記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第10回
そもそも“人”とは何か?
気鋭の研究者が読み解く「ポストヘルス時代」の生き方
更新日 : 2017年07月19日
(水)
第5章 最新のサイエンスやテクノロジーを伝えること
健康の中心軸とは?
丸幸弘: 将来的に「健康が当たり前」の時代は確実にやってくる。しかし、そもそも論を始めれば、どのような状態を「健康」と捉えるのか、その基準、中心軸は定まっていないような気がします。
山田拓司: トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭に、「幸せな家庭はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」という一文が登場しますが、腸内環境においては「幸せ」の形はたくさんあります。例えば、日本、パプアニューギニア、イヌイットの食生活は全く異なりますが、それぞれに安定した腸内環境を持っている。
つまり、腸内環境における最適な健康状態は、その人が生活する環境の中で決まる可能性が高いです。旅行先でその土地のものを食べると、お腹をこわすことがあります。しかし数カ月、あるいは数年過ごせばこわさなくなるはずです。それは環境に適応していると考えることができるから。
丸幸弘: 「食」は僕たちの身体に影響を与える最たる環境要因ですよね。例えば、日本に暮らす僕はどのような食事をとれば健康になれるのか? アメリカやブラジルに行ったらどうか? その「答え」は出せますか?
山田拓司: 腸内環境に関してなら、将来的には答えが出せると思います。平均体温のように、自分の「平均腸内環境」のデータを継続的にとり、その結果に日々の食生活をフィットさせていけば、健康な状態を維持できるようになるはずです。
丸幸弘: なるほど。仲木さん、健康の中心軸とは?
仲木竜: エピゲノムの発想で何が中心軸なのか、何が最適なのかを考える上では、環境と同じく、老化など移り変わる要素を念頭に置く必要がありますね。老化も個人にとってはマイナス要素ですが、個と全体の調和といった意味では必要なことだと思います。
丸幸弘: 老化と言えば、人生100年時代になれば、社会的な指標としての実年齢はあまり意味をなさなくなるような気がしています。その代わりに、肌年齢や血管年齢などのように「ヒューマノーム年齢」が新たな指標として使われる時代が来るかもしれない。
例えば、「君は39歳だけど、ヒューマノーム年齢は29歳だから、ヒューマノーム年齢60歳(実年齢は70歳)まで働けます」といった話がなされるかもしれない。新たな指標ができれば、生活スタイルや考え方はガラッと変わり、たとえ実年齢が高くても、新しいことに挑戦するハードルも低くなると思います。
議論ができる「基本的な土壌」づくり
丸幸弘: 最近話題のCRISPR-Cas9のようなゲノム編集技術から、例えば「120歳まで生きられるセット」のようなサービスがつくられるかもしれません。健康や長寿が当たり前になることで、今までになかった議論、あるいはビジネスが生まれる可能性は非常に大きいですよね。
高橋祥子: 生物の基本的な目的は、個として生き延びる、そして種として繁栄することですよね。今後、誰もが120歳まで生きられる時代が来れば、個として生き延びる目的は満たされてしまう。そうなったとき、今度は種として繁栄していく部分をどう考えていくのかが論点になると思います。
丸幸弘: 生命科学に関する研究はいま、ものすごいスピードで進化し続けていますが、人間に関する色々なことが分かりすぎてしまうことで、倫理的に判断が難しい問題も出てくると思います。
高橋祥子: 「倫理的にOK/NG」については、それを議論する集団の総意で決まるため、合意を得るまでに時間がかかります。しかし、根本的な問題として、議論する人や決定権を持つ人自身が、対象について理解できていなければ、有効な答えは得られない、ということがあります。「そもそも、遺伝子って何?」といった状態から、議論ができる基本的な土壌をつくりあげていくために、教育や啓発にも力を入れていくべきだと思います。
丸幸弘: リテラシーについては、研究者にも責任の一端はあると思います。我々研究者にしか見えない世界があり、それを日常生活と結びつけて説明することをしているのか? 研究成果や新たに生まれたテクノロジーによって、どのような社会課題が解決できるのか? 研究者自身が立ち上がり、最新のサイエンスやテクノロジーについて分かりやすく伝える活動を行っていかない限り、リテラシーの溝は埋められません。まさに今回のようなセミナーは、そのための第一歩になるものだと感じています。
高橋祥子: 生物の基本的な目的は、個として生き延びる、そして種として繁栄することですよね。今後、誰もが120歳まで生きられる時代が来れば、個として生き延びる目的は満たされてしまう。そうなったとき、今度は種として繁栄していく部分をどう考えていくのかが論点になると思います。
丸幸弘: 生命科学に関する研究はいま、ものすごいスピードで進化し続けていますが、人間に関する色々なことが分かりすぎてしまうことで、倫理的に判断が難しい問題も出てくると思います。
高橋祥子: 「倫理的にOK/NG」については、それを議論する集団の総意で決まるため、合意を得るまでに時間がかかります。しかし、根本的な問題として、議論する人や決定権を持つ人自身が、対象について理解できていなければ、有効な答えは得られない、ということがあります。「そもそも、遺伝子って何?」といった状態から、議論ができる基本的な土壌をつくりあげていくために、教育や啓発にも力を入れていくべきだと思います。
丸幸弘: リテラシーについては、研究者にも責任の一端はあると思います。我々研究者にしか見えない世界があり、それを日常生活と結びつけて説明することをしているのか? 研究成果や新たに生まれたテクノロジーによって、どのような社会課題が解決できるのか? 研究者自身が立ち上がり、最新のサイエンスやテクノロジーについて分かりやすく伝える活動を行っていかない限り、リテラシーの溝は埋められません。まさに今回のようなセミナーは、そのための第一歩になるものだと感じています。
該当講座
六本木アートカレッジ 「そもそも“人”とは何か?」
丸幸弘(リバネス)×山田拓司(メタジェン)、仲木竜(Rhelixa)、高橋祥子(ジーンクエスト)
10回シリーズの最終回のテーマは「人とは何か?」です。医療分野のテクノロジーの進化により、様々な病気について、治療はもちろん予防も現実的になってきています。その結果、健康に対する考え方、生命観も問われ始めています。今回は、「ポストヘルス時代」における人のあり方を思索する研究所、ヒューマノーム研究所の若手研究者をお招きして、そもそも「人とは何か?」について多様な観点から議論します。
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第10回
そもそも“人”とは何か?
インデックス
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第1章 最先端の知を集め、「人とは何か?」を探究する
2017年07月18日 (火)
-
第2章 ジーンクエストの遺伝子解析サービス
2017年07月18日 (火)
-
第3章 「ゲノム×ものづくり」で世界をリードする
2017年07月18日 (火)
-
第4章 “茶色い宝石”で病気ゼロの社会へ
2017年07月19日 (水)
-
第5章 最新のサイエンスやテクノロジーを伝えること
2017年07月19日 (水)
-
第6章 我々がどうなりたいか、そこに答えがある
2017年07月19日 (水)
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