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音楽と物語と生きること

~<音楽と物語で世界をつなぐ>セミナーシリーズは、なぜ生まれたか~

更新日 : 2018年12月18日 (火)

<音楽と物語で世界をつなぐ>セミナーシリーズは、なぜ生まれたか【中編】

本当のロジカルシンキング
「砂漠が美しいのは」王子さまが言った。「どこかに井戸を、ひとつかくしているからだね・・・」

星の王子さま(新潮文庫) サン=テグジュペリ

不安で気忙しい時代においては今まで以上に、明確な基本方針に基づいた勝つためのストーリーである戦略と、戦略に基づく取捨選択と明確な優先順位が重要である。戦略の立案は思うほど簡単ではない。不透明な時代において数年後の市場環境でも使うことができるストーリーを描き、落とし穴を想定していくのである。そのために、企業は専門の人員を置き、外部のエキスパートと連携する。
ロジカルシンキングという言葉を聞いたことがあるだろうか?論理的な思考を突き詰めて、課題に対して対応策を示すための思考の方法である。経営コンサルティングの業界では習熟が必須であり、最近ではビジネス界でも一般用語になっている。本当の課題を特定し、物事を論理的に分解し、位置づけ、組み立てていけば、答えに辿り着くことができる。これがロジカルシンキングのベースの考えである。

残念ながらあまり一般的には語られないが、ロジカルシンキングは論理的ではない常識を排除するということにポイントがある。また、逆に常識では考えられないこともロジカルであれば検討の対象に加える、ということもあまり知られていない。つまり、ロジカルシンキングが本当に機能するためには、常識を一度は疑うというクリティカルシンキング(批判的に考える)が重要で、飛んだ発想で常識では考えられないけれど論理的にはありうることを想定することも大変なポイントなのだ。

思考の達人たちと話をしていると、極めて非連続的な面白いアイデアを論理的に提示していることに気づく。連続的なアイデアを論理的に提示することや、非連続的なアイデアを思いつき(根拠なし)で提示することは、ある程度の発想があればできる。しかし、非連続的なアイデアを論理的に提示するのは、かなりの論理性の上に、極めて貪欲な知識欲、そして、豊かな想像力や発想力、いわゆる「柔らかい脳」が必要である。

私の周りにいる「思考の達人」たちは、頻繁に世界中を飛び回り、真剣な趣味や副業を持つ楽しい人が多い。彼らはネットワークを日本だけではなく海外にも持ち、自身の得意分野以外の業界に視野を広げており、趣味も本格的かつ多彩である。海外や他業界の事例に通じていて、かつ論理的にその市場と対象市場の異なる点や共通点を明確にできれば、対象市場の常識を超えるためのヒントになる。また、本業以外の何かを真剣に実践していれば、その経験から常識を超える思考のタネを得ることもできよう。


 
 

コミュニティ
はじめは、ぼくからちょっとだけ離れて、こんなふうに、草のなかにすわるんだ。ぼくは横目でちらっときみを見るだけだし、きみもなにも言わない。ことばは誤解のもとだから。でも、日ごとにきみは、少しずつ近くにすわるようにして・・・・

星の王子さま(新潮文庫) サン=テグジュペリ

「使える」戦略ができても、それがどのように実行されるのかが肝心だ。勝つためにはやると決めたことを、早く正確に実現する必要があり、また、急な環境の変化などにも対応しなくてはならない。

それでは、どうすればいいのか。まさに急がば回れ、実行段階での生産性を高めるためには、くどいまでの目標の共有化と納得感の醸成と、メンバーがそれぞれ安心感を持てる環境づくりが必要である。メンバー各々が安心感と責任感をもってリスクをとった判断を下すことができれば、多少の変化には迅速かつ適切な対応が可能になる。また、メンバーが互いに意見しあう環境があれば、チームとして、非連続的なアイデアを論理的に提示する可能性も出てくる。本当の意味でのチーム環境、コミュニティをリーダーが整えることができれば、そのような動き方が可能となる。

従来であれば、就社ともいわれた終身雇用により、社員は一つの会社と命運を共にする前提をなしていたため、コミュニティは自然にできていたかもしれない。しかし、多少なりとも人材の流動化が進み、入退社する人材が増えれば価値観や経験を共通にしないメンバーが増えることは必然である。

しかし、人と人の間に信頼は一朝一夕には醸成しない。あなたは見も知らぬ他人のために、必要のない手間をかけようと思うだろうか。特段に愛着のない若手を本気で育てようと思うだろうか。全く自分とは違う人生を送ってきた人を信頼するためには、毎日、少しずつ間を詰める忍耐と、そのための投資が必要なのである。バラに水をやるように、動物を飼いならすように。そして、それは時間を経てようやく実るものである。

経験の中で、最も重要なのは当然ながら仕事を一緒にした経験だろう。私は、自分の意見を明確に表明し、人の話に真摯に耳を傾けて解釈しようと努め、共に仕事の質を上げる努力や衝突を恐れず、かつ、「罪を憎んで人を憎まず」という姿勢を持つ人とは何度でも一緒に仕事をしたい。
また、仕事の外の経験も時として大事だ。家族の話、将来の夢、今朝の占いの話、ハマっている趣味の話を共有するなど、生産性の高い仕事をするためには一見生産性のない会話も、仕事を進めるために有効な場合がある。

機械が人間を置き換えていく世界だからこそ、人間が機械のように無機質に働くのではなく、常識の先をいく論理性を備え、絆やつながりを重視したコミュニティを作る必要がある。またそのコミュニティづくりは人材の流動化がさらに早いスピードで進む中、より意識的に行わなくてはならない。
信頼や絆に結ばれたコミュニティは組織を超える、そして、収益性や時間をも超える。不思議なほど強いものである。