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ハコモノ行政は、デザインで変えられる

建築家・谷尻誠と「ONOMICHI U2」の出会い

更新日 : 2015年09月16日 (水)

第5章 「ONOMICHI U2」誕生秘話


 
始まりは広島県の公募事業

高橋俊宏: 2014年3月にオープンした「ONOMICHI U2」は、日本初のサイクリスト向け複合施設として各方面で注目を集めています。建物の外には、瀬戸内海を一望できるウッドデッキがあり、気持ちのいい風が吹き抜けています。そもそも、どのような経緯でスタートしたのでしょう?

出原昌直: 尾道は全国からたくさんの観光客が訪れますが、大半はJR山陽本線・尾道駅の東側、まちを一望できる千光寺や古民家が残る場所に向かいます。一方、駅の西側は従来、人の流れがほとんどありませんでした。

そんな時、広島県から、駅の西側にある県営上屋2号という戦前に建てられた海運倉庫をリノベーションし、新たな活用方法を提案してほしいという公募案件が出されました。その中には「年間15万人のにぎわいを創出してほしい」という要件も含まれていました。会社を設立し、新しい事業と雇用を生み出そうと考えていた我々にとって、まさにうってつけの案件だと感じ、公募に参加しました。

高橋俊宏: そして、谷尻さんにご依頼したわけですね。

出原昌直: 事業を考える際、我々は“瀬戸内らしさ”を大切にしています。また、外から訪れる人だけでなく、地元の人にも愛される場所にしたかった。その意味でも、瀬戸内の空気を肌で感じながら育った方にお願いしたいと考えていました。さらに、我々の抱える危機感を共有してもらえる方であること、自由な発想でデザインしてくれる方であること。デザインや建築好きのメンバーと議論し、この条件に適う方として「谷尻さんにお願いしよう!」という意見で一致しました。

「サイクリストの聖地」を活かす

高橋俊宏: 多大な期待を一身に背負うことになった谷尻さんですが、どのように取り組まれたのでしょうか?

谷尻誠: この公募事業がユニークだったのは、行政が主導するプロポーザル事業でありながら、非常に自由度が高かったこと。従来のプロポーザル事業は、図書館や体育館など、あらかじめ使用目的が決定している状態から業者の選定に入ります。そのため、設計者としては、ハードのみについて考えることになります。このプロジェクトでは、決まっているのは倉庫をリノベーションすることだけ。つまり、使用目的から運用方法まで、ソフトもハードも丸ごと提案する内容であり、僕にとっては非常に新鮮な案件でした。

何をつくり、どのように活用するのか? 毎回、設計を行う際は、土地の歴史や現在のまち並み、周辺環境などについて綿密なリサーチを行います。尾道は古い建物が多く、そこかしこに坂道がある。夜になれば、夜景に照らされた海と、ぼんやり浮かびあがる対岸の輪郭が美しい。ごく当たり前のことを丹念に調査していく中で、瀬戸内しまなみ海道がサイクリストの聖地になっていることに着目しました。

これまでの尾道は、訪れる人が多い反面、見どころがコンパクトにまとまり、滞在できる場所も限られていたため、日帰りで通過していくサイクリストや観光客が多かった。そこで、ディスカバーリンクせとうちの皆さんとお話しするうちに、「滞在型の拠点」というプロジェクトの輪郭が浮かびあがってきました。

サイクリストの様々なニーズを満たすホテル、観光客にも喜ばれるようなカフェやレストラン、地元の方も日常使いできるようなベーカリー。「ONOMICHI U2」という名前も、皆さんと話し合い、色々な候補があがる中で、元々の倉庫の名前である県営上屋(うえや)2号から付けました。

出原昌直: レストランなどの名前も、そのような話し合いの中で決まりました。例えば、バーラウンジの名前は、自転車を漕ぐという意味から「KOG BAR」。ここでは、ペダルとサドルが付いた「コグチェア」に座って夜景を眺めつつ、グラスを傾けることができます。

ベーカリーの名前は「Butti Bakery(ぶちベーカリー)」。ぶちとは、備後地方の方言で「非常に、とても」という意味。天然酵母を使ったおいしいパンで、ぶち楽しい時間を過ごしていただきたい。そのような思いを込めています。

谷尻誠: スタートの段階からソフトもハードも同時並行で考えられたこと、また、ディスカバーリンクせとうちの皆さんと、役割や領域を越えてディスカッションしながら進められたこともあり、満足できる事業計画案をつくることができました。その提案が評価され、晴れて受託できたわけです。


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六本木アートカレッジ ハコモノ行政はデザインで変えられる
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