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更新日 : 2013年12月20日 (金)

第4章 近・現代文学絵本 その2



●日本の小説絵本

澁川雅俊: 泉鏡花の『絵本・化鳥』(国書刊行会)と『絵草紙・龍潭譚』はいずれも中川学という、僧侶でありながら〈和ポップ〉イラストレーターの作品です。この画家は原作の趣意をいまに甦らせています。いずれの物語にも作家が構想するまがまがしくも妖しげな世界で主人公の幼児が美しい若い女の胸に懐かれたときの情念が書かれているのですが、画家はその怪奇的幻想とロマンティシズムを見事に描き、成熟した人々にじわーっとした懐かしい情念を湧き上がらせます。

芥川龍之介には『河童』(原田宗典戯作、荒井良二画/角川書店〕と『桃太郎』
(寺門孝之画/ピエ・ブックス〕の2点がありました。『河童』は戯曲も書く原田が現代風に再話し、NHKの朝ドラ「純と愛」のタイトルバックを描いた画家がちょっとばかりシュールな絵を付けています。『桃太郎』は‘こども’絵本の定番昔話のパロディで、グラフィックデザイナーの画家が心優しい鬼族イジメのヤンキー桃太郎を実にクールに描いています。

『月に吠える』で日本の近代詩を先導した萩原朔太郎の作品で、猫に支配された世界に迷い込んでしまった男の白日夢を書いた短編小説『猫町』(長崎出版)を金井田英津子が幻視的な版画で絵本を作っています。なおこの画家はこの他に漱石の『夢十夜』、内田百間の『冥途』、鱒二の『厄除け詩集』なども絵本にしています。

『夢枕』(林静一/PARCO出版)は漫画誌に連載された作品を単行本にしたもので、スタイルは漫画そのものです。主人公が漱石の『草枕』を片手に日本的美しさとそれを描く絵画のあり方を探って日本中を旅すると同時に、東西の文学史と美術史を旅している作品なので、‘おとな’絵本に加えました。

●作品を賛美して絵を描き、詩文を書く

宇野亜喜良が制作した『サロメL‘amour la mort』(エクリ)は少々ひねりを効かせた絵本です。サロメは洗礼者ヨハネの首を欲しがった妖婦として新約聖書に書かれたことから、その異常性が後世の人々を惹きつけ、多くの芸術作品のモチーフになっています。文学ではワイルドやフローベルやアポリネールらによって作品が書かれていますが、画家はそれらのイメージをサロメへのオマージュとして描き、一冊の絵本にしています。小説を絵画化するという趣向はその他にもあります。‘こども’絵本を制作している画家ささめやゆきは、『ヘッセの夜、カミユの朝』(集英社)で数々の名作小説とその作家たちに対する彼女のイメージを描いています。60点ほどの絵がこの本に収められていますが、これはもともと月刊の小説誌の表紙画として飾られたものです。

小説絵本ではありませんが、名作絵画を賛美して詩やエッセイを付けて制作された絵本もあります。『夜の絵本』(PHP研究所)は、自らを〈キリストの画家〉と称し、宗教をテーマとした作品で有名なルオーが娼婦、道化師などパリの市民や貧しい階級の人々を描いた作品を選び、詩人で小説も書く蜂飼耳がそれぞれに詩・文を付けています。また詩人長田弘はクリムトが描いた樹木、草花、森、池などなどの絵にその想いを寄せて、絵本『詩ふたつ』(クレヨンハウス)を出しています。

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