記事・レポート

「はやぶさ」の川口淳一郎氏が語る、奇跡のチームビルディング

栄光をつかんだチームに日本再生のヒントを探る in 日本元気塾

日本元気塾キャリア・人教養
更新日 : 2011年08月15日 (月)

第2章 「はやぶさ」が挑んだ5つの世界初

川口淳一郎氏

川口淳一郎: 「はやぶさ」の目的は、サンプルリターンの技術実証でした。サンプルリターンというのは、ほかの天体の試料を地球に持ち帰ること、技術実証というのは技術を開発して飛行で証明することです。これは我々のオリジナルな世界初の挑戦で、大きく分けて5つの重要な技術項目がありました。

イオンエンジンで航行すること。
ロケットエンジンは瞬発力があるので離陸などには有効ですが、燃費が非常に悪いんです。イオンエンジンはロケットエンジンが必要とするガスの10分の1で動く、燃費が非常にいい革新的なエンジンです。

ロボットであること。
「はやぶさ」には、自身で行き先や、とるべき姿勢を決めるという自律性が求められました。なぜならイトカワと地球との距離は片道3億km、往復で6億km。電波が往復するだけで2,000秒かかります。地球から「惑星の地面が近づいたら、エンジンを逆噴射せよ」と指令を出しても、それが「はやぶさ」に届くのは約17分後。その結果がわかるのは、さらに17分後。これでは遠隔操縦はできないので、ロボットのような自律性が必要だったのです。

試料を採取すること。
探査機の下に、1m余りの筒型をした試料採取装置を付けました。この先端をイトカワの表面に1秒間だけ着けて弾丸を撃ち込んで、舞い上がった破片を中で受け止めるという採取法を試みました。

試料を入れたカプセルを地球に直接、大気圏に突入させて回収すること。
大気圏に突入する際、スペースシャトルが受ける10~20倍もの熱を浴びるので、新たな耐熱素材を開発する必要がありました。

イオンエンジンと地球の重力を利用したスイングバイを併用して加速すること。
イオンエンジンは燃費はいいのですが、力が非常に弱いんです。3台同時に運転して得られる推力はわずか20ミリニュートン、1円玉2枚を掌に乗せて感じるぐらいの力しかありません。しかし地球の重力を利用して100日、1000日と運転することで、たくさんの加速量を得られます。

「往復の宇宙飛行」はもちろん、この5つの技術も世界中でそれまでに実施されたことも構想されたこともない、本当にオリジナルなものでした。ですから構想から手段に至るまですべてをオリジナルで考案し、それを実現にこぎつけたのが「はやぶさ」だったのです。

Clip to Evernote

関連書籍

はやぶさ、そうまでして君は—生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話

川口淳一
宝島社


該当講座

小惑星探査機「はやぶさ」奇跡のチームビルディング
川口淳一郎  (独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ 宇宙科学研究所 教授)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

川口淳一郎(JAXA)教授×米倉誠一郎教授 
2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」が「イトカワ」への7年間の旅を終えて奇跡の帰還—。今年最初の日本元気塾セミナーは、「はやぶさ」プロジェクトマネージャとしてミッションを指揮し、類稀なるリーダーシップ、的確な判断力で、奇跡の帰還に導いた川口淳一郎氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授)をゲストにお迎えし、ミッション達成のために目指すべき、理想的な“チーム”の姿を、皆さんと一緒に考えていきます。


日本元気塾 キャリア・人 教養