記事・レポート

「キュレーター」がメディアとビジネスとイノベーションを変える

田中洋×津田大介×勝見明に学ぶ、キュレーション術

BIZセミナーマーケティング・PR教養
更新日 : 2012年05月28日 (月)

第5章 あらゆるビジネスに知のキュレーションが求められている


勝見明氏

勝見明: 田中さんと津田さんは「コンテンツのキュレーション」という切り口でメディアの話をされましたので、私は「ナレッジのキュレーション(知のキュレーション)」という切り口で、イノベーションは知のキュレーションから生まれるという話をしたいと思います。

スティーブ・ジョブズは希代のキュレーターでした。なぜ彼がキュレーターなのか? その理由をスティーブ・ジョブズに敬意を表し、かの有名なスタンフォード大学での卒業式スピーチをちょっとまねて、自分のバックグラインドから説明します。 

1960年代、私は高校時代、自主製作映画と新聞づくりにはまっていました。新聞部で学校の体制批判記事を書いて発行停止処分を食らったこともあります。大学には行ったものの途中で飛び出し、フリーランスライターになりました。社会派ライターを目指していましたが、書く媒体がなく、ミニFMを使った「自由ラジオ運動」にはまりました。お仕着せを嫌う人がとらえた世界を自由に電波に乗せていたのです。80年代のことでした。

90年代になってインターネットが登場すると、誰もが情報を発信できるようになり、プロのとしての存在意義が問われるようになりました。このときナレッジという概念に出会ったのです。野中郁次郎という世界的な経営学者が書いた『知識創造企業』を読んで、私は「誰もがナレッジ(知)を生みだす存在であるが、一人ではナレッジはできない。ナレッジは人や環境などの関係性の中でつくられるものであり、共有されることで膨らんでいく。ただし、情報が共有されたからといってナレッジが共有されるとは限らない」と知り、ビジネスの分野でナレッジの共有を目指す仲介者になろう、と思いました。

2000年代になると、私は野中郁次郎先生と共に、企業におけるイノベーションの成功事例を取材するようになりました。野中先生は、企業がイノベーションを生む知識創造の循環プロセスを「SECIモデル」で解き明かしました。知識創造は、個人が経験に基づいて獲得する「暗黙知」と、言葉やデータで表現できる「形式知」をグルグル回すことで行われます。このグルグル回すプロセスがSECIモデルで、次の4つのフェーズで成り立っています。


【1.共同化】
暗黙知を現場で獲得し、それをメンバーが一緒に体験しながらお互いに共有し、個人の暗黙知を組織の暗黙知へと変換する。

【2.表出化】
暗黙知を形式知に転換し、全く新しいコンセプトを生み出す。——これはコンセプトづくりに相当します。

【3.連結化】
そのコンセプトを具現化するために、他の形式知と組み合わせ、新たな形式知をつくり出す。——これは製品づくりに相当します。

【4.内面化】
一連の行動や実践を通じて、新しい形式知が、新しい暗黙知としてメンバー全員に血肉化されていく。


iPodは、このSECIモデルで生まれたのです。ジョブズの「Think different.」という想いが組織で共有され(=共同化)、その想いのもとに「好きな曲をいつでもネットからダウンロードして楽しむ」という新しいコンセプトが生まれ(=表出化)、そのコンセプトを具現化するために必要な機能や技術を結びつけて製品化し(=連結化)、iPodづくりを通して得た新しい暗黙知が次のiPhoneへとつながっていったのです(=内面化)。

そして2011年、キュレーションという概念に出会いました。このとき私は、SECIモデルは「知のキュレーション」と言えるのではないかと気づいたのです。だとするならば、キュレーションの概念はネットメディアに限らず、あらゆるビジネスに求められるのではないかと考えたのです。

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キュレーション 収集し、選別し、編集し、共有する技術

スティーブン・ローゼンバウム【著】田中洋【監訳・解説】野田牧人【訳】
プレジデント社


該当講座

「キュレーター」がメディア、マーケティング、イノベーションの未来を変える
田中洋 (中央大学大学院ビジネススクール 教授 )
勝見明 (ジャーナリスト)
津田大介 (ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)

田中 洋(中央大学ビジネススクール教授)
勝見 明(ジャーナリスト)
津田 大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)
コンテンツ不足の時代からコンテンツ過剰の時代にシフトしている世界で、情報の海のなかから収集し、選別し、編集し、「意味」を与える「キュレーター」が注目されています。本講座では、新しい概念である「キュレーション」について考察します。


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