記事・レポート
「はやぶさ」の川口淳一郎氏が語る、奇跡のチームビルディング
栄光をつかんだチームに日本再生のヒントを探る in 日本元気塾
日本元気塾キャリア・人教養
更新日 : 2011年08月19日
(金)
第5章 消息不明の「はやぶさ」。下がる現場の士気。そのときリーダーは…
川口淳一郎: 現実に途絶えたままの通信状態が続くと、現場の士気が下がってきます。「電波も来ない、交信もできない探査機の運用に、うちの技術者はしばらく要りませんね」とメーカーの営業さんから切り出されるわけです。エンジニアの数がだんだん少なくなると、ますますみんなの足が遠のいていきます。
そこで、意図的に検討会を増やすようにしました。「こういう場合だったら、どうすれば復旧できますか? 通信が回復できますか?」という宿題を出して、アクションが切れることを避けたのです。これは大事なことです。アクションが切れたら、「もう宿題も出ないのか。万策尽きたのか」という印象を与えてしまいます。だから宿題を出すことで「可能性は残っている」ということを発信し続けたわけです。
また、「運用中」であるという演出もしました。毎朝、運用室のポットを沸かして、いつでも熱いお湯が出るようにしたのです。JAXAやメーカーの人が様子を見に来るのですが、そのときポットから冷たい水が出てきたら、プロジェクトの終焉は近いと思われてしまい、落ちている士気をさらに突き落としてしまいますから。
対応できることは、すべてやり尽くしたと思います。問題は、その想定が正しいかどうか。これはもう運です。だからというわけではありませんが、御不動様にすがることにいたしました。東京の台東区にある、空飛ぶお不動さま「飛不動尊」に行って、御札に「無事帰還、大願成就」という言葉を添えて祈願しました。「なんて非科学的な」と思うかもしれません(笑)。私も科学者ですから、打ち上げてからこの日まで御札なんて買ったがありませんでした。このとき初めて信心深くなったのです。
幸いなことに46日目、7週間目に「はやぶさ」からの電波が受信されました。これはもう奇跡的なことでした。担当者でさえ、夢じゃないかと思ったほどです。こうしてなんとか地球への帰還が可能になりました。
しかし、地球まであと4カ月というとき、すべてのイオンエンジンが寿命を迎えてしまいました。イオンエンジンはA、B、C、Dの4つあり、それぞれ「中和器」と「イオン源」がセットになっていたのですが、Aはイオン源が壊れ、B、C、Dは中和器が壊れ、どれも単独では立ち上がらなくなってしまったのです。運命というのは残酷なものだと思いました。その前に打ち上げた「のぞみ」という火星探査機もずいぶん粘ったのですが、結局最後は失敗に終わってしまったので、「またダメか」と思ったのです。
しかし、ここでまた奇跡が起こりました。唯一中和器が生きているAと、イオン源が生きているBを組み合わせたら動き出したのです。打ち上げ前に試したことのない運用方法でしたので、動いたのは神がかり的だと思いました。しかしここで万が一、Aの中和器が壊れたら、もう地球には戻ってこられません。そこで何をしたかというと、中和神社に行きました(笑)。本当は、中和と書いて「ちゅうか」神社と読むのですが……。
神頼みは「自分たちは本当にやるべきことをやり尽くしたのか?」という自己点検になったと思います。本当にやれることは全てやり尽くしたうえで願を懸け、それで運を拾えたとすれば、それが御利益なんだと思います。運とか縁とか機会というものは、どこにでも転がっていて、どなたの前にもやってくる。我々のプロジェクトチームがその運を拾えて飛行を継続できというのは、チームの努力と優秀さを示すものだと思います。私は、プロジェクトの優秀さを誇りたいと思っています。
そこで、意図的に検討会を増やすようにしました。「こういう場合だったら、どうすれば復旧できますか? 通信が回復できますか?」という宿題を出して、アクションが切れることを避けたのです。これは大事なことです。アクションが切れたら、「もう宿題も出ないのか。万策尽きたのか」という印象を与えてしまいます。だから宿題を出すことで「可能性は残っている」ということを発信し続けたわけです。
また、「運用中」であるという演出もしました。毎朝、運用室のポットを沸かして、いつでも熱いお湯が出るようにしたのです。JAXAやメーカーの人が様子を見に来るのですが、そのときポットから冷たい水が出てきたら、プロジェクトの終焉は近いと思われてしまい、落ちている士気をさらに突き落としてしまいますから。
対応できることは、すべてやり尽くしたと思います。問題は、その想定が正しいかどうか。これはもう運です。だからというわけではありませんが、御不動様にすがることにいたしました。東京の台東区にある、空飛ぶお不動さま「飛不動尊」に行って、御札に「無事帰還、大願成就」という言葉を添えて祈願しました。「なんて非科学的な」と思うかもしれません(笑)。私も科学者ですから、打ち上げてからこの日まで御札なんて買ったがありませんでした。このとき初めて信心深くなったのです。
幸いなことに46日目、7週間目に「はやぶさ」からの電波が受信されました。これはもう奇跡的なことでした。担当者でさえ、夢じゃないかと思ったほどです。こうしてなんとか地球への帰還が可能になりました。
しかし、地球まであと4カ月というとき、すべてのイオンエンジンが寿命を迎えてしまいました。イオンエンジンはA、B、C、Dの4つあり、それぞれ「中和器」と「イオン源」がセットになっていたのですが、Aはイオン源が壊れ、B、C、Dは中和器が壊れ、どれも単独では立ち上がらなくなってしまったのです。運命というのは残酷なものだと思いました。その前に打ち上げた「のぞみ」という火星探査機もずいぶん粘ったのですが、結局最後は失敗に終わってしまったので、「またダメか」と思ったのです。
しかし、ここでまた奇跡が起こりました。唯一中和器が生きているAと、イオン源が生きているBを組み合わせたら動き出したのです。打ち上げ前に試したことのない運用方法でしたので、動いたのは神がかり的だと思いました。しかしここで万が一、Aの中和器が壊れたら、もう地球には戻ってこられません。そこで何をしたかというと、中和神社に行きました(笑)。本当は、中和と書いて「ちゅうか」神社と読むのですが……。
神頼みは「自分たちは本当にやるべきことをやり尽くしたのか?」という自己点検になったと思います。本当にやれることは全てやり尽くしたうえで願を懸け、それで運を拾えたとすれば、それが御利益なんだと思います。運とか縁とか機会というものは、どこにでも転がっていて、どなたの前にもやってくる。我々のプロジェクトチームがその運を拾えて飛行を継続できというのは、チームの努力と優秀さを示すものだと思います。私は、プロジェクトの優秀さを誇りたいと思っています。
関連書籍
はやぶさ、そうまでして君は—生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
川口淳一宝島社
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該当講座
小惑星探査機「はやぶさ」奇跡のチームビルディング
~目的地は、地球~
川口淳一郎 (独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ
宇宙科学研究所 教授)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)
川口淳一郎(JAXA)教授×米倉誠一郎教授
2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」が「イトカワ」への7年間の旅を終えて奇跡の帰還—。今年最初の日本元気塾セミナーは、「はやぶさ」プロジェクトマネージャとしてミッションを指揮し、類稀なるリーダーシップ、的確な判断力で、奇跡の帰還に導いた川口淳一郎氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授)をゲストにお迎えし、ミッション達成のために目指すべき、理想的な“チーム”の姿を、皆さんと一緒に考えていきます。
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