尽に議論し、行動を起こすべきだと檄を飛ばしています。
それらの中でも最重要課題と言える憲法改正をテーマに、哲学者・高橋哲哉と政治学者・岡野八代による対談をまとめた『憲法のポリティカ』〔白澤社〕は、現憲法の基本理念である国と国民の関係のあり方を確かめつつ、石原や桜井とは異なる立場から憲法のあり方を巡って議論しています。
社会学者の大澤真幸、憲法学者の木村草太は、『憲法の条件—戦後70年から考える』〔NHK出版〕の中で、こう主張しています。「それは、私たちが他の多くの日本人と生活を共にしながら幸せを追求するためのルールであり、いまはまずそれを再確認することが大事である」と。そしていま一つ、傾聴すべき次のような所見も披露しています。「日本国憲法は私たちだけの問題と考えがちですが、それは私たちと私たちの国を、世界の他者たちに開放する宣言である」。
「東洋の奇跡」その後
澁川雅俊: 幸福の要件の1つに、「経済」があります。敗戦後の復興から始まった日本の経済成長は「東洋の奇跡」とも呼ばれ、バブル期にその頂点を迎えましたが、その後の日本経済は現在に至るまで混迷の道を歩み続けています。
真珠湾攻撃の年(1941年)に生まれた経済学者・野口悠紀雄は、『戦後経済史』〔東洋経済新報社〕を通じて、戦後70年の日本経済を振り返っています。敗戦直後の焼け野原からの再出発、60年代の高度成長、70年代の石油ショックと変動相場制移行、80年代の“ジャパン・アズ・ナンバーワン”の高揚、90年代のバブル崩壊、その後の失われた20年、あるいは30年までの流れを、自らの生活体験も織り交ぜつつ回顧しています。
本書の副題には「私たちはどこで間違えたのか」とありますが、著者はそもそもそのスタートから間違っていたと述べています。「良いと想われた時もあったが、まじめに働いて金を稼ぎ、そして豊かな生活を実現しようとせずに、人々を金融と円安で必要以上の金稼ぎに奔らせた」と喝破するなど、戦後の経済政策、とりわけ90年代以降の政策に批判的です。
『戦後70年、日本はこのまま没落するのか』〔朝日新聞出版〕は、官僚時代に“ミスター円”と呼ばれた経済学者・榊原英資による戦後経済史です。戦後の政治・経済体制から今日の国内経済までを振り返り、今後の経済政策のあり方として「豊かなゼロ成長の時代へ」と提案しています。野口と同じく、「金融と円安」による金稼ぎを是とした近代資本主義はもはや限界に達しつつあるとし、長期にわたって安定を維持した江戸時代の庶民生活を引き合いに、安心・安定を目指す成熟した経済感覚の下での転進を唱えています。
以上2点は、いわゆる戦後のマクロ経済を旨とした本ですが、ミクロな場面は楡周平の『砂の王宮』〔集英社〕が鮮やかに描き出しています。この小説は、スーパー・ダイエーを生み出し、流通改革の寵児ともてはやされた中内功をモデルとしたフィクションです。
終戦後、闇市の薬屋での廉価商法で成功し、「安いことはいいことだ」を信念に次々と商売を展開し、60年代初めに小売業の基礎を築き上げ、80年代には日本で初めて売上1兆円超の小売店となり、その後もファミレス、コンビニ、デパートなどを多角経営するほどに成長した企業の物語です。戦後のミクロ経済の時流を鋭く捉え、新しい発想で次々と商売を展開する主人公の才覚が、著者ならではの痛快な筆致で描かれていますが、後半は一転し、日本経済の成熟とともに彼の流儀が徐々に的外れになり、苦悩の淵に落ちていく様が描かれています。
関連書籍
歴史の十字路に立って
石原慎太郎PHP研究所
憲法のポリティカ
高橋哲哉,岡野八代【著】白澤社
憲法の条件
大澤真幸,木村草太【著】NHK出版
戦後経済史
野口悠紀雄東洋経済新報社
戦後70年、日本はこのまま没落するのか
榊原英資朝日新聞出版
砂の王宮
楡周平集英社
Quo Vadis, Iaponia?
インデックス
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第1章 我々はどこから来て、どこへ向かうのか?
2016年06月01日 (水)
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第2章 戦後70年を俯瞰する
2016年06月01日 (水)
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第3章 過去と現在をつなぐ、想いとことば
2016年06月08日 (水)
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第4章 2つの「記憶」から戦後をたどる
2016年06月08日 (水)
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第5章 私たちはどこで間違えたのか?
2016年06月22日 (水)
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第6章 戦後の大衆文化史
2016年06月22日 (水)
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