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創成のイノベーション「未来に継承するリベラル・アーツ」

VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar

BIZセミナー
更新日 : 2011年07月11日 (月)

第8章 人間とは何か?

佐治晴夫氏

佐治晴夫: 人間は子どもを未熟児としてしか産むことができないので、ご飯であるお乳を、お金をとらずにタダであげる、すなわち「与える」ということができるようになりました。そして、他者に対して与えることが自分の幸せであるというふうになってきました。無償の愛、見返りを求めない愛とは何かということが、人間だけに非常にはっきりしてきたのです。

チンパンジーは食べ物を一カ所に集めてみんな食べるということを、全くしないわけではありませんが、基本的にはしません。我々人間は「共に食べる」ということを、数百万年前からやってきました。「共食」です。それと同時に、みんなで教育をしていました。子どもに狩りの仕方も、家のつくり方も教えなければいけないのですが、1人では教えられないから、みんなで教育をする必要があったのです。「共育」です。

だから、人間だけに学校があるんです。小学校の授業では、「君たち、どうして学校に来ているの?」と言ってこの話をします。「だからね、一人前になるためには教育を受けなければいけないんだよ。教育を受けなければ一人前になれない生き物は人間だけなんだよ。君たち、人間でしょう? だからお勉強しに学校に来ているんだよ」と。こんなことから、登校拒否していた子が僕の授業だけは出てくれるようになったという経験があります。

それから人間は大きい脳のおかげで、自分が痛いときのことを思い出しながら、相手が「どれぐらい痛いのかな」と想像できるようになりました。これが「共感」ということです。

ともに食べて、ともに育てて、ともに感じ合うのが人間の特徴です。分かち合うことができるのが人間なのです。分かち合いができなくなった状態では、人間とは言えません。

こうしたことをいろいろな宗教が言っています。例えば、キリスト教の「聖フランチェスコの平和の祈り」では、「理解されるよりも理解することを、愛されるよりも愛することを、私に求めさせてください。それは与えることによって与えられるからです。許すことによって許されるからです」と言っています。「許す」という言葉は、「ゆるめる」という言葉からきたものです。つまり「絶対に許さないぞ、というのをちょっとゆるめてごらん」というのが許すということです。

現代は耐えることが非常に難しくなっています。人間というのは環境に対して自分を適応させるためなら耐えることができるのですが、今は環境の変わり方が早過ぎて適応できないので耐えることができなくなっているだけです。そうしたことに気づくことが大切です。

きょうは思いつくままにお話をしましたが、リベラル・アーツというものは、どんな考え方かというのはおわかりいただけたかと思います。お伝えしきれなかったところは、宣伝をするわけではないのですが、私の本や毎日新聞での連載に書いていきたいと思っております。きょうはありがとうございました。(終)

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第9回 創成のイノベーション 未来に継承するリベラルアーツ
佐治晴夫 (鈴鹿短期大学学長)

佐治 晴夫(鈴鹿短期大学学長)
「私たちはどこから来てどこに行くのか」という根本的な問題とともに、リベラルアーツ(教養や芸術)が我々にもたらす影響そして重要性についてお話いただきます。


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