記事・レポート
大人のための読書論
~書物語り、ブックトークより~
カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2016年01月27日
(水)
第4章 書評
澁川雅俊: 書評(またはブックレビュー)は、一点の新刊書を取り上げて、それは誰が何について書き、読者にとってどう面白いか、また書物としてどう重要かを評者が論評し、新聞・雑誌、TV・ラジオ、インターネットなどさまざまなメディアを通じて発表された小論文です。書評は、一般読者が自分の読む本を選ぶときに参考にされます。こういう人もいます。それは、実際に本は読まないけれども世間でいま何が問題になっているか、何が大事か、何が持て囃されているかなどがわかるという理由で書評を読む人たちもいます。
なお日本の書評には次のような問題があると言われているので、その限界をわきまえておくことが大事です。それはまず本が出版された時点と書評が出される時点にタイムラグがあり、書評で読書意欲に火がついても肝心の本が買えなかったり、図書館などでは利用が集中していて何ヶ月か待たないと借りられなかったり、などの問題がしばしば起こること。また多くの場合千字程度の寸評なのでどんな本なのかよくわからないことなど。さらに出版点数に比べて書評の数が少ないので、新刊書のごく一部しか取り上げられないこと、などです。
書評と読書エッセイとの境界線を明確することはむずかしいのですが、書評は基本的には評論であり、本の内容についてはもちろん、著者の資質や創作あるいは執筆の動機や下調べの状況、そしてその本の読者へのインパクトなどが客観的に表現されなければならず、評者の印象や主観的な見解に過分に傾斜すべきでないとされています。
■〈知の巨人〉立花隆の書棚
立花隆は、ノンフィクション・ライターとして多くの話題作を書いてきたことはよく知られています。評論の仕事のためにさまざまな形で取材活動をしたことでしょうが、そのときどきの仕事にかかわる本、その他の資料を精力的に収集してきたことは想像に難くありません。その中から選ばれた多くの本がこれまでに雑誌の書評欄に寄稿され、たとえば『ぼくはこんな本を読んできた』、『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本』、『ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊』のように単行書にまとめられて出されています。最近出された『読書脳』もそれらと同列におかれるべき本で、その副題に『ぼくの深読み300冊の記録』とあるように、「週刊文春」に掲載(2006-13年)された書評の集成です。
立花はこれまでに20万冊超の本を収集したと言っていますが、『立花隆の書棚』はその全蔵書の収蔵の状況について書棚写真(薈田純一撮影)とエッセイで構成されています。写真は仕事部屋の風景ですから、書棚は雑然としています。
しかしその大量な蔵書は立花の宇宙観の下で分類され、それぞれの括りごとに一群の本が配架されています。そして宇宙のその切り小口ごとに解説文が付けられています。それを読むとあたかも「知の巨人」と別称されるこの人物の頭脳の中味を覗き込んでいるような気分になります。
■〈知の編集者〉松岡正剛
松岡正剛もわが国の書評界では重要な人物の一人です。しかしこの人は評論家ではなく、編集者、しかも出版編集者ではなく、大胆にも森羅万象を編集しようと企んでいる〈知の編集者〉です。人類がこれまでに累積してきた知見の量は膨大です。しかもそれはさらに増加・増殖の一途を辿っていきます。それらはすべてが本に書かれてきたし、今後も本(電子本を含めて)になります今もそうですが、その数量は始末がつかないほどになっていきます。この人物は、それらの量を効率・効果的に取り仕切る方法として「編集工学」(コンピュータとネットワークのシステムを基盤とした知=本のデータベース編成技術)を提唱して、2000年に書評サイト「千夜千冊」を立ち上げ、今もそれを続けているチームの主宰者しています。紙の本で出版された『松岡正剛千夜千冊〈全8巻〉』は、その成果の一端です。『松岡正剛の書棚』はその間の知の編集作業の舞台裏を見せています。
■アクティブな現代人に本を紹介する成毛眞
元日本マイクロソフト社社長の成毛眞も書評サイト「HONZ」を主宰しており、その副産物として『ノンフィクションはこれを読め!』を出しています。このサイトの事業目的はアクティブな現代人に本を紹介することで、これに参画し、自ら本を選び、それを読み、その論評を書いて投稿しているのは、ビジネスマン、アーティスト、女優、大学教授などの中堅の職業人が中心です。標題に「ノンフィクション」とあるように。小説を除く本で、あらゆる分野の著作を対象とし、啓発書を中心に新刊書(出版されてから3か月以内)を対象とし、アクティブな現代人が〈読むに値する〉本を紹介しています。新聞・雑誌の書評欄は寸評が主ですが、このサイトの書評は分量も十分で、それぞれの書き手が本をよく読み込んでいるのがうかがえて、信頼性の高いものになっています。なお成毛は『本は10冊同時に読め!』も出しています。
(5章6章は2/3公開予定)
関連書籍
読書脳
立花隆文藝春秋
立花隆の書棚
立花隆【著】,薈田純一【写真】中央公論新社
千夜千冊
松岡正剛求龍堂
松岡正剛の書棚—松丸本舗の挑戦
松岡正剛中央公論新社
ノンフィクションはこれを読め!
成毛眞中央公論新社
本は10冊同時に読め!
成毛眞三笠書房
関連リンク
澁川雅俊(しぶかわ・まさとし)氏のプロフィール
ライブラリー・フェロー
大人のための読書論
インデックス
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第1章 読書論
2016年01月20日 (水)
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第2章 本の読み方
2016年01月20日 (水)
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第3章 読書エッセイ
2016年01月27日 (水)
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第4章 書評
2016年01月27日 (水)
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第5章 書評の書き方
2016年02月03日 (水)
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第6章 ブックガイド(1)
2016年02月03日 (水)
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第7章 ブックガイド(2)
2016年02月10日 (水)
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第8章 本探しに入門書や‘あらすじ’本
2016年02月10日 (水)
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第9章 補遺
2016年02月17日 (水)
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第10章 好調な読書エッセイとブックガイドの出版
2016年02月17日 (水)
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