記事・レポート

大人のための読書論

~書物語り、ブックトークより~

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2016年02月10日 (水)

第8章 本探しに入門書や‘あらすじ’本



 
澁川雅俊: 何であれ一つのものごとを真に突き詰めて考えてみようとするとき、まず関連の本を複数探し出し、次にそれらの本を読みながらその内容とテーマとのかかわりの粗密を判断して、その本の重要性や重要度をメモします。‘文献’リストと呼ばれるのは、そのメモを整理したものです。それはテーマが追究される過程での副次的な産物なのですが、そのテーマについて知りたい、調べたいなどと思い立った人たちにはありがたいブックガイドになります。

 たとえば「フェミニズムは賞味期限をすぎたのだろうか? 今を生きる私たちが…生きのびるための思想はどこにあるのか? 古典ともなった書物をひもといてみた」と社会学者の上野千鶴子は、『〈おんな〉の思想』を編纂しています。
 著者は、60〜80年代の日本のフェミニスト5名と外国のジェンダー論者3名、現代思想家2名の論考をこの本で紹介しつつ、この問題に関する彼女の考察を披露しています。いまわが国では‘結婚しないの?’野次問題や女性‘活用’などという経済発展の苦肉の一策が渦巻いていますが、そうしたことを考えてみるならば手にしなければならない重要なブックガイドでしょう。

『変格探偵小説入門』〔谷口基〕の副題には「奇想の遺産」とあります。その理由は、本格ミステリが推理や謎解きであるのに対して、怪奇、幻想、猟奇、SF、秘境、冒険、シュールレアリスムなど奇想の要素を含んだ、多様な作品が少ないからです。著者は大衆文芸の研究者で、この本は本来、乱歩を源流とした日本の「変格」エンターテイメント小説の精神史を追究する文学論なのですが、この本にはそれらの作家と作品が系統的に紹介されています。評伝『荷風と東京』など東京ものを数多く執筆している文芸評論家の川本三郎は、『ミステリと東京』で、多くの人びとが群れなして居住している東京を舞台にしてミステリを書いている、現代作家28人50点超の作品を通じて、大都会の風景・情景・情念を見事に描いています。なお東京の関連で取り上げれば、坂崎重盛の『東京本遊覧記』と『東京読書』もこの種の本です。150人以上の江戸後期から昭和・平成の作家・評論家・歴史家・学者、エッセイストの書いた‘江戸・東京’本を紹介し、この大都会のパーツを詳細に解説しています。

 
ブックガイドの定義から外れるかもしれませんが、‘あらすじ’本からも本に関する情報が得られます。『世界文学あらすじ大事典〈全4巻〉』〔横山茂雄&石堂藍監修〕は、オデュッセイアからピンチョンの『V.』までの世界文学の名作約1000点について物語の概要、作家経歴、文学史的背景などを解説し、書誌データのみならず作品に関するエピソードなども含まれており、重要なガイドブックとして役立っています。わが国のものでは『日本の古典名著・総解説〈改訂新版〉』(自由国民社刊)があったのですが、いまは絶版になっています。しかしそういう需要はいまもあるようで、最近『日本人なら知っておきたいあらすじで読む日本の名著』〔小川義男〕や『千年の百冊—あらすじと現代語訳でよむ日本の古典100冊スーパーガイド』〔鈴木健一編〕などが出されています。

(9章10章は2/17公開予定)

関連書籍

〈おんな〉の思想—私たちは、あなたを忘れない

上野千鶴子
集英社インターナショナル

変格探偵小説入門 —奇想の遺産

谷口基
岩波書店

ミステリと東京

川本三郎
平凡社

東京本遊覧記

坂崎重盛
晶文社

東京読書

坂崎重盛
晶文社

世界文学あらすじ大事典 1

横山茂雄
国書刊行会

日本人なら知っておきたいあらすじで読む日本の名著

小川義男【編著】
KADOKAWA

千年の百冊 あらすじと現代語訳でよむ日本の古典100冊スーパーガイド

鈴木健一
小学館

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