記事・レポート
20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ
~消費と幸福の新しい関係~
更新日 : 2010年10月08日
(金)
第3章 家族消費からブランド消費へ
山田昌弘: 近代社会を研究していると、消費社会の物語には2つの段階があるようです。1つは「家族消費」という物語の時代。1970~80年ぐらいまでは、この単純至極な物語しかなかったので、多くの人がその物語に沿って人生を設計することができました。
「家庭に必要なモノを揃えていくこと=幸福」という物語は、日本だけではなく、近代社会の成長期に普遍的な物語です。中国は今、この物語に浸っています。家族生活に必要なモノを揃えさえすれば幸福になる、それは冷蔵庫であったり、カラーテレビであったりするわけです。
当時、ほとんどの日本人がこの物語を共有し、家族で一緒に消費するものを買っていきました。家も旅行もそうです。今は個人旅行がありますが、昔はみんな家族旅行でした。とにかく、どこでも家族で行って、家族で消費していたのです。
『幸福の方程式』でも書きましたが、遊園地は非常に象徴的です。私が子どもの頃、全国各地に遊園地ができました。月に1回ぐらい家族揃って遊園地に行って、ジェットコースターや観覧車に乗って、みんなで食事をして帰る。それを消費することによって家族の幸せを感じるというシステムが機能していたのです。
豊かな家族生活という物語は人生の長期にわたる巨大なプロジェクト、これはジャン=フランソワ・リオタールが言うところの「大きな物語」でした。結婚して、次第に大きな家を買い、車も大きなものに乗り換えていきました。
物語は商品生産や広告と結びつきました。「このような生活が幸福をもたらす」という物語をつくり出し、新商品を提示すれば売れた時代です。「テレビというものが家族に1台あれば家族が幸せになれる」という物語ですから、特定のメーカーのテレビが欲しいわけではありません。
袖川さんのご著書の中で、私がとても面白いと思ったのは、インスタントコーヒーとCMの話です。それまでコーヒーを家で飲むという習慣がほとんどなかった日本社会において、夜、家族で飲むシーンを映し出すことで、家族団らんの象徴としての意味が発生し、それが幸福だという観念がつくられて、インスタントコーヒーを飲む習慣がつくられていったというのです。
こうしたことを可能にした条件というものがあります。それは、ほとんどの人が結婚していて離婚は少なく、家族と収入が安定していること。つまり、家族があり、安定していて、幸福を生むと期待される商品を買い続けることができる、という期待が幸福を生み出したのです。
しかし、豊かな家族生活は1980年代になると揺らぎ始めます。理由の1つは、物語を完成した人々が増えたこと。もう1つは、貧しくて物語を完成することを諦めた人々が出てきたことです。格差の拡大が1980年ぐらいから現れたのですが、その両極にいる人が同じような行動をとり始めました。
これが商品の個人化、物語の個人化、アイデンティティの個人化、と私が言っているものです。まず、家族消費に加えて、個人消費が出てきました。そして全国一律ではなく、人によって幸福を生み出す商品が違う状況が出てきました。さらに、短期的にしか持続しないものが出てきました。
そこで出てきたのが「ブランド」というガイドラインです。「ブランド消費」の時代のはじまりです。
「家庭に必要なモノを揃えていくこと=幸福」という物語は、日本だけではなく、近代社会の成長期に普遍的な物語です。中国は今、この物語に浸っています。家族生活に必要なモノを揃えさえすれば幸福になる、それは冷蔵庫であったり、カラーテレビであったりするわけです。
当時、ほとんどの日本人がこの物語を共有し、家族で一緒に消費するものを買っていきました。家も旅行もそうです。今は個人旅行がありますが、昔はみんな家族旅行でした。とにかく、どこでも家族で行って、家族で消費していたのです。
『幸福の方程式』でも書きましたが、遊園地は非常に象徴的です。私が子どもの頃、全国各地に遊園地ができました。月に1回ぐらい家族揃って遊園地に行って、ジェットコースターや観覧車に乗って、みんなで食事をして帰る。それを消費することによって家族の幸せを感じるというシステムが機能していたのです。
豊かな家族生活という物語は人生の長期にわたる巨大なプロジェクト、これはジャン=フランソワ・リオタールが言うところの「大きな物語」でした。結婚して、次第に大きな家を買い、車も大きなものに乗り換えていきました。
物語は商品生産や広告と結びつきました。「このような生活が幸福をもたらす」という物語をつくり出し、新商品を提示すれば売れた時代です。「テレビというものが家族に1台あれば家族が幸せになれる」という物語ですから、特定のメーカーのテレビが欲しいわけではありません。
袖川さんのご著書の中で、私がとても面白いと思ったのは、インスタントコーヒーとCMの話です。それまでコーヒーを家で飲むという習慣がほとんどなかった日本社会において、夜、家族で飲むシーンを映し出すことで、家族団らんの象徴としての意味が発生し、それが幸福だという観念がつくられて、インスタントコーヒーを飲む習慣がつくられていったというのです。
こうしたことを可能にした条件というものがあります。それは、ほとんどの人が結婚していて離婚は少なく、家族と収入が安定していること。つまり、家族があり、安定していて、幸福を生むと期待される商品を買い続けることができる、という期待が幸福を生み出したのです。
しかし、豊かな家族生活は1980年代になると揺らぎ始めます。理由の1つは、物語を完成した人々が増えたこと。もう1つは、貧しくて物語を完成することを諦めた人々が出てきたことです。格差の拡大が1980年ぐらいから現れたのですが、その両極にいる人が同じような行動をとり始めました。
これが商品の個人化、物語の個人化、アイデンティティの個人化、と私が言っているものです。まず、家族消費に加えて、個人消費が出てきました。そして全国一律ではなく、人によって幸福を生み出す商品が違う状況が出てきました。さらに、短期的にしか持続しないものが出てきました。
そこで出てきたのが「ブランド」というガイドラインです。「ブランド消費」の時代のはじまりです。
関連書籍
『幸福の方程式』
山田昌弘ディスカヴァー・トゥエンティワン
20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ インデックス
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第1章 豊かさ以外の幸福とは何か
2010年10月06日 (水)
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第2章 近代社会の幸福は、幸福を生み出すと期待される商品を買うこと
2010年10月07日 (木)
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第3章 家族消費からブランド消費へ
2010年10月08日 (金)
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第4章 金融危機後に訪れた消費不安の時代
2010年10月12日 (火)
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第5章 21世紀にふさわしい新しい幸福の物語と消費のカタチとは?
2010年10月13日 (水)
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第6章 今求められているのは、大衆ならぬ「帯衆」
2010年10月14日 (木)
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第7章 オバマは「帯衆」戦略で大統領選に勝利した
2010年10月15日 (金)
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第8章 21世紀は、幸福をみんなに広げる「福活」の時代
2010年10月18日 (月)
該当講座
20世紀から21世紀の「幸福の方程式」へ
~消費と幸福の新しい関係~
山田 昌弘(中央大学 文学部 教授)
袖川 芳之(株式会社電通 ソーシャル・プランニング局 プランニング・ディレクター)
いま、「幸せ」ブームと言われています。戦後、長い間「消費によって豊かな家族をつくるということ=幸福」という図式を誰もが共有していました。しかし価値観が多様化し、不況を迎えたいま、新しい「幸福の方程式」が求められています。本セミナーでは、「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」など数多くのブームの火付け役となった気鋭の社会学者である山田氏とマーケターの袖川氏が、幸福観の変化から読み解く新しいライフスタイルと消費のカタチについて語ります。
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