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頑張れ、本屋さん! ~最近、街の書店が消えている

本屋さんは一番身近な文化の発信地

更新日 : 2019年10月10日 (木)

第2回 書店の未来に〈夢〉はあるのか

将来の夢は本屋さん?
澁川雅俊:現在は全国の自治体でブックスタートなどがさかんに行われており、産まれて間もない時期から本にふれる機会があります。やがて成長とともに、子どもたちは自分の好きな本を見つけ、そこから夢や希望を膨らませていきます。

例えば、子どもの頃に『ぐりとぐら』〔福音館書店〕を読んだという人は多いでしょう。1967年に初版が発売され、シリーズ累計発行部数は2,600万部を突破しています。作家・中川李枝子は、妹の画家・山脇百合子とこの絵本を作り続けてきましたが、二人によるエッセイ『本・子ども・絵本』〔大和書房〕では、絵本を含む数多の本は子どもたちの夢や希望を育む重要なアイテムである、と語られています。


夢といえば、大人は子どもたちに「大人になったら何になりたい?」と、将来の夢についてたずねることがあります。そこで、こんなことを調べてみました。一つは、日本FP協会「小学生の将来なりたい職業ランキングトップ10」。その中に「本屋さん」という夢は見当たりません。小学校高学年~中学生向けのガイドブック『決定版 夢をそだてるみんなの仕事300』〔講談社〕では、書店の仕事も解説されていますが、作家や編集者、漫画家などに比べるとその内容は粗略です。


近年は「街の小さな本屋さん」の閉店が際立っていますが、その理由は出版不況とともに後継者不足にあるともいわれています。書店はいわば、子どもたちに夢や希望を届ける仕事でもありますが、残念ながら将来なりたい職業にはなり得ていないようです。

物語に描かれる街の本屋さん
澁川雅俊:とはいえ、少し視点をずらせば、全く違う状況が見えてきます。実はいま、小説やライトノベル、漫画などの舞台として「街の本屋さん」が登場するケースが少なくないのです。物語の世界とはいえ、書店に夢を託す人たちは確実にいるようです。

2018年に刊行されたものでは、『ぎりぎりの本屋さん』〔まはら三桃ほか/講談社〕、『神さまのいる書店』〔三萩せんや/KADOKAWA〕、『とある書店員の恋物語』〔たき猫背/KADOKAWA〕、『星をつなぐ手 桜風堂ものがたり』〔村山早紀/PHP研究所〕、『パティスリー幸福堂書店はじめました』〔秦本幸弥/双葉社〕、『すずらん通り ベルサイユ書房 リターンズ!』〔七尾与史/光文社〕、『笑う書店員の多忙な日々』〔石黒敦久/KADOKAWA〕、『金曜日の本屋さん』〔名取佐和子/角川春樹事務所〕などがあります。

5人の児童文学作家によるリレー小説『ぎりぎりの本屋さん』は、商店街の路地奥にある、いまにも潰れそうな古い書店が舞台。書棚はもちろん、床やテーブルまで本で埋め尽くされたその書店に〈わけあり〉の小学生たちが引き寄せられ、不思議な物語が始まります。一応、店主はいるものの、なにやら座敷わらしのような〈あやし〉たちが本探しを手伝ってくれるようです。



『パティスリー幸福堂書店はじめました』は、祖父の代から続く小さな本屋を受け継いだ孫娘の奮闘記です。赤字続きで閉店の危機が迫る中、彼女はおいしい洋菓子と珈琲を出すカフェの併設に活路を見いだします。様々な本と洋菓子の知識を組み合わせ、お客さんの悩みを解決していきますが、はたして小さな書店に幸福は訪れるのでしょうか?

『笑う書店員の多忙な日々』は、アルバイト書店員として文庫・文芸本を担当し、日々膨大な仕事に追われる女の子が主人公です。彼女はある日、出版社から持ち込まれた新人作家のデビュー作のゲラを読んで衝撃を受け、全店フェアを提案します。周囲からは猛反発を受けますが、彼女はめげるどころか、こう言い放ちます。「私が売りたいと思ったんですよ。売れてほしいと思った。それじゃいけないんですか!」。


なお、これらの物語の主人公はいずれも女性ですが、女性書店員の物語で最も成功したのが『書店ガール』〔碧野圭/PHP研究所〕でしょう。独身アラフォーのベテラン、奔放な20代の部下という二人の女性書店員が、反目しつつも本と書店の力を信じ、様々なトラブルに立ち向かうさまは、街の本屋さんの現実を見事に映し出しています。同作品は第7巻まで出されており、累計発行部数50万部を超えるほどの人気を得ています。


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