オピニオン・記事

カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」

更新日 : 2008年07月23日 (水)

第7章 源氏は物語絵でも楽しまれた

『文読む姿の西東—描かれた読書と書物史』

澁川雅俊: 私たちは一般に絵巻物を美術品と見ていますが、こと物語絵については物語をもっと楽しみたいという欲求に応じて制作されたと考えるべきでしょう。例えば『文読む姿の西東—描かれた読書と書物史』(田村俊作編、07年慶應義塾大学出版会刊)でも取り上げられているように、お付きに物語を読ませ、その絵巻や画帖を楽しんでいる姫たちの読書の姿が奈良絵本・絵巻の挿絵にしばしば現れてきます。事実源氏にも姫たちが絵巻を見ながら『竹取物語』などの昔物語を楽しんでいる様子が所々に書かれています。

源氏の物語絵は源氏絵と呼ばれていますが、その制作を促進したもう一つの要因は物語が彩色に優れていることでしょう。風景、造園、建物、室内装飾、衣装・小物などの彩りが豊かで、絵師たちの創作意欲を掻き立てたに違いありません。

『よみがえる源氏物語絵巻』
現存する最も古い源氏絵は国宝に指定されている『源氏物語絵巻』で、日本四大絵巻の一つ(他の絵巻は最近小学館で複製された『鳥獣人物戯画』と『伴大納言絵 詞』と『信貴山縁起絵巻』)とされ、平安末期に制作されたものとされています。それはいま徳川美術館(15面・詞28面)と五島美術館(絵4面・詞書9 面)と東京国立博物館(断簡)に分かれて残されています。五島美術館のものはこの4月29日から5月6日(2008年)まで展示されましたが、国宝源氏絵 の実物を閲覧できる機会はめったありません。

『源氏物語絵巻—もうひとつのみやび』
図版は、例えば『よみがえる源氏物語絵巻』(NHK名古屋「よみがえる源氏物語絵巻」取材班著、06年日本放送出版協会刊)が徳川美術館に掲載されていていつでも鑑賞できます。それには99年に始まった落剥著しかった同絵巻を復元するプロジェクトがつぶさに記されています。また『源氏物語絵巻—もうひとつのみやび』(清水婦久子解説、07年木版本源氏物語絵巻刊行会刊)は徳川美術館と五島美術館の絵巻を模写し、それを基に木版刷りしたものの図録です。徳川美術館での復元プロジェクトに際して、この時代ですから、デジタル源氏絵(DVD版『よみがえる源氏物語絵巻』)も制作されています。

『源氏物語絵巻の謎を読み解く』
なお国宝絵巻の制作についてはその画家のこと、意匠のこと、スポンサーなど一切解っていません。そんな点を学術的に考察し、そのさまざまな謎解きを試みた、少しおタッキーな『源氏物語絵巻の謎を読み解く』(三谷邦明・三田村雅子著、98年角川書店刊)などもあります。

つい最近源氏絵を通じて王朝のみやびを後の世の人々がどのようにイメージしたかを研究した論文集『源氏物語と江戸文化—可視化される雅俗』(小嶋菜温子 他編、08年森話社刊)が出版されましたが、国宝源氏絵より時代が下がってからも非常に多くの源氏絵が描かれました。室町末期から江戸中期に制作された奈良絵本・絵巻の中に源氏絵がたくさんあります。

『源氏物語扇面画帖—九曜文庫蔵』
『源氏物語—豪華「源氏絵」の世界』(秋山虔・田中栄一監修、88年学習研究社刊)などは、国内の個人蔵や寺社蔵や博物館・美術館・図書館所蔵のものはもとより、海外の同種の施設所蔵の源氏絵の図版を幅広く収録しています。それには絵巻や絵本だけではなく、屏風や扇面に描かれた源氏絵が収録されていますが、『源氏物語扇面画帖—九曜文庫蔵』(中野幸一編、07年勉誠出版刊)などのように扇の図柄としての源氏絵もあります。また『源氏物語』(廣瀬ヰサ子著、96年東芝EMI刊)は土佐光則の描いた『源氏物語画帖』(徳川美術館蔵)を掲載し、各篇の物語を要約しています。

『絵とあらすじで読む源氏物語』
江戸時代の源氏版本にも少なからぬ版画の挿絵が掲載されていました。庶民向けの読み物である絵草紙(もしくは単に「絵本」)にはそういう挿絵が必須でした。先に挙げた『絵とあらすじで読む源氏物語』(小町谷照彦編著、07年新典社刊)にはその類のものが幾つか図版で紹介されています。またこれも先の注記に上げていますが、源氏パロディの代表、『偐紫田舎源氏』(柳亭種彦作、歌川国貞画、88年ほるぷ社復刻)がいい例です。また物語から離れ、絵画として制作されたものもありました。

『絵草紙源氏物語』
現代の画家による源氏絵は、現代語訳を飾った装画や挿絵に見られます。例えば晶子のものには江崎孝坪が口絵を施しています。谷崎のには、安田靫彦、奥村土 牛、福田平八郎、堂本印象、山口蓬春、中村丘陵、菊池契月、徳岡神泉、小倉遊亀、太田聴雨、中村貞以、橋本明治、前田青邨ら現代日本の蒼々たる画人が挿絵 を描いています。私自身は、田辺聖子の『絵草紙源氏物語』(79年角川書店。84年角川文庫)につけられた岡田嘉夫の妖艶な挿絵が大好きです。

世の中には源氏関連の書物がたくさんあります。六本木ライブラリーにも少なくありません。そんなことで今回のブックトークは少し長くなりました。しかしそれでもまだ何か足りないなと思っています。

※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。

関連書籍

文読む姿の西東—描かれた読書と書物史

田村 俊作
慶應義塾大学出版会

よみがえる源氏物語絵巻—全巻復元に挑む

NHK名古屋「よみがえる源氏物語絵巻」取材班
日本放送出版協会

もうひとつのみやび木版本源氏物語絵巻

木版本源氏物語絵巻刊行会
(発売:青幻舎)

源氏物語絵巻の謎を読み解く

三谷邦明 三田村雅子
角川書店

源氏物語と江戸文化—可視化される雅俗

小嶋 菜温子, 小峯 和明, 渡辺 憲司
森話社

源氏物語—豪華「源氏絵」の世界


学習研究社

源氏物語扇面画帖 — 九曜文庫蔵

中野幸一
勉誠出版

絵とあらすじで読む源氏物語

小町谷照彦
新典社

絵草紙源氏物語

田辺聖子 岡田嘉夫
角川書店


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