記事・レポート
野中郁次郎氏が語る、未来を経営する作法~美徳のイノベーション~
VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar
更新日 : 2010年09月27日
(月)
第1章 知識は絶えず流転する、ダイナミックなプロセスである
アジア人で唯一、2007年の『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌において「最も影響力のあるビジネス思索家トップ20(The most influential business thinkers)」に選出された野中郁次郎氏。これからの卓越した経営には"美徳"と、よりよい未来を創出する"賢慮型リーダー"が必要だと説く、野中氏の思索に迫ります。
2010年4月20日開催 VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar第1回
美徳のイノベーション 未来を経営する作法
講師:野中郁次郎(一橋大学 名誉教授)
野中郁次郎: business thinkers というのは「新しいビジネス・コンセプトを出した人」という意味合いの言葉です。コンセプトとは、今まで気づかなかった新しい視点を提示するという意味の言葉だと思います。
business thinkersトップ20の1番目にあげられているゲリー・ハメルは、ご承知の通り「コア・コンピンタンス」というコンセプトを提示しました。2番目のトーマス・フリードマンには『フラット化する世界』という本があります。17番目のクレイトン・クリステンセンのコンセプトは「破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)」です。
我々は1995年に『The Knowledge-Creating Company(知識創造企業)』という本で、「企業は知をつくり続ける知識創造体である」というコンセプトを提示しました。そして2008年には「知はダイナミックなフローである」という発想から、『Managing Flow』という本を書きました。日本語版は6月(2010年)頃に出ると思います。
これらを踏まえて、今日は「美徳のイノベーション」というテーマでお話します。我々が「企業は知識創造体」と考える背後には、ピーター・ドラッカーが言った「社会自身が知識社会になる」という社会観があります。つまり、知が唯一の意義ある資源であるという考え方です。
ドラッカーは、知を富の創造過程の中心に据える理論が必要とされている、また、そういう理論だけがイノベーションや今日の経済や経済成長を説明できるだろうと言いました。
我々は、企業が知識創造体であるとすれば、どういうプロセスなら知識を生み出すことができるのかを実践的な理論にしたいと考えてきました。基本的な考え方は、「企業はユニークな未来をつくっていく存在であり、持続的なイノベーションが不可欠である」「知識は客観的に与えられるものではなく、自分の“主体的な思い”を真理に向かって正当化していくダイナミックなプロセスだ」ということです。
「主体的な思い」は言ってみれば身体で、身体というのは自己の中心、世界の中心です。そこから夢や志を外部とコミットしながら実現していく。もともとは主観だけれども、人々を説得しながら客観的あるいは普遍的にそれをつくり上げていく。それが知識ではないかということです。
そう意味で、知識はManaging Flow、すなわち絶えず動いているダイナミックなプロセスだという考え方になります。もちろん、既存の理論やモデルを活用することもありますが、それは形式的な知識であり、その根本にあるのは「主観」「信念」「思い」、そして「関係性」です。
このプロセスは、知は万物流転のFlowであり、「モノ(thing)」というより「コト(event)」であるという考え方です。我々の世界は、モノでとらえるよりコトから成っていると捉えた方がダイナミックなわけです。そしてプロセスの本質は、ただそこに「有る(Being)」のではなく、絶えず「成る(Becoming)」ということです。私という人間はBeingでも、数時間後には変化しているわけで、絶えず「成る」存在なのです。
モノを否定するわけではありません。見える存在のモノが媒介になってコトは見えてくるわけですから、モノも非常に重要です。しかしそれは固定しているのではなく、絶えず動いているのです。例えば「川はモノか?」と聞かれれば、そうとも言えますが流れとも言えます。従ってコトはモノを含んでいると考えた方が、より大きな関係性が見えてくるのです。
business thinkersトップ20の1番目にあげられているゲリー・ハメルは、ご承知の通り「コア・コンピンタンス」というコンセプトを提示しました。2番目のトーマス・フリードマンには『フラット化する世界』という本があります。17番目のクレイトン・クリステンセンのコンセプトは「破壊的イノベーション(Disruptive Innovation)」です。
我々は1995年に『The Knowledge-Creating Company(知識創造企業)』という本で、「企業は知をつくり続ける知識創造体である」というコンセプトを提示しました。そして2008年には「知はダイナミックなフローである」という発想から、『Managing Flow』という本を書きました。日本語版は6月(2010年)頃に出ると思います。
これらを踏まえて、今日は「美徳のイノベーション」というテーマでお話します。我々が「企業は知識創造体」と考える背後には、ピーター・ドラッカーが言った「社会自身が知識社会になる」という社会観があります。つまり、知が唯一の意義ある資源であるという考え方です。
ドラッカーは、知を富の創造過程の中心に据える理論が必要とされている、また、そういう理論だけがイノベーションや今日の経済や経済成長を説明できるだろうと言いました。
我々は、企業が知識創造体であるとすれば、どういうプロセスなら知識を生み出すことができるのかを実践的な理論にしたいと考えてきました。基本的な考え方は、「企業はユニークな未来をつくっていく存在であり、持続的なイノベーションが不可欠である」「知識は客観的に与えられるものではなく、自分の“主体的な思い”を真理に向かって正当化していくダイナミックなプロセスだ」ということです。
「主体的な思い」は言ってみれば身体で、身体というのは自己の中心、世界の中心です。そこから夢や志を外部とコミットしながら実現していく。もともとは主観だけれども、人々を説得しながら客観的あるいは普遍的にそれをつくり上げていく。それが知識ではないかということです。
そう意味で、知識はManaging Flow、すなわち絶えず動いているダイナミックなプロセスだという考え方になります。もちろん、既存の理論やモデルを活用することもありますが、それは形式的な知識であり、その根本にあるのは「主観」「信念」「思い」、そして「関係性」です。
このプロセスは、知は万物流転のFlowであり、「モノ(thing)」というより「コト(event)」であるという考え方です。我々の世界は、モノでとらえるよりコトから成っていると捉えた方がダイナミックなわけです。そしてプロセスの本質は、ただそこに「有る(Being)」のではなく、絶えず「成る(Becoming)」ということです。私という人間はBeingでも、数時間後には変化しているわけで、絶えず「成る」存在なのです。
モノを否定するわけではありません。見える存在のモノが媒介になってコトは見えてくるわけですから、モノも非常に重要です。しかしそれは固定しているのではなく、絶えず動いているのです。例えば「川はモノか?」と聞かれれば、そうとも言えますが流れとも言えます。従ってコトはモノを含んでいると考えた方が、より大きな関係性が見えてくるのです。
関連書籍
美徳の経営
野中 郁次郎, 紺野 登NTT出版
野中郁次郎氏が語る、未来を経営する作法~美徳のイノベーション~ インデックス
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第1章 知識は絶えず流転する、ダイナミックなプロセスである
2010年09月27日 (月)
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第2章 知の創造に必要な4つのプロセス
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該当講座
第1回 美徳のイノベーション 未来を経営する作法
講師:野中郁次郎
野中郁次郎 (一橋大学 名誉教授)
野中 郁次郎(一橋大学 名誉教授)
2007年の『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌で「The most influential business thinkers(最も影響力のあるビジネス思索家トップ20)」に選出された野中郁次郎氏のご講演です。
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