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カフェブレイク・ブックトーク「源氏物語千年」

更新日 : 2008年06月09日 (月)

第2章 源氏物語千年の伝承~それは写本板本を通じて伝えられてきた~

『かなの美』

澁川雅俊: 面白い物語ということで、源氏は平安宮廷の周辺で盛んに書き写されて読まれました。それまでに、百万塔陀羅尼経の制作で知られているように、印刷という方法が無かったわけではありません。しかし書物は、漢字の渡来以来長い間、紙面に文字を書くことによって作られていました。現代に伝えられているこの物語は、そのようにして作られた数えようもないほどの写本を、後の鎌倉時代に藤原定家やその他の有識といわれた人たちによって再編纂されて書写され、さらにその写本がまた書き写されて代々の教養人に広まっていったのです。

源氏の写本とは具体的にどのようなものであったのでしょうか。

展覧・展示会や稀覯書を扱っている古書店の商品ケースなどで写本現物を閲覧できる機会もありますが、ここでは『かなの美』(京都国立博物館編、96年大塚巧藝社刊)を紹介しておきましょう。これは漢字から日本で作られた仮名文字、とりわけその美麗さを確認できるように中・近世の仮名書き書物や文書を図版で掲載していますが、その中に現存する数点の写本源氏も図版で掲載されています。

『偐紫田舎源氏』
写本の生産性は極めて低いので読者への広がりはどうしても限定的です。江戸時代になると木版刷りの源氏が作られ、大量に全国的に流布されるようになります。さらにそれらの本には木版の挿絵が付けられて庶民も楽しめる読み物になりました。ここでは『偐紫田舎源氏』(柳亭種彦作、歌川国貞画、88年ほるぷ社復刻)『絵とあらすじで読む源氏物語』(小町谷照彦編著、07年新典社刊)を挙げておきます。『絵とあらすじで読む…』は、江戸時代の作家渓斎英泉の『源氏物語絵尽大意抄』を中心に、当時源氏を庶民階層へ紹介する数々の入門書があったことが調べられています。

やがて活字印刷本の時代、明治中期以降になると、庶民には平安時代から伝えられてきた古文体で読み通すのが難しいことになってきたようです。中世国 文学者や現代作家による現代語訳が出版されるようになりました。そしていまでは「源氏物語」を標題に含めているものだけでも、2200点(単行本の文庫化 物、重版、再刷などを含む)以上が新刊本として流通しています。そのうちこの1年(2007年6月~2008年5月)で85点以上が出されており、今年中 にまだまだ出版されると予測されます。もちろんこの中には王朝文学、あるいは中世国文学の専門書も含まれていてすべてが一般書ではないのですが、それにし ても大変な数です。

※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。

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