記事・レポート

吉田カバンの社長が語る「メイド・イン・ジャパン」ブランド

変わらないけど変わり続ける“ぶれない経営”に迫る

更新日 : 2010年03月24日 (水)

第7章「基本」と「利他の心」が、その人の人格を磨く

吉田輝幸氏

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首藤明敏: 関東では、昔からの職人さんとの深い関係を維持されていますが、関西では、新しい取り組みをされているようですね。

吉田輝幸: 兵庫県の豊岡市は、昔は柳行李(やなぎごうり)の街で、その後カバンの街として栄えたのですが、多くが中国生産になびいてしまったために、廃業が続出しました。そんななか、ある日この街の5人の若い職人さんが、「カバンをつくらせてほしい」と言ってきたのです。

そこで見本を見せてもらいましたが、お話にならない。でも彼らは非常に熱心で、5回以上つくり直してきたのです。そして、最後にはとてもいい商品をつくってきました。今では、私どもにとって大きな生産拠点になっています。

首藤明敏: コストや効率じゃなく、そういう思いが通じるかどうかが重要だということですか。

吉田輝幸: とても大事だと思います。それによって、国内の職人さんの活性化につながっていくわけですから。

首藤明敏: 吉田カバンは159人の社員だけでなく、生産してくれる人たちみんなでブランドをつくっているということですね。

吉田輝幸: 材料関係者もそういった精神を持ってくれています。

以前、イタリアの革の展示会で、「吉田は『一針入魂』の精神でやっている」と現地の職人さんに伝えました。その方は「わかった」と言ってくれましたが、通じたかどうか半信半疑でした。しかし後日その方から送られてきた革材が素晴らしかったのです。惚れ惚れするような、商品になったら僕が買いたいというぐらいのものでしたので、ちゃんと通じていたんだと思いました。

首藤明敏: 精神はイタリア人にも伝わる、国境を越えても理解できるのですね。メイド・イン・ジャパンではなく、ジャパン・ブランドと呼びたい、吉田カバンを海外の方にもぜひ使ってもらいたいですね。

吉田輝幸: 去年(2008年)から、アメリカにも商品を出しています。これは売るというより、私どもの「PORTER」ブランドをできるだけ知ってもらいたいと考えたからです。販売店はセレクトショップのようなところを希望させていただいています。

日本よりかなり高額になっていますが、おかげさまで売れています。今度ニューヨークで大きなショーがありますので、そこにも出展してみようかと思っています。世界各国からお客さまがいらっしゃるので、見ていただくだけでもいいじゃないかと、一歩一歩進めているところです。

首藤明敏: 「ブランドって何だろう」と、僕は10年ぐらい前から毎日考えているわけですが、ブランドは、それをつくり上げていく、ちゃんとした人格をもった人間の気持ちや心のようなものがぶつかり合い、切磋琢磨しながらできるものだと改めて実感できました。

吉田輝幸: 私は社員に、「基本」と「利他の心」という言葉を常に言っています。基本は朝起きて「おはようございます」を言えるか、会社で「お疲れ様でした」と言えるか。そういった基本的なことが守られていけば、人間は素晴らしい人格を持てるということです。

利他の心は、人だけではなく物も思う心がすごく大事だということです。これが備わっていれば、人間としても最高の人格を持った人間になれるし、そういった集団は絶対に負けない、強い集団になれると私は思っています。

首藤明敏: 正しいことだけを続けてきた結果として、売上150億円、経常利益30億円、経常利益率20%。日本の大企業があくせく数字を求めて、経常利益率5%と言っているなかで、全く違う成果を生み出している。社員や職人さんに価値を感じていただき、お客さまにも価値を感じていただく。そのグッドサイクルのエンジンとして活躍されている吉田社長のお話、本当に感慨深いものがありました。ありがとうございました。(終)

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