石倉洋子のグローバル・ゼミ
みんなと同じは安心ではない
これからの時代に求められる「逆張り」キャリア論
2章 何もないところから自分のやることを決める
石倉:
そこからメルカリにはどういう経緯で行かれたのですか?
唐澤:
大学院時代の友人の紹介でメルカリの社長である小泉文明に会う機会がありました。会って話しているうちに、一緒にうちで働かないかと言っていただき、自然に入社が決まりました。全然転職活動もしていなかったので、自然と決まった感じです。
石倉:
インタビュー記事で読んだのですが、「社長室作るから、何でも好きなことをやっていい」と言われたとか。そう言える会社もすごいですが、そう言われて受ける人もなかなかいないのではないかと思います。好きなことをやっていいと言われると、もう少し領域を決めて欲しいと不安になる人が多いのではないでしょうか。
唐澤:
小泉に会った数日後に「社長室作ったからおいで」と言われて、その意思決定のスピードの速さに僕も最初驚きました。「え、何をやるんですか?」と聞いたら本当に「好きなことをやって欲しい」と言われて、これは最高だと思いましたね。自分が一番やりたいと思えて、それで会社としてもやるべきこと、というのを自分で定めればいいので、パフォーマンスも出しやすくなると感じました。
領域が定まっている方が、やるべきことをやったことで期待通りと評価されやすいから安心かもしれません。でも、それだと自分ではなくて他の人でもできる仕事になってしまう。自分にしかない価値を出すためには、何もないところから自分のやることを定めていく方がいい。メルカリらしいと思います。
こんな有難い環境はないので、マクドナルドには心からの御礼を伝えて転職することにしました。マクドナルドが「外で成長していつでも戻っておいで」と快く送り出してくれたのも、嬉しかったですね。
石倉:
自分たちの会社で活躍した人が、外に行ってさらに活躍することはその会社にとってもプラスになりますよね。日本企業ではそのような考え方はまだ一般的ではありませんが。
唐澤:
そうですね。企業は本来そういう発想を持つべきだと思います。個人も、1つの会社を経験して、そこでの職務のみで上を目指す---例えば僕のケースだとマーケターであればCMO(Chief Marketing Officer)を目指す、というのでは幅が広がらないと思います。大事なことは、そのポジションになることではなく、なってから成果を最大化することなので、1社だけでなく他社での経験を得た方が圧倒的に自分の器が広がり、成果を出しやすくなると思います。
成功するまでやり続ければ、それは失敗ではなくなる
石倉:
メルカリもまた真逆というか、全然違う業界・職種ですよね。
唐澤:
転職の際、同じ業界内で職種を変える、同じ職種で業界を変えるなど、少し「ずらす」人が一般的には多いですよね。でも真逆にキャリアを振るほうが、キャリアの振れ幅は大きくなりますし、そのほうが得るものも多いのではないでしょうか。両端が分かることで自分の器が広がる感覚です。
マクドナルドとメルカリでは、組織としては外資の大企業と日本のベンチャーという違いがあり、ビジネスとしてはリアルなレストランかオンラインサービスのITかの違いがあります。マクドナルドもスピードが速いと言われる会社でしたが、メルカリに移ってITのスピードの速さは全く異なる種類のスピードだということを痛感しています。
石倉:
転職するなら振れ幅が大きい方がいいという人はなかなかいないと思うんです。私はそれが当たり前だと思うのですが、それができない人の方が圧倒的に多い。どうしたらそういう逆張りの思考になるのかについて興味があります。
「どうせ行くなら全く違うところに行って思い切り飛んだ方がいいじゃない?」という感覚的な話ですよね。いつ頃からそういう感覚を身につけたのでしょうか?
唐澤:
確かに、自分はいつ飛んだんでしょう?(笑)大学でも、同じ学部に同じサークルの仲間が5人いて、皆同じゼミに入ると言うので、僕だけ違うゼミに入ったこともあります。似た人と接するより、普段接しない人と交流するほうが、学べるものは大きいのではと考えていました。
大学時代には、よく分からないまま仲間とベンチャーを立ち上げてみたら、意外とできてしまったこともあります。「とにかくやってみよう」という自分の性格は、この頃に強化されたと感じています。
石倉:
失敗は怖くありませんでしたか? 1回失敗してトラウマみたいになってしまう人もいますよね。
唐澤:
いや、失敗しまくっていますよ(笑)。むしろ失敗したことが良かったと思っています。このままじゃ駄目だと思うと、必死に何か学ぼうと思いますよね。また別のチャレンジをする機会があったときにその学びを活かして……失敗したから終わりではなく、次の成功のために良い経験をさせてもらった感覚です。
石倉:
そう思えるようになるためには、「自分は大丈夫」というベースがないと難しいように思います。何とか自分はやっていける、何とかなる、という基盤のようなものを得るきっかけはあったのでしょうか?
唐澤:
何とかなるというより、何とか「する」という感じが近いかもしれません。 強烈に何とか「する」と思ったのが、就職のときでした。当時のマクドナルドは業績不振だったこともあり、周りのみんなに「何でマクドナルドなんか行くの?」と言われたんですね。それを見返してやりたくて、「行って良かった」ということにしなければならない。そのためには、みんなより早く成長して、分かりやすい結果を出さなければならないと考えました。
もちろん全部上手くいったわけではなく、失敗のほうが多かったように思います。 でも「成功するまでやり続ければ、失敗にはならない」というポリシーを持っているので、その瞬間は失敗だとしても、後で復活して最終的には良かったと言える結果を出せばいいのです。だから失敗して焦っても、そんなに凹みません。会社が潰れるのは困るけど、たいていのことでは会社は潰れないし、命の危険もない、何とかできるなって(笑)。
石倉:
グローバル人材についてお聞きします。マクドナルドは外資企業、メルカリは日本企業ですが、欧米にも展開していますよね。英語は昔から得意だったんですか?
唐澤:
地元に米軍キャンプがあったので、日本以外の全然違う世界があるという感覚は子どもの頃から持っていました。でも、むしろ英語は嫌いで、ずっと避けてきました。グローバル人材になろうなんて、就職のときは思ってもいませんでした。大学卒業時はTOEIC430点でしたから(笑)。
就活時は日本的なカルチャーだったマクドナルドが、実は僕が就職を決めた後に外資企業になっていました。採用時のマーケティングのトップは日本人だったのに、1年後に就職したら外国人の女性に変わっていたのです。それが後に社長となるサラ・カサノバです。
その頃から、英語を含め、グローバルな環境で仕事をするということがどういうことなのか、という感覚を徐々に実感していきました。 入社後から英語の勉強を始めましたが、それでも日本語ができる人が周りにいたので、最初は日本語で仕事をしていました。あるとき、直属の上司が韓国系アメリカ人になったことがありました。その上司は日本語も少し話せたので日本語で仕事をすることもできたのですが、僕から英語でコミュニケーションを取ってほしいと彼にお願いしました。最初は1on1でも英語で会話が成り立たないと思い、自分の考えを全部紙に書いて持って行き、「Please read」というところからスタートしたんです。
石倉:
英語が嫌いで避けていた人が、たまたま入社した企業が外資系になって外国人の上司になった、というのは面白いケースですね。
英語でやって欲しいと自らお願いをして、自分の考えを全て書き出して「Please read」とは、なかなかそういう行動には普通出ませんよね。自分に足りないものを客観的に分析して、それを補うために行動に移すことが、これまで以上に求められていくと思います。
唐澤:
最初はマクドナルドに入らなければ、英語もやらなくて済んだのにと思いました(笑)。でも、自分でマクドナルドに入ると決めたからには、やるしかない。英語ができなければ仕事として成り立たなくなるのであれば、危機感を持って努力するしかないですから。
能力があっても語学力が弱いだけで、プロとして世界で戦えない。海外出張の機会でそれを痛感し、さらに英語を使う環境に極力身を置いて、勉強するようになりました。やはりビジネスで使いながら学ぶのが一番身につきますね。
みんなと同じは安心ではない インデックス
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1章 「人生を3倍速で生きる」——マクドナルドで培った「逆張り」のキャリア
2019年03月19日 (火)
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2章 何もないところから自分のやることを決める
2019年03月19日 (火)
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3章 ファシリテーション型リーダーシップが必要とされる時代
2019年03月19日 (火)
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