記事・レポート
頑張れ、本屋さん! ~最近、街の書店が消えている
本屋さんは一番身近な文化の発信地
更新日 : 2019年10月10日
(木)
第5回 街の本屋さんにとって〈本〉とは何か
人は「おもしろい本」を求める
澁川雅俊:書店の減少には様々な要因があり、それらが複雑に絡み合うことで現在の閉塞状況が生まれています。とりわけ「旧態依然」は最たる一因であり、まさにいま、書店にもイノベーションが求められています。この用語は、斬新な発想の下で社会的に意義のある新たな価値を創り出し、世の中に大きな変化をもたらすことを意味しています。平たくいえば、ものごとの新結合、ものごとを進める新機軸、新しい切り口、新しい捉え方、ものごとの新しい活用法を考え出すこと。街の本屋さんもその重要性に気づき、様々な工夫を始めていますが、頑固な閉塞状況の出口はいまだ見えていません。
『書店人のはんせい~本はエンターテインメント』〔人見廣史/新評論〕の著者は、44年にわたる書店人としての半生を振り返り、自らの仕事ぶりについてこう反省しています。一つは、一途に本しか見てこなかったために、本がどう作られるのかをつぶさに見てこなかったこと。もう一つは、人びとの読書を支える書店員として、「本とは何か」、すなわち「人はなぜ本を読むのか」について深く考えてこなかったことである、と。
そして、著者がたどり着いたのが、副題にある「本はエンターテインメント」。勉強、義務といった苦痛な読書は不毛であり、それは本来楽しいものである。だから、本はおもしろいものでなければならない。街の本屋はそういう本を探し出し、人びとに届けなければならない、と。
「おもしろい」ということばには、人の様々な心的状況を表す意味が含まれています。例えば、滑稽でつい笑いたくなってしまう。珍しい、一風変わっていると感じる。心が晴れ晴れする。そうした印象を与えてくれる本が「おもしろい本」でしょう。興味深いと思った時も、人はおもしろさを感じます。内容に心を惹かれた、読後に自分が〈わけしり〉になったと感じられたら、その本はおもしろい本です。書かれていることに対して、粋だ、風流だなどと感じた時も、人はその本をおもしろいと思うことがあります。
書店は何のため、誰のためにあるのか?
澁川雅俊:私たちが一冊の本と出合うまでには、本を作り、届けてくれる人、本との出合いをサポートしてくれる人びとがいます。彼らはどのような想いを抱きながら、日々の仕事に取り組んでいるのでしょうか。『本を贈る』〔三輪舎〕は、編集者、装丁家、校正者、出版営業、印刷会社員、製本会社員、出版取次店員、書店員など、〈Living With Books〉パーソンたちの本への想いを綴ったアンソロジーです。編集者は「本は読者のもの」と考え、校正者は「縁の下」であることに誇りを持っています。印刷会社員は本を「心刷」し、書店員は「本は読者からの贈りもの」と捉え、自らの仕事に感謝しています。彼らの想いは様々ですが、誰もが心から本を愛し、おもしろい本を届けたいと願っていることが窺えます。
本書に登場するBOOKTRUCKは、商用バンに数百冊の本を積み、公園や駅前、遊園地、福祉施設、はたまた飲み屋街など、人が集う場所に出かけて行く移動式書店です。かつての書店は客待ち商売でしたが、「本を届ける」という最上位目的から考えれば、手段はもっと自由でいいはず。時には店舗を飛び出し、様々な仕掛けを施しながら顧客を広げていくことも必要でしょう。ビジネスの面では苦労が伴うかもしれませんが、それが持続可能な街の本屋さんへの一歩となります。
今回のテーマに関連する本として、最後に『あるかしら書店』〔ヨシタケシンスケ/ポプラ社〕を取り上げます。「あったらいいな」と思う本が必ず(?)見つかるという不思議な本屋さんを描いた絵本で、その本屋さんには本を読む人や本のことを熟知する店主がいます。冒頭に出てくる書棚には『「作家の木」の育て方』『2人で読む本』『本の降る村』など奇想天外なタイトルの本が並び、思わず手を伸ばしてみたくなるようなドキドキ感、ワクワク感があります。
ある日、その一風変わった書店に「本屋さんについて書いてある本」を求めるお客さんがやってきます。この要望に対して店主が勧めたのは『本屋さんってどんなところ?』という本。そこには「やっぱり、本屋さんっていいよね」と思わせてくれるような言葉が並んでいます。ぜひ、街の本屋さんを訪れて、自分の目でその答えを確かめてみてください。
頑張れ、本屋さん! ~最近、街の書店が消えている インデックス
-
第1回 書店をめぐるビジネス環境の変化
2019年10月10日 (木)
-
第2回 書店の未来に〈夢〉はあるのか
2019年10月10日 (木)
-
第3回 〈リアル〉の本屋さんも頑張っている
2019年10月10日 (木)
-
第4回 多様性の時代に生まれる個性派本屋さん
2019年10月10日 (木)
-
第5回 街の本屋さんにとって〈本〉とは何か
2019年10月10日 (木)
注目の記事
-
11月20日 (水) 更新
aiaiのなんか気になる社会のこと
「aiaiのなんか気になる社会のこと」は、「社会課題」よりもっと手前の「ちょっと気になる社会のこと」に目を向けながら、一市民としての視点や選....
-
10月22日 (火) 更新
本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年10月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介しま....
-
10月22日 (火) 更新
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
メタバースだからこそ得られる創造的な学びとは?N高、S高を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャ....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 12月17日 (火) 19:00~20:30
note × academyhills
メディアプラットフォームnoteとのコラボイベント第1回。近著『きみのお金は誰のため』が25万部超のベストセラーとなっている、社会的金融教育....
「そもそもお金って何?未来をつくるためのお金の教養」
-
開催日 : 11月28日 (木) 19:00~20:30
World Report 第10回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから見えてくることを参加者の皆....
「ハリス V.S. トランプ 米国大統領選挙結果を読み解く」