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更新日 : 2025年02月25日 (火)

【3章】AI時代に求められる「学際的なスキル」



開催日:2024年6月20日 (木) 19:00~20:30 イベント詳細
スピーカー:後藤宗明 (一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事
SkyHive Technologies 日本代表)
田中若菜 (LinkedIn 日本代表)
柳川範之 (東京大学 大学院経済学研究科・経済学部教授)

AI時代に求められる「学際的なスキル」の重要性
柳川::ここからは3人でお話しを進めます。ここまで、後藤さん(第1章)、田中さん(第2章)から色々なお話がでてきました。まず国や企業側のお話で、政策や人事・採用のあり方はもちろん変わっていかなければいけないところだと思います。ただ、この場にいる方は経営者や人事部門の方々がメインではないので、より「個人」の立場に立ったお話しをできればと思っています。いくつかポイントを絞って、お二人にもう少し詳しくお話をいただきたいと思います。

一つめは、今求められているスキルは「哲学」や「心理学」という点です。今の時代はIT・デジタル系が求められる、と言われがちですが、AI技術を開発するような人は別として、多くの方々のリスキリングの大事なポイントは、もう少し社会科学的、人分科学的な学習になるのではないかと私も思っています。私たちの強みは「人間」であることなので、人間ならではの高いスキルは何か、これは非常に重要なポイントだと思います

そして、二つ目は「自律的に学ぶ」ことの重要さです。一般的なリスキリングのイメージは、まずリスキリングをしてスキルを高め、そこから次のキャリア、転職や会社の中でのキャリアアップなどを考えるというプロセスだと思います。しかし、お二人は順番が逆で、まずキャリアが動き、その結果として、ご自身の能力、スキルを高めておられることがすごく印象的でした。どちらががいい悪いということではないですが、やはりまず踏み出すことが重要で、新しいキャリアに踏み出した中での学びはかなり大きいことなのではと感じます。そのあたりの補足もいただきたいと思います。

三つ目は「スキル」について。少なくとも日本人からすると、あまり使いこまれてない、よくわかってない言葉なのではないでしょうか。田中さんのお話しで、LinkedIn上では、自分のスキルを登録して、会社側にも仕事に必要なスキルが提示されている、とおっしゃっていましたが、実際にはそのように綺麗に整備されている会社はほとんどないと思います。会社側も整理しなければいけないですが、個人レベルでは、どのように自分のスキルの棚卸し、スキルを定義していけばよいのか、詳しくお聞かせいただければと思います。

四つ目は、おそらくこれが一番難しいことだと思っていますが会社の方針と、個人の方向性のギャップが産むズレ、モヤモヤ感です。例えば「今度うちの会社はフランスで新しい医療分野に進出する。だから、フランス語を勉強してほしい、ヨーロッパの医療分野の専門知識を身につけてほしい」と会社から言われて、リスキリングのメニューを提供されたら、そんなに困らないと思います。しかし、現実の会社はそんなふうに明確に方向性を示してくれないことが多いので、学びや努力が会社の方針にうまく合っているのかがわからない。どう出世していくかもわからない。そういうズレ、モヤモヤ感が多い気が僕はしています。そこを悩んでいる人に、個人としてはどうしたらいいのかアドバイスを伺いたいと思います。全部でなくても、お答えやすいところから、田中さんからお願いできますでしょうか。

田中:はい。私からは、スキルの棚卸についてお答えします。LinkedInのプロフィールページを作るときに、スキルを入力する箇所があります。ここでAIが、あなたの経歴でこういうプロジェクトをやっているからこういうスキルを持っているのでは?とサジェストしてくれます。そこから項目をクリックしていくだけでスキルリストができます。これは、はじめの一歩としておすすめです。さらに、スキルを登録すると、それに基づいて次はこれを学んではどうですか?というラーニングコースや、この本を読んだら?このYouTubeを見たら?とAIが候補を出してくるので、そこから学びを深めていくこともリスキリングの一つです。学びを進めると、LinkedIn上でラーニングの履歴がどんどん見える化されていきます。

柳川:一つ質問です。「プロジェクトリーダー」を経験しました、という具体的な経歴があればわかりやすいですが、多くの方の業務や役割はふわっとしていて、何をやっていたか具体的に言えないけれど色々とやっていました、といったことが結構多いと思うのですが。そういった場合はどうなりますか?

田中:そうですね、「◯◯課の課長」というポジションにいた場合、どういう内容のプロジェクトかを書いていただくとスキルの候補は出てくると思うのですが、「課長」だけだとサジェストは出にくいかもしれないです。

柳川:多くの人は履歴書で、〇〇課の課長、係長と肩書を書きますが、その中でも、具体的に何をやってきたかを書くべきだということですね。

田中:はい。ただ「部署名」からもサジェストは出てくると思います。日本の方も400万人登録されていらっしゃるので、その情報に紐づいてプロジェクトマネージャーでも、エンゲージメントスキルや交渉スキルなど、紐づくソフトスキルがいっぱいありますよね。

柳川:自分にはこういうスキルがあると、自己認識することが必要なんですね。

田中:日本では、何となく昇進して、何が昇進のポイントになっているかわからないという方も多いですが、LinkedInのスキルのデータから見ると、平社員から課長、部長になるまでのスキルの積み上げが洗い出せます。このスキルがあるとより出世しやすい、と見える化することによって、モチベーションアップにつながりますよね。目標をもって学ぶということはとても大事だと思います。

柳川:目標を決めると、そのために必要なことが見える化してくるということですね。次に後藤さんからもお話しいただきます。

後藤:はい。僕からは「心理学」や「哲学」を学ぶことがすごく重要になっていることについてお話しします。僕は今「学際的スキル」というものを提唱しています。学びの際(きわ)と書いて「学際」です。これは、人分科学、自然科学、社会科学の際を乗り越えていった中で、固定観念にとらわれない新しい価値創造をすること、それがこれからの人間に必要になるということです。

これまで講演会などで「AI時代に必要とされるスキルとは何か?」というご質問をよく頂戴してきました。それに対して、冗談混じりですが、人類の働き方はこれから3種類になります、とお答えしていました。

①「AIを作る人」開発者、スーパーエンジニアですね。
②「AIを使う人」これは、AIをツールとして使うという意味ではなくて、AIを使うか、人間を使うかという意思決定ができる人。つまり経営者、上級管理職です。
③「AIに使われる人」AIが作り出した正解に従って仕事を行う、例えば、ラストワンマイルを顧客に届ける仕事などです。

この先、多くの方々はこの三つ目に入るのではないかと思います。以前、四つ目がある、とおっしゃった方がいて、それは「テクノロジーと関わらないという選択をし、ベーシックインカム等で生活していく」ということでした(笑)。でも、以前は極端な冗談として話していたのですが、笑えなくなってきた状況ですよね。

ここで大事なことは、AIが浸透していった世の中で、自分がどういった仕事をしたいのかが大事だということです。この先AIがどれぐらい生活や仕事の中で影響力を持つかまだ未知数な部分がありますが、現時点でAIが得意なこと=「正解を出すこと」「特定のタスクを深掘りすること」は、言ってみれば人間がこの先もうやるべきではないことです。AI時代に人間に必要とされるスキルは、「AIの正解を見抜けるレベルの高い専門性を持つこと」と「課題を発見する力」です。「課題を設定する力」を身につけていくために、アカデミックな世界ではリベラルアーツが非常に重要だという話が再燃し、そのときに「学際的な学び」に注目が集まってきています。「学際的スキル」は、「複雑な問題を解決して新たな洞察を見出してイノベーションを起こすために、二つ以上の異なる分野の知識を統合し、保有するスキル」です。複数の分野を掛け持ちをして、そこから未解決の課題を解決していく、それこそが人間の仕事になるということで、これから重要なスキルかなと思います。

柳川:これはリスキリングとして必ずしも強く支援・サポートされなくても、やはり自分から身につけていった方がいいスキルですよね。

後藤:そうですね。リスキリングの環境を用意してもらうために会社と交渉は必要です。ただ、なかなか支援してくれない場合には、会社と一緒に沈んでしまってはいけないので、やはり個人で努力をして、次に進んでいく努力をしなければいけない、といつもお伝えしています。

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