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特別対談「思いやりと安心感で限界を超えさせる~最高のリーダーの条件」

『セキュアベース・リーダーシップ』出版記念セミナー

更新日 : 2019年09月17日 (火)

2章 「挑戦」と「安心」、両方を実現する仕組み


曽山哲人((株)サイバーエージェント取締役)


曽山 哲人私はサイバーエージェントで人事責任者をしています2018年10月、フェイスブックで「『セキュアベース・リーダーシップ』がすごくおもしろかった」と発信したことがきっかけで、この場におります。

まず、私がどんなことをしてきたのか、簡単にご紹介します。高校時代はストリートダンスに夢中になり、「ダンス甲子園」で全国3位になりました。大学ではラクロス部に入り、チームスポーツの難しさを学びました。卒論は、マーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の有名なスピーチ「I have a dream」を取り上げて分析しました。これは今でも仕事に活かされています。

キング牧師のスピーチのすごいところは「ビジュアライズ」です。あるスピーチでは「白人の男の子とネイティブアメリカンの男の子が、手を繋いで遊んでいる。そんな景色を作りたい」と語りかけました。そう言われるとイメージができます。すると記憶に残り、メッセージが伝わります。ビジュアライズの力をキング牧師から学びました。

大学卒業後は百貨店の伊勢丹に入社。たまたまeコマースをやったら服がとても売れたので「ネットはおもしろい!」と思い、1999年に雑誌で見つけたサイバーエージェントに転職しました。

退職率30%という時代を経て
当時、サイバーエージェントの社員は20名でした。現在は5000名。フリーランスのエンジニアやクリエーターを含めると約1万名になります。20年で500倍に成長したわけです。「メガベンチャー」と言われることもあるのですが、特徴は5000人の大きなピラミッドではなく、100社ほどのベンチャー企業の集合体であることです。

サイバーエージェントはこれまで何度も波を乗り越えてきました。2000年に上場しましたが、当初は退職率が高く、30%台が3年続いた時もあります。退職率30%というと、3年で全社員が入れ替わってしまうほどの状況です。ですから、社員の仲が悪く、新しいことに挑戦しても失敗していました。

ある社員は「将来が不安だから辞めます」と言い、ある社員は「新規事業をやりたいのに、そんな環境がないじゃないですか」と言って辞めていきました。人事部長としてどちらをとるか悩みました。片方をとれば片方が辞める。すごく悩んだ結果、両方をとることにしました。

「挑戦も安心も両方やる」という選択
僕らがバイブルにしている『ビジョナリーカンパニー』という本に、「ANDの才能とORの抑圧」という章があります。そこには「AとZに矛盾があった時、ダメなリーダー、ダメな会社はAかZのどちらか(OR)を選ぶ。しかし、伸びる会社はAとZの両方をやる方法はないか考える」と書かれています。これが「AND思考」です。

そこで僕は「挑戦する環境と安心できる環境をセットで作る」を人事制度のポリシーにしました。これは社員にも評判が良く、両方についての意見が出てくるようになり、結果的にバランスがとれてきました。

現在の人事制度のマッピングは、挑戦する人事制度と安心の人事制度の両方があることを示しています。横軸の右が挑戦、左が安心。縦軸は報酬で、上が感情報酬、下が金銭報酬です。金銭報酬以上に重要なのが感情報酬です。「楽しい」「わくわくする」「やりがいがある」といった感情報酬がプラスになると、社員の挑戦意欲や安心感が高まります。

社員に要望を聞くと、基本的に安心のリクエストが多くなりがちです。社員はまず安心を求め、安心の制度があれば頑張れる。ですから、安心の制度を整えつつも、挑戦の制度をきちんと整えることが非常に大事です。

挑戦した敗者にはセカンドチャンスを
私たちは「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに掲げており、それに紐づいたミッションステートメントがあります。その1つが「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」です。2003年に明文化しました。退職率30%が3年続いた後のことです。セカンドチャンスを与えた事例を増やそうと頑張った結果、事例が増え、チャレンジする人も増えました。

挑戦する企業風土を作るための具体的な仕掛けをご紹介します。仕掛けを作る前にいろいろやってみて、「提案できる習慣」「経営と社員が一緒に考える場」「撤退ルールの明文化」「よければ投資を増やす」という4つのステップを意識すると社員のチャレンジが増えることがわかりました。

まず大事なのは「提案数」です。これが多くなくては何も始まりません。2つ目が「実行数」。提案が決議され、どのくらい新規事業や新プロジェクトに繋がったかが大事です。3つ目が「失敗数」。サイバーエージェントはすごい数のチャレンジをしていますが、あるタイミングで計測した際の新会社の5年後の生存率は50%。ですから失敗する数もちゃんと組み込んでいます。さらに大事なのは「セカンドチャンス」です。敗者復活して活躍している人材が何人いるか。これが少ないと、皆、チャレンジしなくなるし、多ければチャレンジャーが増えます。



経営陣と社員が一緒に挑戦する仕組み
社員のチャレンジを増やす仕掛けの1つが「あした会議」です。経営陣と一緒に新たなチャレンジを考えることで、社員の不安を取り除こうという取り組みです。「サイバーエージェントの明日を創ろう」という意味で「あした会議」と呼んでいます。

あした会議は基本的に1泊2日の合宿形式で行なわれ、役員をリーダーとする各チームが3分間で提案のプレゼンをします。チームは、役員が4人ほどの社員をチームメンバーとして、新規事業やコストダウン、人事制度などの提案を練ります。プレゼンの後、社長の藤田晋とプレゼンした役員が2分ほどやりとりした上で、20点満点で採点します。その結果は1位からビリまで役員名がランキングされ、社内外に晒されます。

「あした会議」のいいところは、採点後にブラッシュアップタイムがあることです。点数の低かったチームから順に、藤田が30分ずつ各チームを回って一緒に議論に加わり、提案をブラッシュアップしていきます。自然に共感が高まり、練り直しにも力が入ります。その結果、夜の再プレゼンでは点数が上がります。経営陣と一緒になって考えることで、社員に「チャレンジしていいんだ」ということを見せています。

社内ヘッドハンターが挑戦を支援
もう一つの仕組みが、社内ヘッドハンター「キャリアエージェント」です。チャレンジを促し、失敗者をサポートし、活躍している人をさらに生かすため、全社員に毎月1回5分、「あなたのやりたいことは?」「あなたのコンディションは?」と聞きます。「彼はフォローしたほうがいいね」となると内々に面談し、必要であれば役員に異動を提案します。このようにして、彼らの手で年間150人から200人を異動してもらっています。

毎月の聞き取りに使っているのが「GEPPO(月報)」というアンケートツールです。質問は3つだけ。回答は、雨から晴れまで5段階の天気マークに丸をつけてもらう形です。2013年から続けていますが、天気の推移で社員の様子がわかります。ミッションステートメントについて、例えば「あなたの部署にセカンドチャンスはありますか」といった質問をしたり、「あなたの目標は明確ですか」などの質問をします。これによって会社の状況がわかるのです。

「変化の習慣」「率先垂範」「敗者復活の事例」が鍵
挑戦が生まれる組織のポイントは、「変化の習慣」「経営の率先垂範」「敗者復活の事例」の3つです。いきなり会社が変化すると社員は抵抗します。人間だから当然です。変化はしょっちゅうやっていないとダメだと考えています。会社として「変化の習慣」を持っていると、社員も一緒に変化をしてくれます。2つ目は「率先垂範」。経営陣や幹部がチャレンジしていることを見せることで、社員は安心してチャレンジできます。3つ目の「敗者復活」では事例の多さが大切です。それが社員の安心を作り、チャレンジを促すのです。

私自身も過去に大失敗をしています。150名の営業部門の責任者の時、「言った、言わない」でトラブルになり1億円の損失を出してしまいました。当時、会社は赤字でしたから最悪です。失意のどん底に落ち、トラブルが収まった段階で5日間のリフレッシュ休暇をもらうことにしました。その時、社長の藤田が私信メールをくれました。「今回はお疲れ様でした。ゆっくり休んできてくださいね」。失敗には一言も触れず、「ゆっくり休め」とだけ言ってくれた藤田に、私はすごく感謝しました。だからこそ、藤田と、そしてサイバーエージェントの皆と、一緒に戦っていこうと考えています。まさにここに私のセキュアベースがあります。


セキュアベース・リーダーシップ—“思いやり”と“挑戦”で限界を超えさせる

ジョージ・コーリーザー スーザン・ゴールズワージー
プレジデント社

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