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大人のための読書論

~書物語り、ブックトークより~

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2016年02月03日 (水)

第5章 書評の書き方


 
澁川雅俊: 書評は今さまざまなメディアを通じて、さまざまな職業人によって広く行われています。彼らはおそらく持論はもっているでしょうが、多くは読書エッセイ止まりで、ガチで〈書評論〉に取り組んでいる人はほとんどいません。
  豊崎由美は、「書評家」の肩書きで書評を書きたいと願って『ニッポンの書評』を書いたと言っています。著者はあるコミュニティカレッジで書評講座を主宰し、多くの書評を書いていますが、その実践を通じて書評のあり方を提案しています。この人物は『文学賞メッタ斬り!』でよく知られていますが、この本でもその本領が発揮され新聞各紙の署名入り書評を評価(特A/A/B/C/D)しています。その結果はここには書きませんが、的確な評価を下しています。


  文化勲章の受章者丸谷才一が大御所小説家の一人であり、評論やエッセイでも第一人者で、またジョイスの『ユリシーズ』の翻訳に携わった第一級の英文学者であったことはよく知られています。
  しかしこの人物が現在の日本の書評界の基盤を築き上げ、自ら20年にもわたり書評の現場に身を置いていたことは、あまり知られていません。『蝶々は誰からの手紙』には書評の意義と英国の書評文化を照準にした日本の書評文化の展開にかかわる彼の秀逸な一文が収められていると同時に、生涯に公表した数千の中から自らが選んだ書評と推薦文の他に読書エッセイが収録されています。


  丸谷は書評を文学の一つの形式であると宣言しましたが、その書評文は対象としている著作への深い思索の下での精緻な筆致で、内容・文体とも‘見事!’です。この本に取り上げられた本たちは、幸せの極みでしょう。   また『想い出のブックカフェ』〔巽孝之〕には、著者の新聞(朝日・読売・毎日)に寄稿した全書評と、米文学者として書いた文芸時評や学術的書評が掲載されています。この本を読むと、書評と文芸評論の違い、新聞書評文と学術的書評文の違いがはっきりします。丸谷のものは書評文学のバイブル、そしてこれは書評文学の入門書として格好の本でしょう。

  

関連書籍

ニッポンの書評

豊崎由美
光文社

蝶々は誰からの手紙

丸谷才一
マガジンハウス

想い出のブックカフェ—巽孝之書評集成

巽孝之
研究社

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