記事・レポート
WANTED! 求むリーダー
~リーダーシップの本質を明らかにする本を紹介します~
カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2012年10月19日
(金)
第2章 経営は哲学だ!
澁川雅俊: ガバナンスであれマネジメントであれ、「組織が成果を上げるための体系的な取り組み」(ドラッカー)がその本質であるならば、リーダーは常にその<体系的取り組み>の中心います。
野中郁次郎は『経営は哲学なり』を編纂し、企業が混迷する経済状況の中で生き残り、本来の輝きを取り戻すために必要なのは<考える力>であるとし、スキルを磨くのではなく、リーダーその人の哲学を問い直すことだと主張しています。本書は学術研究プロジェクトに参加した学者・研究者たちが、ビジンネスマンや政治・行政の実務者を対象に、経営の現場と変革と創造の観点から分担執筆した論集で、実務者にわかりやすく書かれています。また巻末に掲載されている参考文献も、想定されている読者層を熟知して選択されています。
同様に、ビジネス現場で一つひとつの課題の解決に向けて真摯な努力がなされているにもかかわらず、成果が目に見えて上がらないのは「時代に対峙し世界と対話するための大きな哲学、骨太な思想」がないからだとする認識で編纂されたのが、『アリストテレスの言葉』(古我知史、日高幹生)です。ビジネスコンサルタントである著者たちは、古代ギリシャの哲人の『ニコマコス倫理学』と『形而上学』と『政治学』のテキストから、現代ビジネスマンに欠けている時代と対話する哲学と思想を見いだそうと試みています。
ところでここにもう1点、『ニコマコス倫理学』に立脚した本があります。それは『知識創造経営のプリンシプル』(野中郁次郎、紺野登)で、副題に「賢慮資本主義の実践論」とあり、「えっ!何これ?」です。というのは人の賢慮についてこういう見方もあるからです。「目をひらくのです、お嬢さん! いまどきの人々は流行のことにしか頭を使わない。考えることは他人任せ。流行の仕掛け人、オピニオンリーダー、先駆的な思想家、そういった“賢い頭脳”のおかげで、われわれの世界には戦争や飢餓や環境破壊が絶えない」(ラルフ・イーザウ著『緋色の楽譜』)。
野中らは、昨今の企業不振の原因をウォールストリート流の市場原理主義思想にとらわれた経営論にあったとし、その反省に立って未来型経営を「賢慮」(phronesis:アリストテレスが『ニコマス倫理学』で唱えた実践的叡智)に基づいた賢明な判断によるべきであると主張しています。賢明な判断とは、常に「善」なることを追究する実践知で、それを未来の創造型リーダーに課された使命であるとしています。
そうした哲学・思想にリーダーシップの真髄を求めようとする本には他に、『知識ゼロからのビジネス 韓非子』(前田信弘)、『リーダーの指針「東洋思考」』(田口佳史)、『老子』(ワイド版岩波文庫/蜂屋邦夫訳注)などがあります。
韓非は紀元前3世紀、中国の戦国時代(秦の始皇帝によって終焉)の思想家で、戦国の世の統治、とりわけ上に立つべき者のあり方を思索し、書き残していています。本書はそのテキストを、漫画風挿絵を多く取り入れて、ハウツー本にまとめています。
『老子道徳経』とも名づけられた中国古代の戦乱の世を生き抜く老子の処世訓は、基本的には統治の理論ですが、しばしば経営の処方に引用されています。
田口は、澁澤榮一、伊庭貞剛、益田孝ら明治の企業人を引き合いにして、彼らの経営理念を支えた東洋思想を四書五経や吉田松陰ほかわが国の先人たちの遺訓にたどり、人間の在り方を熱っぽく説いています。いささか紋切り型ですが、噛みしめると味があります。例えば「不動心」について「道理と正義で心動かさず」と解釈し、道理=道徳・倫理、正義=法律と説き明かしていますが、それは今日の<企業コンプライアンス>のことでしょう。なおその指摘を明解に示している『ガンディー 魂の言葉』(マハトマ・ガンディー著、浅井幹雄監修)もここに挙げておきます。
ところで私たちは、例えば信長、秀吉、家康をリーダーのモデルとして語るように、哲学・思想書以外の本からも、しばしば統治や経営におけるリーダーシップを読み取ろうとします。例えば『「三国志」最高のリーダーは誰か』(渡邉義浩)と『「水滸伝」に学ぶリ−ダ−シップ』(趙玉平、金光国)などはその類です。
しかし単純に<英雄=リーダー>と捉えるだけでなく、『采配』(落合博満)、 『なでしこ力』(佐々木則夫)、『判断と決断』(中竹竜二)、『リーダーになって伸びる人、伸び悩む人』(延原典和)のようなスポーツチームの監督やコーチにも注目したりします。もしかしたら『マグロ船仕事術』(齊藤正明)もそれらと同類として良いでしょうかね。
野中郁次郎は『経営は哲学なり』を編纂し、企業が混迷する経済状況の中で生き残り、本来の輝きを取り戻すために必要なのは<考える力>であるとし、スキルを磨くのではなく、リーダーその人の哲学を問い直すことだと主張しています。本書は学術研究プロジェクトに参加した学者・研究者たちが、ビジンネスマンや政治・行政の実務者を対象に、経営の現場と変革と創造の観点から分担執筆した論集で、実務者にわかりやすく書かれています。また巻末に掲載されている参考文献も、想定されている読者層を熟知して選択されています。
同様に、ビジネス現場で一つひとつの課題の解決に向けて真摯な努力がなされているにもかかわらず、成果が目に見えて上がらないのは「時代に対峙し世界と対話するための大きな哲学、骨太な思想」がないからだとする認識で編纂されたのが、『アリストテレスの言葉』(古我知史、日高幹生)です。ビジネスコンサルタントである著者たちは、古代ギリシャの哲人の『ニコマコス倫理学』と『形而上学』と『政治学』のテキストから、現代ビジネスマンに欠けている時代と対話する哲学と思想を見いだそうと試みています。
ところでここにもう1点、『ニコマコス倫理学』に立脚した本があります。それは『知識創造経営のプリンシプル』(野中郁次郎、紺野登)で、副題に「賢慮資本主義の実践論」とあり、「えっ!何これ?」です。というのは人の賢慮についてこういう見方もあるからです。「目をひらくのです、お嬢さん! いまどきの人々は流行のことにしか頭を使わない。考えることは他人任せ。流行の仕掛け人、オピニオンリーダー、先駆的な思想家、そういった“賢い頭脳”のおかげで、われわれの世界には戦争や飢餓や環境破壊が絶えない」(ラルフ・イーザウ著『緋色の楽譜』)。
野中らは、昨今の企業不振の原因をウォールストリート流の市場原理主義思想にとらわれた経営論にあったとし、その反省に立って未来型経営を「賢慮」(phronesis:アリストテレスが『ニコマス倫理学』で唱えた実践的叡智)に基づいた賢明な判断によるべきであると主張しています。賢明な判断とは、常に「善」なることを追究する実践知で、それを未来の創造型リーダーに課された使命であるとしています。
そうした哲学・思想にリーダーシップの真髄を求めようとする本には他に、『知識ゼロからのビジネス 韓非子』(前田信弘)、『リーダーの指針「東洋思考」』(田口佳史)、『老子』(ワイド版岩波文庫/蜂屋邦夫訳注)などがあります。
韓非は紀元前3世紀、中国の戦国時代(秦の始皇帝によって終焉)の思想家で、戦国の世の統治、とりわけ上に立つべき者のあり方を思索し、書き残していています。本書はそのテキストを、漫画風挿絵を多く取り入れて、ハウツー本にまとめています。
『老子道徳経』とも名づけられた中国古代の戦乱の世を生き抜く老子の処世訓は、基本的には統治の理論ですが、しばしば経営の処方に引用されています。
田口は、澁澤榮一、伊庭貞剛、益田孝ら明治の企業人を引き合いにして、彼らの経営理念を支えた東洋思想を四書五経や吉田松陰ほかわが国の先人たちの遺訓にたどり、人間の在り方を熱っぽく説いています。いささか紋切り型ですが、噛みしめると味があります。例えば「不動心」について「道理と正義で心動かさず」と解釈し、道理=道徳・倫理、正義=法律と説き明かしていますが、それは今日の<企業コンプライアンス>のことでしょう。なおその指摘を明解に示している『ガンディー 魂の言葉』(マハトマ・ガンディー著、浅井幹雄監修)もここに挙げておきます。
ところで私たちは、例えば信長、秀吉、家康をリーダーのモデルとして語るように、哲学・思想書以外の本からも、しばしば統治や経営におけるリーダーシップを読み取ろうとします。例えば『「三国志」最高のリーダーは誰か』(渡邉義浩)と『「水滸伝」に学ぶリ−ダ−シップ』(趙玉平、金光国)などはその類です。
しかし単純に<英雄=リーダー>と捉えるだけでなく、『采配』(落合博満)、 『なでしこ力』(佐々木則夫)、『判断と決断』(中竹竜二)、『リーダーになって伸びる人、伸び悩む人』(延原典和)のようなスポーツチームの監督やコーチにも注目したりします。もしかしたら『マグロ船仕事術』(齊藤正明)もそれらと同類として良いでしょうかね。
WANTED! 求むリーダー インデックス
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第1章 辛いものだよ、リーダーは
2012年10月18日 (木)
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第2章 経営は哲学だ!
2012年10月19日 (金)
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第3章 MBA的リーダーシップ論
2012年10月22日 (月)
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第4章 ‘本当の’リーダー?
2012年10月23日 (火)
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第5章 目配り・気配りのリーダーシップ論
2012年10月25日 (木)
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第6章 ‘現場’的リーダーシップ論
2012年10月26日 (金)
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