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六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第10回
そもそも“人”とは何か?

気鋭の研究者が読み解く「ポストヘルス時代」の生き方

更新日 : 2017年07月19日 (水)

第4章 “茶色い宝石”で病気ゼロの社会へ

山田拓司(株式会社メタジェン 取締役副社長CTO)


腸内細菌の可能性を拓くメタジェン

山田拓司: 高橋さんがゲノム、仲木さんがエピゲノムときて、僕たち株式会社メタジェンが扱うのはもっと具体的に目に見えるもの、かつ非常に身近なもの。私たちが日々排せつする「便」です。

私は長年細菌を研究してきましたが、そのベースとなっているのが「バイオインフォマティクス(生命情報学)」です。ヒトゲノム解読が行われていた2000年前後、生物学の世界でも桁外れのデータを扱うようになり、コンピュータを基にした情報学を駆使しなければ、データの整理・解析ができなくなりました。その黎明期から携わり、現在は独自に開発した腸内環境評価技術を使い、健康情報の宝庫である「便」を起点にした様々な事業を展開しています。

私たちの身体の中には多種多様な細菌が生息しています。その数は約1,000種類、約100兆個とも言われており、重さで言えば約1.5kg。そして、その大半が大腸にいます。人間の細胞が約37兆個ですから、結構な数ですよね。人間とは別の生き物でありながら、これだけの数がいれば、もはや人間と細菌は一心同体と言えるかもしれません。

元々、腸内細菌は微生物学の分野で研究されていましたが、2004年頃、微生物を直接的かつ網羅的に解析できる革新的な研究手法「メタゲノム解析」が登場したことで、常識がひっくり返るようなブレークスルーが起こり、一気に研究が加速しました。

そうしたこともあり、近年、腸内細菌が私たちの健康や様々な病気に関わっていることが分かってきました。例えば、大腸がんなど腸の病気はもちろん、自閉症やアレルギーなど一見関係がなさそうな病気についても、実は腸内細菌が関わっている可能性があると言われています。こうしたメカニズムが分かれば、日々の健康、病気の治療や予防にも役立てることができるわけです。

ならば、私たちは何をしているのかと言えば、例えば、食品、飲料、製薬などの企業と協力し、彼らの製品が腸内環境にどのような影響を与えているのかを解析することで、新たな効能を見つけたり、新商品の開発に役立てたり、といったサービスを行っています。また、これらの共同研究を通じて、日本人の腸内環境に関するデータベースも作成しています。

皆さんが毎日いらないものとして流している便は、実は情報の宝庫であり、バリューです。腸内環境は人それぞれ異なり、また、食べる物によっても様々に変化します。便を解析すれば、個々人の腸内環境が分かり、テーラーメイド医療のように個人に合わせた健康や病気の予防方法がつくり出せるはずです。だからこそ、私たちは敬意を込めて“茶色い宝石”と呼んでいます。

私たちの最終的な目標は、世界中から便を集め、それらを調べることで一人ひとりに最適なソリューションを提供し、「病気ゼロの社会をつくる」ことです。腸内細菌の研究はようやく端緒に立ったばかりで、大きな可能性を秘めています。最先端技術をベースにその可能性を広げ、社会に役立つ新たなソリューションを提供していきたいと考えています。

該当講座


六本木アートカレッジ 「そもそも“人”とは何か?」
六本木アートカレッジ 「そもそも“人”とは何か?」

丸幸弘(リバネス)×山田拓司(メタジェン)、仲木竜(Rhelixa)、高橋祥子(ジーンクエスト)
10回シリーズの最終回のテーマは「人とは何か?」です。医療分野のテクノロジーの進化により、様々な病気について、治療はもちろん予防も現実的になってきています。その結果、健康に対する考え方、生命観も問われ始めています。今回は、「ポストヘルス時代」における人のあり方を思索する研究所、ヒューマノーム研究所の若手研究者をお招きして、そもそも「人とは何か?」について多様な観点から議論します。


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