オピニオン・記事

ダンディズム~男が憧れる男、女が憧れる男

粋、男らしさ、そして生きざままで

更新日 : 2018年11月20日 (火)

第1章 作家が描いたダンディな男たち



ダンディ(dandy)ということばは、18世紀の西欧に端を発するそうです。とはいえ、1つのことばが指し示す概念や対象は、時代の流れとともにさまざまに変わります。例えば「ダンディ」、そこから派生した「ダンディズム」も同様であり、いまや多様な意味合いを内包することばとなっています。そこで今回のブックトークでは、その実体を解明する手がかりになる本を集めてみました。

<講師> 澁川雅俊(ライブラリー・フェロー)
※本文は、六本木ライブラリーのメンバーイベント『アペリティフ・ブックトーク 第45回 DANDYISM~そして、男振り、男前…』(2018年7月27日開催)のスピーチ原稿をもとに再構成しています。


容姿で魅せるダンディズム

澁川雅俊: ダンディ(dandy)。18世紀の西欧で使われるようになったこのことばは、19世紀初頭に流行し、次第に現在の意味を確立していったようです。

英語の辞典では、「仰々しいまでに麗々しく、エレガントに着飾った男性」「容姿だけではなく、洗練された弁舌、余暇の高雅な趣味に重きを置く男性」と解説されています。『悪の華』で有名な仏文学者のボードレールは、「ダンディ」について、生き方の美学を宗教にも似た信仰へと高める者のことだと捉え、「男性の生活様式や教養などへの極度のこだわりや気取り」と定義しています。
他方で、広辞苑には「男性の服装・態度が洗練されてしゃれたさま。そのような男性。しゃれ者、伊達者」とあります。ダンディから派生した「ダンディズム(dandyism)」については、「おしゃれ、伊達 (だて) に徹する態度」と説明されています。海外と日本でもことばの解釈には差異があり、時代によってもさまざまに変化しているようです。

しかし、実社会ではいまや「ダンディ」も「ダンディズム」も死語になりつつあります。新聞のコラムにも「いまは、ダンディやダンディズムはほとんど聞かれないし、男らしいや男らしさもその意味が問われなくなってしまった」とあったほど。そこで、あらためて「ダンディ」「ダンディズム」の実体に迫るべく、まずは容姿から見ていきたいと思います。
『JAPANESE DANDY』〔河合正人、大川直人/万来舎〕は、ファッションプロデューサーとフォトグラファーが、10代から90代の日本男性130人をとらえた写真集です。登場するダンディたちは各界で活躍する人物ですが、いたって‘ふつう’の男性ばかり。必ずしもスタイルが良く、イケメンではありませんが、ダンディぶりをにじませ、なかには「粋」を感じさせる人も見受けられます。


粋は必ずしも「男らしさ」と同義ではありませんが、「男だねえ!」を「粋だねえ!」と表現しても、十分にその感嘆は伝わってきます。『「いき」の構造 他二篇』〔九鬼周造/岩波書店〕は、その真意を明らかにしようとした最初で、最大の試みと言っていいでしょう。吉原遊郭で礼讃された「いき」を手がかりに、日本人の美意識を解明していくものですが、その論考は少々難解です。そのためか、『まんがで読破 「いき」の構造』〔九鬼周造/イースト・プレス〕も出ています。


時代小説に見る「ダンディな人」

澁川雅俊: それでは、「ダンディな人」とはどのような人なのでしょうか? 人は「こうありたい」と思うイメージを、小説の主人公に求めることがあります。直木賞の受賞作品には、「格好いい!」と読者を感動させるようなヒーローがしばしば登場します。

時代小説ですぐに思い浮かぶのが、池波正太郎『鬼平犯科帳』〔文藝春秋〕の長谷川平蔵、同じく『剣客商売』〔新潮社〕の老剣術師・秋山小兵衛などです。前者は1968年から1990年の間に24巻が、後者は1972年の初筆から1990年までの間に全135作品(単行書24巻)が出版されています。

解説本となる『鬼平犯科帳の人生論』〔里中哲彦/文藝春秋〕や『剣客商売読本』〔池波正太郎ほか/新潮社〕には、それぞれの主人公の人となり、心情が集約されています。とりわけ後者には、池波の書生であった文筆家が書いた「男の流儀~秋山小兵衛に学ぶ 男の磨き方七条」があり、その一つひとつにダンディズムが垣間見えます。


そのことばを見ていくと、「女と男は違うが、男は女無しではちゃんと生きられない。また、女が女らしくちゃんと生きられるようにするのが男だ」「この世に絶対の真偽、善悪、美醜はない。きちんと割り切ることが出来ないならば、清濁合わせ飲む度量が必要」「老いも若きもいずれは死ぬ。〈何時死んでもいいよ〉を常に頭の片隅に」などなど。

ダンディな主人公を創り出すのは、なにも男性作家だけとは限りません。北原亞以子は、全18巻の『慶次郎縁側日記』〔新潮社〕で、森口慶次郎という江戸末期の元南町奉行定町回り同心を描き、格好いい男を表現しています。主人公は、一人娘が手込めに遭い、それを苦に自害してしまうという不幸な出来事を機に、家督を娘の許婚に譲ります。その後は根岸の商家別宅の寮番となり、人情に厚い‘仏の慶次郎’として頼みごとの数々を解決していきます。一人娘の不幸な死を胸に秘め、日々粛々と生きるさまに男の‘渋さ’がにじみ出ています。


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