記事・レポート

ハコモノ行政は、デザインで変えられる

建築家・谷尻誠と「ONOMICHI U2」の出会い

更新日 : 2015年09月30日 (水)

第7章 地元住民にも喜ばれる施設へ


 
行政と民間の連携

高橋俊宏: 現状、「ONOMICHI U2」に対する地元の反応はいかがでしょう?

出原昌直: まず、オープン前から様々なメディアに取り上げていただいたこともあり、公募事業の要件にあった「JR尾道駅西側のおけるにぎわいの創出」については、目に見える形で実現しています。さらに、地元の方の反応も上々です。

例えば、谷尻さんが設計されたレストランは80席あります。尾道という小さなまちにとって、80席という数は少々ハードルが高いかなと心配していましたが、実際はサイクリストや観光客の方より、地元の方にたくさん活用いただいています。おじいちゃんとおばあちゃんが少しおしゃれをして、ワイングラスを傾けている姿などを見ると、心の底から「良かったな」と思います。

高橋俊宏: 僕も「HOTEL CYCLE」に泊まり、レストランで朝食をとっていた際、そのような場面に遭遇しました。本当に地元に愛されているというか、この場所ができたことで地元の方々の意識、あるいは誇りといった面にも良い影響が出ているように感じました。

出原昌直: たしかにそうですね。また、建物自体は行政の持ち物でもあるため、県や市の職員もレストランを活用してくれたり、県外からの視察団を案内してくれたりと、非常に協力的です。このような形で行政と民間が継続的にサポートし合うことも、好循環を生み出す大きな要因になっていると思います。

高橋俊宏: 僕だからこそ、官民連携の好事例として注目されているわけですね。他方で、雇用の面はいかがでしょう?

出原昌直: 「ONOMICHI U2」の場合、アルバイトを含めれば、約80名が働いています。「ディスカバーリンクせとうち」では様々なプロジェクトを手掛けているため、どの程度の波及効果があるのかまでは分かりませんが、少なくとも120名程度の雇用は生まれています。とはいえ、会社設立当初は5年で1,000人の雇用という目標を立てていたため、まだまだ道半ばですが(笑)。

高橋俊宏: なるほど(笑)。谷尻さんは「ONOMICHI U2」の完成後、あらためて感じたことはありますか?

谷尻誠: 通常、設計という仕事は、住宅や店舗など先に建てるものが決まった後に発注が来るため、クライアントの依頼に合わせてハードを作り込んでいきます。表現は悪いですが、中には依頼内容が良くないと感じるケースもあります。そもそも僕は、求められたものだけを提案することがあまり好きではない(笑)。毎回、「こうすれば、もっと良くなりますよ」と提案していますが、理解していただけないこともあります。

今回のようにソフト・ハードを一緒に検討・提案する場合、プロジェクトの骨格づくりから関わることができるため、この問題に突き当たることがなくなります。設計を行う際もぶれがなくなり、非常にクリアな状態で進むことができます。また、たくさんの人が関わることで、驚くようなアイデアも飛び出しやすくなり、ベクトルを合わせて1つの方向に進む時の推進力も強くなります。

「ONOMICHI U2」のプロジェクトは、我々の事務所にできることを広く知っていただく機会になりました。そのため、最近は中身が決まっていない依頼というか、“相談”が増えています。

高橋俊宏: 谷尻さんの事務所に相談すれば、何とかしてくれるだろうと(笑)。

谷尻誠: そもそも、設立当初から駆け込み寺のような性格を持った事務所でしたが、最近はその傾向がさらに強くなっているような気がしています(笑)。


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