記事・レポート
業魂を繋ぐ~日本の老舗、名店
「商は信なり」を体現する老舗
更新日 : 2018年06月13日
(水)
第5章 老舗の老舗たる由縁を語る本
日々の暮らしを彩る老舗の技
澁川雅俊: 他にも日本には様々な業種の老舗があります。ここでは、食に関連する老舗、衣服・装身具業、その他の業種に分けて見ていきましょう。
前述の『新日本永代蔵』には、1337年創業のまるや八丁味噌をはじめ、醤油のキッコーマン、調味料や各種食品を扱うミツカン、鰹節で有名なにんべんなど、食に関する企業も取り上げられています。
前述の『新日本永代蔵』には、1337年創業のまるや八丁味噌をはじめ、醤油のキッコーマン、調味料や各種食品を扱うミツカン、鰹節で有名なにんべんなど、食に関する企業も取り上げられています。
現代の経営者が事業への想いや覚悟を語っている『今、企業がブランド力を上げる理由』〔関野吉記/日経BPコンサルティング〕の中で、1699年創業の日本橋の老舗・にんべんを率いる13代当主は、伝統の上に築かれた革新の歴史と、ブランドを高めるための新たな挑戦について語っています。
知られざる優れた創業者、中興の祖を紹介した『時代を超えた経営者たち』〔井奥成彦/日本経済評論社〕では、ヤマサ醤油七代目店主・濱口梧陵が紹介されています。家業への貢献はもとより、「稲むらの火」のエピソードに代表される地域貢献・社会貢献に尽力した姿が語られています。
京都・錦市場にある間口三間あまりの小さな店・有次は、料理に欠かせない包丁の老舗です。国内でのみ知られる老舗が多い中にあって、1560年創業のこの老舗は、世界中の料理人から注目を集める希有な店です。『Aritsugu~京都・有次の庖丁案内』〔藤田優/小学館〕、『有次と庖丁』〔江弘毅/新潮社〕の2編は、刀鍛冶として創業した同店の成り立ちから現在までを明らかにしています。とりわけ、鋼包丁だけしか製造しない頑固な老舗振りが、読み手の心に小気味よく訴えます。
副題に「経験価値を生む技術経営」とある『地場・伝統産業のプレミアムブランド戦略』〔長沢伸也/同友館〕には、1582年創業の伝統工芸「甲州印伝」を手掛ける印傳屋が紹介されています。印傳という名称は、南蛮貿易を通じて輸入されたインド産のなめし革に由来すると言われています。
この老舗は江戸初期以来、馬具、胴巻、武具や甲冑の部材など、鹿革の漆付け加工品を製造していましたが、近年は伝統技術と現代的な感性との融合を図り、独特のデザインと文様が特徴の札入れ・巾着・バッグ・ベルトなどを製造・販売しています。
『百貨店とは』〔飛田健彦/国書刊行会〕は、元・伊勢丹広報文書部長で、日本経営理念史研究所長を務める著者がまとめた1冊です。明治から平成まで、庶民の文化やファッションを牽引してきた百貨店の成長と発展の歴史が描かれており、松坂屋や三越など江戸期に端を発する老舗のエピソードも紹介されています。
知られざる優れた創業者、中興の祖を紹介した『時代を超えた経営者たち』〔井奥成彦/日本経済評論社〕では、ヤマサ醤油七代目店主・濱口梧陵が紹介されています。家業への貢献はもとより、「稲むらの火」のエピソードに代表される地域貢献・社会貢献に尽力した姿が語られています。
京都・錦市場にある間口三間あまりの小さな店・有次は、料理に欠かせない包丁の老舗です。国内でのみ知られる老舗が多い中にあって、1560年創業のこの老舗は、世界中の料理人から注目を集める希有な店です。『Aritsugu~京都・有次の庖丁案内』〔藤田優/小学館〕、『有次と庖丁』〔江弘毅/新潮社〕の2編は、刀鍛冶として創業した同店の成り立ちから現在までを明らかにしています。とりわけ、鋼包丁だけしか製造しない頑固な老舗振りが、読み手の心に小気味よく訴えます。
副題に「経験価値を生む技術経営」とある『地場・伝統産業のプレミアムブランド戦略』〔長沢伸也/同友館〕には、1582年創業の伝統工芸「甲州印伝」を手掛ける印傳屋が紹介されています。印傳という名称は、南蛮貿易を通じて輸入されたインド産のなめし革に由来すると言われています。
この老舗は江戸初期以来、馬具、胴巻、武具や甲冑の部材など、鹿革の漆付け加工品を製造していましたが、近年は伝統技術と現代的な感性との融合を図り、独特のデザインと文様が特徴の札入れ・巾着・バッグ・ベルトなどを製造・販売しています。
『百貨店とは』〔飛田健彦/国書刊行会〕は、元・伊勢丹広報文書部長で、日本経営理念史研究所長を務める著者がまとめた1冊です。明治から平成まで、庶民の文化やファッションを牽引してきた百貨店の成長と発展の歴史が描かれており、松坂屋や三越など江戸期に端を発する老舗のエピソードも紹介されています。
おわりに~まだある“業魂”本
澁川雅俊: 最後に、老舗の老舗たる由縁を語っている3点を挙げておきます。
「家族経営=老舗」とは言えないまでも、それが老舗の柱の1つになっていることは事実でしょう。『日本のファミリービジネス~その永続性を探る』〔ファミリービジネス学会編/中央経済社〕は、豊富な事例をもとに、家族経営企業が世界一多い日本型ビジネスの特性や、“業魂”継承の戦略を明らかにしています。
『老舗の訓(おしえ) 人づくり』〔鮫島敦/岩波書店〕は、その点をさらに掘り下げています。守る当主と、攻める当主。伝統を継承する覚悟と、革新を断行する勇気。先代と後継者のせめぎ合い。家訓や暖簾を受け継ぐためのノウハウ。人から人へ“業魂”を受け継いできた物語が、当事者の声をもとに紡がれています。
『なぜあの会社は100年も繁盛しているのか~老舗に学ぶ永続経営の極意20』〔前川洋一郎/PHP研究所〕では、次のような内容を通じて永続経営の秘訣を明らかにしています。
①ゴールなき駅伝のようなたすきリレー。経営者はたすきの繋ぎ役。
②理と情を乗り越えた家伝・社伝の受け渡し。
③伝統・信用・団結・共生のシンボル‘暖簾’を守り、受け継ぐ心意気。
④美しい木姿となるための絶え間ない剪定。
⑤不易流行~自発的な進化変身と価値創造の継続。
⑥番頭さんと女将さん~「副」の立場で支える人材。
⑦公に資する普遍的な‘理念’を実行し続ける力。
⑧縁と絆の多様なネットワーク。
⑨老舗は地域文化の担い手、バロメーター。
⑩しなやかに、かつたくましく変化を乗り越える「守成」の精神。
なお、これらは現在のビジネスにおいて殊更指摘されるまでもなく、江戸時代に興った大店の経営理念と経営法を総集成した大著『商売繁盛大鑑~日本の企業経営理念〈全24巻〉』〔足立政男ほか編/同朋舎出版〕に遡ることができます。(了)
「家族経営=老舗」とは言えないまでも、それが老舗の柱の1つになっていることは事実でしょう。『日本のファミリービジネス~その永続性を探る』〔ファミリービジネス学会編/中央経済社〕は、豊富な事例をもとに、家族経営企業が世界一多い日本型ビジネスの特性や、“業魂”継承の戦略を明らかにしています。
『老舗の訓(おしえ) 人づくり』〔鮫島敦/岩波書店〕は、その点をさらに掘り下げています。守る当主と、攻める当主。伝統を継承する覚悟と、革新を断行する勇気。先代と後継者のせめぎ合い。家訓や暖簾を受け継ぐためのノウハウ。人から人へ“業魂”を受け継いできた物語が、当事者の声をもとに紡がれています。
『なぜあの会社は100年も繁盛しているのか~老舗に学ぶ永続経営の極意20』〔前川洋一郎/PHP研究所〕では、次のような内容を通じて永続経営の秘訣を明らかにしています。
①ゴールなき駅伝のようなたすきリレー。経営者はたすきの繋ぎ役。
②理と情を乗り越えた家伝・社伝の受け渡し。
③伝統・信用・団結・共生のシンボル‘暖簾’を守り、受け継ぐ心意気。
④美しい木姿となるための絶え間ない剪定。
⑤不易流行~自発的な進化変身と価値創造の継続。
⑥番頭さんと女将さん~「副」の立場で支える人材。
⑦公に資する普遍的な‘理念’を実行し続ける力。
⑧縁と絆の多様なネットワーク。
⑨老舗は地域文化の担い手、バロメーター。
⑩しなやかに、かつたくましく変化を乗り越える「守成」の精神。
なお、これらは現在のビジネスにおいて殊更指摘されるまでもなく、江戸時代に興った大店の経営理念と経営法を総集成した大著『商売繁盛大鑑~日本の企業経営理念〈全24巻〉』〔足立政男ほか編/同朋舎出版〕に遡ることができます。(了)
該当講座
【アペリティフ・ブックトーク 第44回】
業魂を繋ぐ~日本の老舗、名店 (19:15~20:45)
ライブラリーフェロー・澁川雅俊が、さまざまな本を取り上げ、世界を読み解く「アペリティフ・ブックトーク」。
44回目となる今回は、様々な業種における“老舗”をテーマに、古くより続く事業を今に継ぐ仕組み・その展開を、関連書籍と共に紐解きます。
業魂を繋ぐ~日本の老舗、名店 インデックス
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第1章 日本は世界一の「老舗大国」
2018年06月13日 (水)
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第2章 老舗菓子屋が刻んできた革新の歴史
2018年06月13日 (水)
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第3章 老舗の甘み・辛みは相半ば
2018年06月13日 (水)
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第4章 心とからだの健康に貢献する老舗
2018年06月13日 (水)
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第5章 老舗の老舗たる由縁を語る本
2018年06月13日 (水)
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