記事・レポート

「キュレーター」がメディアとビジネスとイノベーションを変える

田中洋×津田大介×勝見明に学ぶ、キュレーション術

BIZセミナーマーケティング・PR教養
更新日 : 2012年05月24日 (木)

第3章 バラバラな震災情報で、キュレーションの必要性が高まった


津田大介氏

津田大介: 今、キュレーションはメディアビジネスやジャーナリズムにおいても注目されているので、僕はその観点からお話ししたいと思います。

僕の本業はジャーナリストですが、メディア・アクティビストとして、どうやってメディアビジネス、つまりはキュレーションみたいなものをお金に変えるか、ということにずっと取り組んできました。例えば、2007年に立ち上げたナタリーというサイトでは「音楽、コミック、お笑い」の情報を記事にして毎日発表しています。運営会社のナターシャは、現在、年商3億円ぐらいです。

ナタリーの記者は何をしているのかというと、毎朝、何百何千というサイトをチェックして、ネタを拾います。そうして拾ったネタを、読者が知りたい情報に加工します。例えば、あるミュージシャンの「新譜が出る」というネタを拾ったら、それだけではどんな曲かわからないので、レコード会社や事務所に取材して聞き出し、元ネタに情報を追加して、編集して、記事にするのです。

ナタリーのポイントは、ネット以外のメディアとも連携していることです。例えば「歌手の○○さんが明日の『笑っていいとも!』に登場します」とか、「雑誌『婦人公論』に○○さんのインタビュー記事が載っています」というのも、ファンは知りたいんです。ファンは音楽雑誌は読んでいても、『婦人公論』はノーマークですよね。だから僕らはこうした情報も、ファンにとっては必要なものだと判断して記事にするわけです。こうして選別、価値付け、判断を行っています。

ジャーナリズムの世界では、東日本大震災でソーシャルメディアとキュレーションに注目が集まりました。最初、ソーシャルメディアは連絡手段として役立ったのですが、次第に情報入手手段として機能するようになり、中でも一番役割を果たしたのは「生活情報」についてだったと思います。

地震・津波・原発で情報があふれかえっている中、新聞には紙面の、テレビには尺の制約があるので、マスメディアには細かいニュースは出てきません。そうした中、ソーシャルメディアが安否情報や、給水や炊き出しの情報、近くのスーパーや医療機関の営業時間など、細かい情報を伝え始めたんです。

マスメディアとソーシャルメディアが連携する動きも見られました。NHKをはじめ、いくつかのテレビ局が災害特番をテレビとインターネットで同時に放送したり、テレビの放送時間内に入りきらない情報を動画サイトにアップしたり、速報をTwitterで流したりしていました。一方、ソーシャルメディアは東京電力や枝野官房長官(当時)の会見をノーカットで流していました。これは後に、いろいろな情報の検証に使われるようになったので、ソーシャルメディアがテレビなどのマスメディアに代わる一次情報源になっていた場面もあったのです。

それから、今回の震災で専門家がネットで情報発信を始めたのは、非常に大きなことだと僕は思います。テレビ番組に登場する専門家は、せいぜい2人ぐらいですよね。ソーシャルメディアが使われるようになったおかげで、何百人もの専門家がコメントできる時代になりました。

これは情報を多角的に見られるという意味では、非常にいい時代になったと言えるのですが、逆に混乱も招きました。情報を受身で得ている人にとっては、1つの現象に対して専門家がみんなバラバラなことを言っていたら、何を信じていいかわからないからです。だから信頼の置ける情報を選り分けて流すキュレーターやキュレーションに対する注目が高まったのだと思います。

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該当講座

「キュレーター」がメディア、マーケティング、イノベーションの未来を変える
田中洋 (中央大学大学院ビジネススクール 教授 )
勝見明 (ジャーナリスト)
津田大介 (ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)

田中 洋(中央大学ビジネススクール教授)
勝見 明(ジャーナリスト)
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コンテンツ不足の時代からコンテンツ過剰の時代にシフトしている世界で、情報の海のなかから収集し、選別し、編集し、「意味」を与える「キュレーター」が注目されています。本講座では、新しい概念である「キュレーション」について考察します。


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