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特別対談「思いやりと安心感で限界を超えさせる~最高のリーダーの条件」

『セキュアベース・リーダーシップ』出版記念セミナー

更新日 : 2019年09月17日 (火)

4章 挑戦を促すにはどうすればいいのか?!



参加者:教員として30〜40人の生徒を相手にしていますが、どうしても合わない生徒が出てきます。どう接していけばいいか、考え方をお伺いしたい。

曽山:生理的に合う、合わないは絶対にあります。その時に僕が意識しているのは「意図的に相手に興味を持つこと」です。この考え方は決意として持っています。好きか嫌いかはともかく、その人が成果を挙げてくれれば、その人はハッピー、会社もハッピー、会社がハッピーなら僕もハッピー。ハッピーの総量を最大にするには、その人に力を出し切ってもらったほうがいい。ですから、僕はその人の強みを探し出し、強みに合った職務を提供したり、対話をしたりします。そう決めてからすごく楽になりました。
 
自分の意思が決まっていないと好き嫌いが先に出ます。ですから、マネージャーにも「人間だから好き嫌いはある。それはいい。ただ、力を発揮させる方法を見つけてくれ。悩むぐらいだったら、とにかく強みを見つけろ」とお願いしています。それに、いいところを見つけてずっと褒めていると、「こいつ、いいヤツかも」と思えてくる(笑)。

高津:曽山さんの答え以上の答えはないと思います。相手に興味を持つ。僕は「好奇心」という言葉を使いますが、変化の激しいクローバルでデジタルな時代に、リーダーとして何が一番大事かと聞かれたら、「好奇心だ」と答えます。お客様、マーケット、仲間など、あらゆる事象に好奇心を持つことが非常に大事です。


参加者:サイバーエージェントさんは、挑戦をした敗者にはセカンドチャンスを与えるということですが、挑戦を促すにはどうすればいいですか。

曽山:「すべての企業風土は事例によって作られる」というのが僕の考え方です。まず、事例を増やすこと。事例がなければ誰も信じない。人事部長になった時、社員にミッションステートメントがどれだけ浸透しているかをチェックしてみました。「挑戦した敗者にセカンドチャンスを」だけが異常に低かった。8割が「セカンドチャンスはない」と感じていたのです。社員に理由を聞きたら「だって事例がないじゃないですか」と。

セカンドチャンスの事例を増やすには、成功事例を増やすことです。成功事例の陰には大量の失敗事例がある。失敗した人と面談を重ねて辞めないようにする。会社に定着させ、次に成功したら社内報で皆に知らせる。時間はかかりますが、これで事例ができます。

サイバーエージェントでは失敗損失金額自慢飲み会さえあります。僕自身が1億円の損失を出しましたが、「僕、2億です」「私なんか会社を2つ潰して10億」、「それ、チョーやばいな」って会話が普通に出るようになりました。ここまでいくと、1年目の社員も「(この会社なら)新規事業ができる」と言ってくれると思います。事例が増えるまで、1年、2年、頑張って耐えて挑戦できる風土をつくることです。

高津:サイバーエージェントさんはすごいなと思いました。例えば、曽山さんが1億円の損失を出して1週間の休暇をとったとき、藤田社長は「ゆっくり休んでいらっしゃい」とだけ言った。ここが卓越している。失敗した悲しみをどうやって受け止め、消化して次に進んでいくのか、そのプロセスがとても大事です。心理学の世界では「グリーフマネジメント」(悲しみのマネジメント)と呼びます。

例えば、契約を取ろうと1年半も必死で努力してきた大型案件を、他社に取られてしまった。がっくりして戻ってきた人に「明日があるさ。頑張ろうぜ」と、ポンと肩を叩いたぐらいでは悲しみを消化できないんです。とてつもない悲しみが自分の中にあることに気が付いて、それに向き合うためには、人と対話したり、休みをとったり、違うことをすることが必要です。悲しみを受け止めて消化するプロセスをきちっとやらないと、新しい目標や絆ができない。組織の中での悲しみは、無視したり、蓋をしたりするのではなく、受け止めた上でていねいに消化しなくてはいけません。

曽山:グリーフ(悲しみ)とは違いますが、仕事をしているとカチンとくることがあるじゃないですか。そういう時はどうするのか、藤田に聞いたことがあります。そうしたら「あーっ、オレ、めっちゃムカついてる。以上!」って言うんだそうです。「以上!」と言うことで、いったん感情を断ち切る。そういうふうに言語化して整理しないと、感情を引きずってしまうんですね。僕も真似をしています。

高津:いいですね。人間だから、当然感情はある。怒っていないふうに装うことは不健康です。でも、感情のままに振る舞うのは、社会的にも、怒りを助長させるという意味でも良くない。自分が怒っていることを自覚して、怒っている自分を観察することはセキュアベース・リーダーになっていくうえでとても大事です。

石山:本の中で印象に残っているのは、「リーダーは、常に一挙手一投足を見られていることを自覚すべきであり、なおかつ、自分の影響力を知るべきだ」という部分です。セルフコントロールできるかどうかが重要ですね。

高津:それに関連して、IMDで15人ほどの世界各国の経営幹部と演習をしたことがあります。2人に席を外してもらい、3分ほど経ったら戻ってもらいます。インストラクターが残された13人に「この2人は経営会議に出席したばかりである。2人に何があったか当ててみなさい」と尋ねます。

例えば、曽山さんと僕が戻って来て座ると、「高津さんは失敗したに違いない。クビになったんじゃないか」とか、「曽山さんは昇進したんじゃないか」とか、皆、勝手なことを言う。ところが、外に出た2人は「普段の顔で戻り、座ってください」と指示されているんです。2人とも普段の顔をしているつもりなのに、1人は失敗したと思われ、1人は昇進したと思われる。この演習を通じて、自分の表情が知らないうちに何をコミュニケートしているのか、自覚することができます。「いつでも話に来ていいよ」と言っても、常にしかめっ面だったり、悲惨な顔をしていたりしたら誰も話に来ないんです。



参加者:曽山さんに質問です。振り返って個の話をされていたか、組織マネジメントの話をされていたか、どちらの感覚が強いですか。

曽山:組織といえども人間と人間の話です。1対1の人間関係があり、その掛け算がチームです。よく組織開発とか、チームビルディングとか言いますが、「その前に1対1でしょ」と常に言っています。僕自身も、50人の部下をしっかり見ているか、薄いところがないか、常に自分に問うています。


参加者:12000人ほどの会社ですが、こうしたセミナーに参加したり、この本を手に取ってくれたりするマネージャーがものすごく少ないです。どうすれば関心を高められるのでしょうか。

曽山:ウチの会社でも、僕が研修をやろうとすると嫌がりますよ。研修なんか成果に直結しない、と。それが現実です。ですから、僕はまず先に「今、何を困っているか」を聞きます。アンケートをとると、対人関係とか、チームの仲が悪いとか、たくさん出てくる。その中で一番みんなが困っている内容の研修や勉強会をすると、ブワーッと集まります。困っていることを解決するというスタンスを見せ、研修の最後にホットな本を紹介して「これ、めっちゃいいことが書いてあるからお勧めだよ」と着地します。

高津:セキュアベース・リーダーシップの話は、自分自身のセキュアベースを振り返ることなしに人とは共有できないと思っています。そういう意味で、この本はすごく良くできていて、いろいろな問いかけがされています。例えば「あなたの可能性を信じてくれた人は誰ですか」というように。自分自身を振り返って答えていくと理解が深まります。ですから、自分で気が付いた人がそういった対話を周りに行ない、それが広がっていくといいなと思います。もっと仕組みとして取り組みたい場合は、ぜひIMDの研修にお越しください(笑)。

冒頭で、私のストーリーを開示しましたが、お互いのストーリーを開示したり、直面する課題を共有したりすることで「この人には、こういう話をしてもいいんだ」という関係ができ上がる。そうすると、とてつもない安心感が生まれる。安心感があるからこそ挑戦できるということがわかるようになるはずです。

今のリーダーシップの世界では、「弱みを見せることが大事だ」という議論がされています。弱みを見せることは怖いことです。弱みを見せたからこそ手応えがあったという経験をどこかでしないと、いきなりはできません。どれだけの人がそういう経験をしていくか。それが、これからの日本の経済社会がより人間的なものになっていくための試金石ではないかと思います。




セキュアベース・リーダーシップ—“思いやり”と“挑戦”で限界を超えさせる

ジョージ・コーリーザー スーザン・ゴールズワージー
プレジデント社

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